LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2007/11/3  吉祥寺 GRID605

   〜"metaphorication vol.1"〜
出演:吉田アミ、new residential quarters、metaphoric

 metaphoricが企画のイベント。ぎっちり満員、異様に空調が効いて暑い。
 予約した観客が全て揃わなず、しばし開演が押す。metaphoricのメンバーは静かにステージで開演を待った。佐々木秀典のPCがうまく立ち上がらないのか、ぶつぶつ言うのがちょっと聴こえた。

metaphoric
(庭野孝之:g、沢田拓也:g、guest:佐々木秀典:pc、間野大介:key&per)

 ゲストが二人の編成。冒頭にリーダーの庭野孝之から、挨拶とイベント出演者のプロフィールを簡単に紹介する。「MCは苦手」と訥々した庭野の喋りへ、ときおり沢田拓也がつっこむのが面白かった。いっそ沢田が喋ってもいいのに。

 metaphoricのふたりはステージ右側、ゲストが反対側へ座る。間野大介は"key&per"と告知あったが、ミキサー卓みたいなシンセ(?)を弾く。佐々木は横に小さなCDプレイヤーを置き、PCで操る形か。
 僅かにPCモニターがのぞける位置で聴いてたが、画面の動きはほとんどわからず。どういう操作をしてたのかな。

 開演が宣言され、静けさが漂う。空調の音が響いてたかもしれない。
 かなり間を置いて、かすかに電子音がぴっと鳴った。

 耳を澄ます。淡々と、間を置きながらシンプルな電子音が幾度か、定期的に鳴る。
 誰が操作してるかすら、わからない。全員が俯いたまま。
 庭野がかがみこんだ。電子音は僅かに音量を上げ、サイクルが早まった。
 スピーカーからか、静かに低音の響きが深まる。じわじわと、ずうんと音が広がった。

 徹底して静かな空間を提示。全体を通じ、目立った展開はほとんど無い。
 電子音がむっくり起き上がっては沈み、鈍い低音や広がりあるシンセの音が、しずしずと幕をあげて伸びてゆく。同一のテンションでゆっくりと音楽が抽象的に進む。
 暑さと体調がいまいちなため、途中から朦朧なまま聴いていた。

 僅かな音の変化があっても、根本の穏やかさは変わらない。観客は静かに音へ耳を澄ます。
 かといって緊張を迫る、奏者からの重苦しさは無い。とはいえ寛がせる隙も与えない。
 ただ、音と向かい合う。ストイックな視点ながら、漂う音は耳に優しい。
 ノイズともテクノとも違う。暗澹たる冷徹な快楽を追求したアンビエント。
 相反するメッセージすらも表面に出さず、ただ、音を奏でた。

 沢田は途中でエレキギターからシールドを抜いてるように見えた。
 ときおりぶつっ、ぶつっとノイズに聴こえた気がする。プラグの先を触って音を出していたのかな。
 
 庭野がふとギターへ金属片らしきものをはさんだ。僅かに音を歪ませて、小音でぷつぷつとフリーなフレーズを弾きはじめる。
 時はすでに30分が経過した後。ここで初めて、音楽が動きを出した。

 フリーなテンポでギターが奏でられ、ときおりぱちんと金属片が弦を鳴らす。
 ゲストの二人は音を消したようだ。沢田も音を止めたように見える。
 庭野だけが淡々とひとしきりエレキギターを弾いて・・・静寂へ。そして、幕。

 音の響きを無造作に広げる、独特の音楽世界だった。今夜は真っ先に演奏だったが、いっそトリで出演して、最後に音世界で圧倒するも面白かったのでは。音楽は最後まで、ひそやかに響いた。40分ほどのセット。

new residential quarters
(吉田悠樹:二胡、牧野琢磨:g)

