LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2007/11/11 吉祥寺 武蔵野公会堂
出演:第2回ピアノ舞踏会
(千野秀一、パク・チャンス、宝示戸亮二、工藤冬里、高瀬アキ、三宅榛名、黒田京子、新井陽子:p)
グランドピアノ2台の連弾でデュオにて即興をを繰り広げる、"ピアノ舞踏会"の2回目。仕切りは千野秀一らしい。ピアノ2台のセッションは、なかなかない機会だ。
前回を聴き逃したため、楽しみに向かった。冷たい雨がしとしと降る寒い夜。傘を持っておらず、濡れつつ会場へ。えっらい冷えた・・・。
ホールでの演奏。開場後に座ったら、空調の風が首筋をくすぐり風邪引きそう。
ステージは緞帳が下りている。1ベルが鳴った。
緞帳の後ろに人の気配がする。そろそろ始まるかな。いきなり無造作に、ぽろぽろとピアノのランダムな音が響いた。そして玩具の鳴る音。
客電が落ちず、2ベルも鳴らない。しばし音楽が幕の後ろから聴こえる。
ゆっくりと幕が開き、コンサートが始まった。
<セットリスト>
1.高瀬アキ☆宝示戸亮二
2.新井陽子☆パク・チャンス
3.三宅榛名☆工藤冬里
4.黒田京子☆千野秀一
5.All
Girls
(休憩)
6.黒田京子☆工藤冬里
7.新井陽子☆宝示戸亮二
8.高瀬アキ☆千野秀一
9.三宅榛名☆パク・チャンス
10.Girls
&
Boys
セットリストは開演前に配布チラシより引用。
デュオの順列組合せが決まっており、それぞれ10分前後弾く。各セット最後に多人数でのセッションとなった。各セッション寸前のデュオは、少々長め。
ライブを見たことあるのは千野秀一と黒田京子のみ。事前にCDを聞いたのは宝示戸亮二だけ。あとは初めて音楽を聴く。
ステージはグランド・ピアノが2台。向かって右側がヤマハ、左側がスタインウエイ&サンズ。ステージ中央へ幕を下ろし、舞台スペースをこじんまりとった。
中央を互いに指し示すようにピアノが設定され、奏者の手さばきは良く見える。
しかし奏者の表情は逆に伺いづらい。グランド・ピアノのセッティングは難しい。
どういう向きがステージとして、聴き手側は嬉しいだろう。手さばきも見たいし、表情も見たい。一つの視点で両方を収めたい。向かい合わせでセッティングかな。
全員がフリーなアプローチで、コード物は皆無。パーカッシブな演奏に、ときおりバロック風味が混ざる音像展開が目立った感あり。
高瀬アキ☆宝示戸亮二
幕開けは前述のとおり、幕が開く前から演奏が始まっていた。
硬質なタッチでピアノを叩く高瀬。宝示戸はグランド・ピアノの周りに小物をいっぱい準備し、賑やかに鳴らした。
フリーなアプローチで鍵盤を鳴らす高瀬へ、飄々と宝示戸が向かう。デンデン太鼓を鳴らし、ピアニカをランダムに両手で弾く。ピアノの前に宝示戸は座らない。
ハイヒールで踏み鳴らすように、高瀬の強いタッチ。ステージ中央へピアニカを吹きながら、宝示戸が歩き寄った。
ひとしきり吹いた後、おもむろに宝示戸が鍵盤へ。今度は高瀬が宝示戸のピアノへ近づく。デンデン太鼓を興味深そうに持ち、軽く鳴らしながら自分のピアノへ戻った。
お互いが弾かず、中央で向かい合い床を踏み鳴らすシーンも。
あえて噛み合わぬ音世界を狙ったかのよう。けっこうあっけなく終わり。
黒田京子がこの辺りで、さりげなく観客席にスタンバイする。
新井陽子☆パク・チャンス
パクが低音部をガツンと叩く。幾度も、あるテンポ感を踏まえて。
いっぽう新井は柔らかなタッチで、クラスターやフリーな弾きっぷり。タッチが柔らかいのか、パクが弾きはじめたら新井の音が埋もれてしまう。
パクは椅子を斜めにさせながら、力強く奏でた。スピーディかつ芯の強い響き。
互いの音を聴きながら、テンポや展開をむやみに合わせない。硬なパクと軟の新井か。
低音を強調するパクは、インダストリアルな要素すらイメージした。二人の音楽が噛み合い、刺激的な世界が作られ耳をそばだてる。
ひとしきり弾いた後、パクは手を止める。弾かずにじっと新井を見つめた。
コロコロと軽やかに新井が奏で続けた。
ふっと音が消える。見詰め合って、終わりを確認しあった。弾かずに存在感を出すパクの凄みを感じた。
