LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2007/11/4 渋谷 公園通りクラシックス
出演:深水郁
(深水郁:p,vo)
福岡中心に活動する、深水郁の単独東京ライブ。名称がひらがなから漢字へ変わってた。
昨年9月、同所での初ワンマンぶりに聴く。この1年間に数度、東京方面でライブあったが全て行き逃してた。
開演時間をちょっと押し、黒いシックなドレス姿の深水が登場。開演時間が17時半と早い。日曜だからと、あえて前倒しで時間設定したそう。
寛いだ表情で、まず"コイゴコロ"を歌いだす。いきなりこの曲とは。好きな曲で嬉しい。
ピアノを指を伸ばし弾きつつ、丁寧な演奏で歌を一通り。声に張りをこめ、優雅に。以前より、あっさりと節回しを料理した。
マイクをついっと前へ押す。
ピアノのアドリブへ向かった。柔らかく弾くテーマが次第に変奏され、幾度もテーマが提示される。アドリブとテーマが混在の即興スタイル。
ひとしきりピアノが奏でられ、さりげなくコーダへ。
そのままメドレーで"初蝶の一夜寝にけり犬の椀"に行った。小林一茶の句をタイトルにした曲。今度はインストを弾く。テーマを常に匂わせるアレンジはこの曲でも聴けた。
<セットリスト>*注
1.コイゴコロ
2.初蝶の一夜寝にけり犬の椀
3.歌のまぼろし燃やし燃やし
4.レンギョウ
5.水無月
6.こがれ
7.氷の魚
(休憩)
8.大きな青い・・・
9.空のうら
10.大鷹の森
11."かりんとうの歌"
12.魚の話なんかやめて
13.kikuchi
(アンコール)
14.みたされてゆく
*ふかみあやさんにご教示いただきました。ありがとうございます。
前半の(6)や後半の(10)、アンコールの(13)は今回、初めて聴く。前半は2曲づつ連続で演奏され、合間に曲紹介と丁寧なMCが入った。リラックスした雰囲気の演奏に比べ、喋りではちょっと緊張した感触。
地元の蔵元でライブ演奏の機会があること、などを観客へ向き直って話す。
「「もやしもやし」は食べ物のモヤシですか、と聞かれるんですよ。残念ながら違います」
そんな前置きで歌われた"歌のまぼろし燃やし燃やし"。
前半の歌ものでは、ここから2曲が、ぴんっと張り詰めたテンションが心地よかった。
日本情緒を漂わせる節回しが、ビブラートを効かさぬ真っ直ぐな歌声で紡がれる。ハイトーンもきれいに響いた。
ピアノの演奏も僅かにリバーブがかかり、店内へふうわりと広がる。続くインストの"レンギョウ"も、テーマと変奏が混在して舞うような演奏だった。
インストの"水無月"は演奏前にすっとマイクを、前へ伸ばす。
鍵盤がくっきりと叩かれた。端正な面持ちで、おっとりとした空気。
ボーカル曲とインスト曲を交互に弾くセットリストを選んだ。2曲がメドレーなため、一つの曲に紡ごうとする印象も浮かぶ。
1stセット最後の"氷の魚"で、ついに"彌生弾き"が投入された。彼女独特の、こぶしを転がしながら、鍵盤を鳴らすクラスター奏法。
ボーカル部分は無く、インストで演奏された。
アドリブは長めに取られ、"彌生弾き"が次々と。低鍵盤からぐりぐりと両手で駆け上がり、そっとテーマへ。それを幾度も積み重ねた。
軽やかなグリサンドも折込み、音使いは混沌。しかし根本のところで上品さを保つ。テンションをあげず、フリーに弾き倒す姿が独特だ。
クラスターのスピードが緩やかで、グリサンドやテーマ弾きを巧みに混ぜるため、轟然さは感じない。木目細かさが滲んだ。
ここで休憩。30分程度と、短めのセット。
後半セットは歌物の"大きな青い・・・"から。メドレーで"空のうら"へ続く。
"大きな青い・・・"は声を張り上げる部分が、前よりもスケール大きくなった気がする。ルバートの部分も、穏やかに制御された。ためをさりげなく操り、曲を紡ぐ。
ここでもクラスターを僅かに取り入れたアドリブを披露した。
インストの"大鷹の森"も、じっくりとピアノを。テーマと変奏が混在するアドリブは自然さを増し、流麗に展開した。
指先をピンと伸ばし、撫でるように柔らかく鍵盤を弾いた。
ルバートをさりげなく取り入れ、すぐさまインテンポに戻る。明確なテンポのキープでグルーヴを狙わず、流れるようなアレンジを採用した。
シンプルでコミカルな歌詞の"かりんとうの歌"は、サビの部分で情感を複雑に増す。
鍵盤を軽やかに押さえ、深水は歌い上げた。シンプルなメロディラインが、サビでくいっと華やかに。
続いて"魚の話なんかやめて"。もうエンディングか、と思う。過去に幾度か聴いたライブでも、締めに選ばれたから。
「この曲弾くと、終わりの気分ですが」
MCで深水が微笑みながら喋る。
中盤の無伴奏部分は無くなり、全てピアノ伴奏つき。ワルツ形式のアレンジ。
ここまでで20分程度。次で最後の曲、と告げられた。もっと聴きたいな。
最後の曲は"kikuchi"。インスト曲で、10分の長尺となった。
訥々としたテーマが、やがてクラスターの海に沈む。
奔放なプレイだが、汗のにおいを感じさせぬ、滑らかなテンションが持続した。
ぐいぐいとアドリブが前のめりに展開し、クラスターとグリサンドが噴出した。
けれども深水は涼しい表情で、次々にアドリブを進行させる。
ふっとペダルを踏みかえ、テーマへ。そして即興に。
エンディングは鍵盤から手を離し、ペダルで残響を響かせた。間を置いて音を宙へ広がらす。余韻が完全に消えるのを待たず、足を上げた。
微笑みながら一礼して、深水はステージを去った。
アンコールの拍手にはすぐさま応える。
「それでは最後に、"みたされてゆく"という曲を」
一言紹介して、深水はマイクを引き寄せた。
短めのイントロから歌い始めた。右手は横へたらし、左手のアルペジオだけ。シンプルな伴奏で歌った。
歌の区切れで右手が鍵盤へ加わり、アドリブへ向かう。さほど長尺にならず、ライブは幕を下ろした。
いきなり空調が強まり、ノイズが噴出す。ライブの静かな空気が、一気に転換した。
前後半で1時間強と、比較的短め。開演時間が早かったので、かなり長尺かもと期待したが、違ったみたい。
一年前と比べて、優美さが増した気がする。ライブの積み重ねによるものか。今後の展開が楽しみ。