LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2007/11/24 西荻窪 アケタの店
出演:明田川荘之
(明田川荘之:p)
「そろそろやろうか」
0時20分を回ったころすっと客電が落ち、明田川荘之がピアノへ向かった。
ごく自然な始まりの、月例深夜ライブ。ところが演奏は、いつになくごつっとハードな印象あり。
足元にオカリーナを準備していたが、珍しく一曲も吹かず。曲紹介のMCもなく、ひたすらピアノを叩きのめした。
<セットリスト>
ロマンテーゼ
シャイニー・ストッキング
世界のめぐまれない子供達へ
4.ダウン・イン・ブラジル
5.マジック・アイ
6.プレース・エバン
7.You'd Be
So Nice To Come Home To
8.りぶるブルーズ
終演後、明田川さんに頂いたセットリストより引用。数年前から月例深夜ライブでは、手元に曲順メモを置きライブを進める。なおここ数年は構成まで決め、ライブへ臨んでいるみたい。ぼくが深夜ライブを聴き始めた00年頃は、その場で曲順を決めてた気がする。
基本的にオリジナル曲で構成。(7)はコール・ポーターの曲かな。(4)も明田川のオリジナルだろうか。
まず"ロマンテーゼ"から。滑らかなメロディラインのワルツだが、冒頭から硬質なタッチで鍵盤を叩いた。イントロから性急にテーマへ向かう。左手がランニングしつつ、優雅さよりパワーを強調した。
テンポをせわしなくぐいぐい揺らしながらアドリブへ。ペダルをほとんど踏まず、前のめりなムードで。どこか一音、ピアノ線がびいんと共鳴していた。
そのままメドレーで(2)へ。ほとんど聴いた記憶のない曲。
これもアップテンポで押す。リズムに乗って聴いてたが、ときどきつんのめる。フレーズの終わりで1拍抜いてるような雰囲気だった。
ペダルの踏みは幾分多め。力あふれる演奏だった。
切ないメロディの(3)でも、がらっぱちな勢いをどこか残す。冒頭でぱららっと軽く内部奏法でピアノ線をなぞった。
テーマからアドリブが混在し、リフレインを残しつつ奔放にフレーズが展開した。このあたりからうなり声がぐいぐい滲み、顔が赤く染まりだす。左足はせわしなくリズムをとったまま。
バラードながらテンポは雪崩れ、押し寄せた。
(4)もまた、あまり聴き覚えないメロディ。曲名見ると幾度か深夜ライブで、聴いた記憶あり。しかし今夜は曲名思い出せず、新曲かと誤解してた。
軽快なフレーズが内部奏法交じりに展開する。旋律の合間で、小刻みにピアノ線を内部奏法で爪弾き、低音部を軽くはたく。
すっかり演奏へ没入し、アドリブが独自の世界観で広がった。
グルーヴがうねっても、テンポはルバートが頻出。ソロピアノこそのアレンジだ。
(3)あたりから、各曲10分くらいかけてじっくり演奏した。
曲間も短く、立て続け。(1)と(2)はメドレーで。ほかも拍手を持たず、メモをつまんでちらり見ては、すぐ次へ向かった。
続く"マジック・アイ"が圧巻。
今夜は比較的短め。10分強くらいか。粘っこくテーマが展開し、ブレイク。
力のこもったメロディが硬質に決まり、間をおかず次へ向かった。
洋酒のCMにはまりそう。のんきなことを、改めて頭へ浮かべながら聴いていた。この曲はテーマの途中で和音が移り、色合いががらりと変わる場面が好き。
アドリブはテーマと混在しながら。テーマの終わりでブレイクする、独特のタッチを生かしながら進む。幾度もテーマが姿を見せ、崩れて行った。
歌つきの曲みたいな幻想が浮かぶ。フレーズの繰り返しで紡ぐ器楽的な旋律だが、歌付きで明田川の親子デュオでも聴いてみたい。
ハードなタッチは変わらないが、明田川の独特なロマンティシズムが炸裂したのが"プレース・エバン"。唸りながらピアノを弾きつづけた。
これも聴き応えある良い演奏。
みずみずしく音が膨らむ。ペダルを多用し奏でるアドリブは、前のめりが続く。
ゆったり広がる場面ですら、性急さを滲ませた。とつとつとした音使いな即興は溢れ続けた。
情緒が滲む。振るえながら旋律が動いた。左足は力強く床を踏む。和音が次々と打ち鳴らされた。
セットリストには記入された(7)は、なぜか記憶に残っていない。メドレーで演奏かな。タイトルからメロディは浮かばない。どのくらいライブで演奏してる曲だろう。
「最後の曲だから、なんかリクエストあります?」
ふと、明田川が観客席へ呼びかけた。そして"りぶるブルーズ"を採用。「大曲だなあ」と言い添えて。
ロマンティックな風景を想像したが、冒頭から強いタッチ。
アドリブの即興で、クラスターっぽいフレーズをいきなり混ぜた。少々長めのイントロから、テーマへ向かう。目を閉じたまま、きれいな旋律をふくよかに奏でた。
幾度かテーマを提示しつつ、即興へ雪崩れた。やにわにクラスターを。アドリブが続きながら、次第にクラスターの比率が高まった。
エンディングのテーマの予感を保ちつつ、がんがんと鍵盤を叩きのめす。肘打ちから乱打へ。それでもテーマの和音感覚を残し続けた。
ぱっと弾きやめ、唸りながらピアノを押すしぐさ。一度、二度と。次の瞬間、コーダの和音の風景をさらりと見せる。
肘打ちが踵落しへ。ついにエンディングのフレーズへ向かった。切なく雄大に広がるテーマはクラスターの混載とどっぷり詰まって向かった。
猛烈なクラスターの連発で締めることが多い。だが今夜は、唐突にクラスターが止む。
音数をぐっと減らし、軽やかに鍵盤をいくつか叩いた。"りぶるブルーズ"の終わり方ともちょっと違うアレンジのような。
音を遊ばせるかのように、短い音で数音。軽く叩いて、ぱっと幕を下ろす。風変わりなエンディングだった。
しめて約70分。比較的、短めのライブかな。とはいえ冒頭から最後まで、テンション高く弾きのめす濃密な仕上がり。
荒削りなタッチで情感も詰め込む、豪快な濃さが楽しかった。