三宅榛名☆工藤冬里
まず三宅が登場し、滑らかに弾き始めた。工藤は軍手姿にて。ピアノ線を手に持ち、本を片手に現れた。三宅のフリーなピアノをバックに、足元へ本を置いて朗読を始める。ピアノの歴史に関する本みたい。
端正で緊迫感ある三宅のピアノにのって、屈みこみ強い調子で独白する工藤の様子は、前衛劇かのよう。
一区切りついたところで、手に持ったピアノ線を観客へ示し「ピアノ線です」と、一言。今までのテンションとガラリ変わったのんきな様子に、笑いが漏れる。
工藤はピアノを僅かに弾いた程度。続いて手に持ったピアノ線を、三宅が弾くピアノの足へくくり始めた。
「何してるのかね」って表情で、弾きながら三宅が覗き込む。手は休めない。
工藤はピアノ線を引き絞り、噛み付いた。千切ろうとしてるのか。さすがに果たせず、そのままパフォーマンスは終わった。
黒田京子☆千野秀一
千野と黒田は客席から登場した。まず千野。セーターを脱ぎ、ヤマハの横に置いた椅子へかける。逆から登場した黒田は、かばんを舞台袖へ置いた。
そのままピアノへ向かうかと思いきや、互いにステージを横切る。千野がスタインウェイ、黒田がヤマハへ座った。
千野は長い足を高々と組み、寛いだ面持ちで鍵盤を撫ぜるように弾いた。
奔流のようなピアノ対決を想像したが、むしろ千野は抑え目。静かに鍵盤を叩く。黒田が早いフレーズをまず提示した。お互いにタッチは柔らかい。
黒田は視線を千野へ向け、アンサンブルをかなり意識したかの印象あり。
次第に千野の手数が多くなる。クラスターを織り交ぜ、ふわふわと指先が鍵盤を踊った。
テンポもリズムも無いフリーなポリリズムだが、緩急は滑らかに揃った。10分以上にわたる、長めのセッション。相性良く盛り上がり、軽やかに抽象的なピアノが絡み合った。
All Girls
女性陣の連弾が二組。高瀬と三宅がスタインウェイ、黒田と新井がヤマハへ。
スタインウェイ組が、初手から猛烈に飛ばした。激しいタッチで叩きつつ、華麗な雰囲気をかもし出す。やがてバロック風味の即興が飛び出した。
ヤマハ組はパーカッシブなプレイやクラスターで応酬するが、スタインウェイ組はどんどん疾走する。
くっきりした旋律を操りつつ、頻繁にフリーな要素をもたらすスタインウェイ組のアドリブは圧巻だった。ヤマハ組は途中から並列的に鍵盤を鳴らす。
あえて内部奏法へ向かわず、まっこうから連弾を続ける四人の姿勢が鮮烈な即興となった。
ポリリズムの展開は、小節感覚が無いゆえに混沌。しかしスタインウェイ組の構築性が即興の芯を作る。
演奏途中で互いに高音と低音部の入れ替わりも行い、満遍なく4人の指使いを披露した。前半は50分くらい。ここで休憩。
黒田京子☆工藤冬里
後半は違う組合せで。黒田がまず弾きはじめる。工藤はいきなり叩く。黒田が主導権をとったろうか。
あえて滑らかさを狙わず、タイトな即興を狙ったと思う。
途中で工藤が弾きやめ、去っていったのがここだったか。絡み合いよりも、黒田が弾き続けた印象あり。
かといって黒田もメロディ路線へ向かわない。ルバートを多用し、音像を浮遊させる。ロマンティックな要素はあえて消したか。
新井陽子☆宝示戸亮二
新井はステージ中央へ布を敷き、正座で観客へ一礼。トイピアノを持ち込み、ぽつぽつと鍵盤を叩く。
一方で宝示戸はさまざまな玩具を鳴らしたり、発泡スチロールや小物でプリペアード・ピアノを作ってゆく。ペダルに何かを挟み、残響も出した。
演奏スタンスが非常に象徴的だった。音の響きは面白い。しかしあえて、このシチュエーションで取るアプローチだろうか。
グランド・ピアノを2台で弾く機会はめったに無い。だからこそ奏者はグランド・ピアノのみに向かい合い、互いの個性をぶつけ合って欲しかった。
とはいえ響く音はピアノ2台よりもバラエティに富み、風景は多彩に鳴る。つまり音楽として華やかなのは確か。
せっかくの機会をもっと濃密に使って欲しい思いと、音楽としてバラエティさを求める気持ちが相反する、聴きながら色々考えたデュオだった。
ちなみにピアノ同士の演奏も、無論あり。最後まで宝示戸はプリペアードで弾いた。発泡スチロールを噛ませたピアノは、歪んだ響きが面白かった。