 自らの音楽を"訥々とした新興音楽"と評す。新興音楽ってなんだろう。検索してもぴんと来ず。初めて聴いたが気持ちいいサウンドだった。

 向かい合ってまず牧野琢磨が力強くギターをかき鳴らす。
 譜面台へはコード譜のみの譜面が幾枚か。フィンガー・ピッキングで、アタック直後に左手が大きくぱっとはじける、独特の奏法。
 ラフな感触でギターが響く。エレキギターはほとんどエフェクトがかかってなさそう。
 二胡を構えた吉田悠樹は、ロングトーンを延々とドローンのように連ねる。リバーブを僅かにかけ、膨らみを出した。
 しばしギターが主体の音楽が続き、ぱっと風景が変わる。二胡が美しいメロディを奏で始めた。
 リバーブはかかったまま、丁寧なビブラートが深く響く。指を震わせ、ゆったりした音使いで二胡を弾いた。

 一曲終わるごとに、牧野はぱっと譜面を下へ投げる。
 即興要素はあまり感じられず。むしろ全てが譜面物のように聴こえた。
 丁寧にテーマを展開する。大陸的な叙情性から、民謡風の力強さへ。ロマンティックで親しみやすい旋律が、切なく響いた。あくまでテンポはゆっくりと。

 牧野の破裂するようなギターが、力強く二胡を支える。
 2曲目からは二胡もリバーブを消し、生音で軋ませた。弓でこすられる弦が、むせび泣くさまが美しい。
 二人は一言も発せず、向かい合ったまま演奏を続けた。

 次々に曲を演奏し、途中のMCも簡単な挨拶のみ。淡々とステージが進む。
 全部で7曲くらいか。
 最後の曲だけ、ふたたび二胡へリバーブがかけられた。アドリブ要素を僅かににおわせつつ、メロディはかっちりと固まっている。

 ゆったり寛いで聴きたい。二胡の情緒をギターが鋭く切り裂く、ユニークな音楽性だった。約30分の演奏。

吉田アミ
(吉田アミ:voice)

 ちゃんとライブを聴くのは初めて。"ハウリング・ボイス"ってどんなだろうと楽しみにしてた。
 ステージにはマイクを一本。サウンドチェックを済ませた吉田アミは、薬を取り出しペットボトルの水で飲み干す。体調崩してたのかも。

 静まり返った観客へ向かい、吉田はマイクへ向かった。喉を軽く手で押さえ、きょきょっ、と声を出した。
 ごく短く。裏声のさらに上。超音波みたいなざらつきを、喉から絞らせる。
 まず、助走のように。僅か声を出しては、すぐにとぎらせて。
 喉をいたわるように押さえる。実際、かなり声帯に負担かかりそうな発声だ。

 無伴奏。マイクへ声をぶつけるパフォーマンスのみ。
 吉田は次第に声を長く伸ばしつつ、針金を引き毟るような声を、断続的に絞り出し続けた。
 ときおり喉を調子を確かめるように、顔を僅かしかめつつ。すぐに声は、次のはるかなる高みへ。短い響きをつっかえながら出す。

 徹頭徹尾、喉によるノイズだけ。メロディや構成は皆無。
 大道芸人めいたアプローチでなく、ノイズ発生器として声帯を捉え真正面からマイクへ向かった。
 コミカルさを廃したステージを、観客は真剣な面持ちで聴きいる。

 15分くらい続いて、唐突に終了。声が次第に高まりかけたところで、脈絡無く一気に終わりを告げた。
 最後はハイトーンの長尺を連発、超絶な展開へ行くと思ったため、正直拍子抜け。

「短すぎるかな。もう一セットやりますね。ウザいって言われたらどおしよ」
 くすりと微笑んだ吉田は、再度マイクへ向かった。
 今度はアプローチを変える。喉をごろごろ鳴らし、超音波ヴォイスに重低音を混ぜた。
 がらがらとしゃにむに声を出すが、無理な発声のためグルーヴまでは至らない。
 しかしワイルドな突き進みをくわえた。サウンドはこっちのセットが好み。
 今度は5分程度。あっさりと終わった。

 しめて20分強。ミュージシャンが登場するごとに演奏時間が減る、逆スライド方式な展開がなんともユニーク。
 三者三様。それぞれが自らの音楽を、あっけらかんと提示するスマートさが興味深いイベントだった。

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