最後も新井はステージ中央の布へ正座し、丁寧に観客へ頭を下げた。
高瀬アキ☆千野秀一
高瀬はヤマハへ向かう。片付け切れなかった宝示戸の小物を、横の椅子へ一つ一つ、丁寧に置いてゆく。
たっぷり時間をかけてピアノの上をきれいにした後、鍵盤を強く叩いた。
千野は高瀬の様子を伺いながら次第に音数を増やす。ここでも高瀬はバロック風のきれいな旋律をフリーの合間に盛り込んだ。
緊張感あるバトルっぽいデュオが聴けた。ぐいぐいと高瀬はサウンドを引っ張り、千野もすいすいと細かなフレーズを弾き続けた。濃密な渡り合いが聴き応えたっぷり。
三宅榛名☆パク・チャンス
パクと三宅、二人はピアノの前に座ったまま静寂を保つ。お互いに音を出さない。
ついにパクが、指を鍵盤へ乗せた。すっと背筋を伸ばした姿勢がきれいだ。
ある一音を象徴的に使い、ここまでのセッションでもっとも不協和音の少ないデュオだった。鮮烈な鍵盤の応酬の合間に、幾度もある一音が象徴的に鳴らされる。
かっちりと涼しげな即興が滑ってゆき、軽やかにまとまった。
Girls & Boys
全員による即興。まず千野が現れ、ヤマハの前に座る。ひとしきりソロ。おもむろに現れたのが新井だった。
何も決め事なしか。一人、また一人ステージに現れて弾く。すいと去ってはまた、現れる。宝示戸は小物を持ち、鍵盤の周りで鳴らした。風船で笛を鳴らす玩具を使い、ぶーぶーと音を出しながらステージを横切った。
その横で新井はトイピアノを持ちながら、ぽんぽんと鳴らす。千野はパクへピアノを譲り、スタインウエイは高瀬や三宅が弾いた。
黒田が現れ、ステージ横で千野とステップを踏む。そもそも拍子も曖昧な音楽が、3拍子と4拍子が混在するポリリズムで一瞬立ち上がった。
宝示戸が再び小物を鳴らしながらステージを横切る。鍵盤へ向かった黒田が弾きはじめると、いったん袖へ消えた高瀬が登場。デュオへ。
高速フレーズを互いに繰り出し、滑らかながら抽象的な音列が飛び交った。
それまで姿を見せなかった工藤が、手にピアノ線と弓をもって登場。二つのピアノの足にピアノ線を巻きつけ始める。新井はピアノ線の端を持って、延ばしながらステージの袖へ向かった。
なんとか幾巻きかさせたピアノ線へ工藤が寝転がったまま弓でこするが、さすがに音は聴こえづらい。
鍵盤はパクが弾いてたときかな。次々に宝示戸は小物をピアノの下へ蹴り飛ばした。
黒田はピアノの横に立ち、興味深げに宝示戸の小物を持つ。ゴルフ・クラブを入れるプラスティックの網ケースを持ち、軽く振った。
全員がステージへ登場し、ごちゃごちゃに音が入り乱れた。こうこうと明るいステージ上で音が鳴り続けるまま、幕がゆっくりと下りた。約1時間強のステージ。
拍手のなか、再び幕が上がる。アンコールは無く、千野が出演者を簡単に紹介してコンサートは終わった。
内部奏法やピアノのボディ叩き、鼻歌や小物などさまざまな付帯要素を織り交ぜつつ。コード進行や譜面を前面に出した即興は、全員が志向しなかったようだ。
デュオにしても事前に進行は相談なさそう。あくまで即興の一環で、向かい合ったか。
音程を揃えて整然さを出しやすいピアノ2台の演奏にもかかわらず、全員がノイズ的な方向性を示したため、個性が埋もれ気味な気もした。
だからこそ高瀬や三宅はバロック風の旋律を入れたか。二人の演奏は今日はじめて聴いたため、普段の演奏はわからない。
少なくとも千野のスピーディなきめ細かいアドリブの駆け抜けや、ロマンティックな旋律が噴出する黒田の構築性は、今日の演奏では見えづらかった。
即興はすなわち無秩序の羅列でなかろう。手癖や勢いを超えてこそ滲むのが、個性であり音楽性ではないか。今夜の演奏を目を閉じて聴いたとき、ぼくは誰がどの音を出したか、後で聴き分けられるだろうか。小物を多用した宝示戸はさておいて。
演奏として刺激はいっぱい。小節やリズムは解体され、ポリリズム的な応酬が頻出した。
さらに新井/パクの鮮烈さ、黒田/千野の鋭さ。三宅/パクの滑らかさ、新井/宝示戸のユニークな響き。そして"All
Girls"での高瀬/三宅の猛烈さ。個々のセッションでの聴き所も多数。とても楽しめた。
音楽を聴きつつ色々な考えが頭に渦巻く、興味深いライブだった。