LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2007/10/28    六本木 STB139

出演:Terry Bozzio
 (Terry Bozzio;ds,per)

 テリー・ボッジオ、今年2回目の来日はドラム・ソロ。日本ツアーを敢行し、東京では3days。中日に行った。当日はきれいに満員。300人くらい入ったのかな。

 ドラム・ソロは嬉しいことに、フルセット。骨組みは背後へ高々と上がり、最長で3メートルくらいか。要塞のようなセットを、がっつり持ち込んでくれた。

 バスドラが見えてるだけで7つ(実際は10個との噂も)、タムが数十個、シンバルがさらに多い枚数。シンバルにアイスベルを重ね、純粋なスタックも。ハイハットだけで5つほどあり、ひとつはスポークス・ハット。手元にもハイハットを置いてた様子。シンバルっぽく叩くタンバリンも。
 後方には大きなドラから始まり、いくつものゴングがぶら下がる。さらに小さなベルもずらりぶら下げた。
 背後にラップトップも仕込んだようだ。さまざまなドラムセットの要素を積み重ねた。ラテン系のカウベルなどが無く意外。それいがいの太鼓が、山のようにあるけれど。

 ライブは前後半で約1時間づつ。さらにアンコールも。どっぷりとテリーのドラムへ溺れた夜だった。

 客電が落ちた。録音を禁止する日本語のMCが、英語の紹介へ変わる。声にリバーブがかかり、高々とテリーを呼びかけた。
 拍手の中、シンプルな黒のシャツにズボン姿のテリーが現れる。数年前の鼻ピアスは無くなり、黒髪の若々しい姿。

 身体を曲げてドラム・セットへ滑り込んだ。バスドラを一つ一つ叩き、タムをゆっくりと叩く。シンバル類も丁寧に鳴らす。チューニングを確かめるように。ものの見事に、ひとつひとつの音程が違ってた。
 タムは左側の低い音が、ちょっとピッチ低かったか。かっちりヘッドを張って、硬い鳴りだった。
 静かなドラミングが、やがて手数多くなる。最初はバスドラ控えめ。メロディアスなシンバル中心の演奏だった。めまぐるしくタイトなビートが続く。メロディのパターンをいくつか紡ぐ、スピーディで厳かな展開だ。

 各セット、10分前後の演奏を5曲程度。完全な即興か、曲かは不明。
 2曲目でバスドラがずしん、と響いた。場面によって踏み分ける。軽快なタムのロールが別のタムに回され、メロディを築く。
 いわゆるグルーヴで押さず、メカニカルなビートをきっちり提示。その上で旋律をタムやシンバルの叩きわけで聴かせた。
 おっとりしたメロディにアジア系の風景を空想する。

 テクニックはさりげなく、あっけらかんと難易度高い技で魅せた。
 ハイハットとバスドラを別のリズムで踏みながら、腕は全く違うことをやり続ける。左右に身体を向きながら、足を変わらぬビートで踏み続ける柔軟性に驚いた。
 さすがにときおりリズムが乱れる場面もあったが、あのジャストなビートを踏み続ける体力が圧巻。

 上空に浮いたシンバルはスタック気味にセッティングされている。
 目で素早く指先を追いつつ、見事に叩き分けた。真剣な面持ちで、手なりや腕癖で時間を浪費しない。
 アクロバティックな演奏ながら、きっちりと音楽として成立する。単なる見世物ではない。セットの構成も必然性在り。
 あくまでドラムでメロディを叩く前提で、全ての太鼓やシンバルを次々に叩いた。

 遠目ながら、ほとんどスティックを持ち替えぬように見えた。しかしあのセットの奥で、どういう叩き方か見えないのが本当に惜しい。この会場は後ろにプロジェクターがあったので、ぜひカメラで上から撮って欲しかった。

 3曲目の前にタオルで汗を拭うテリー。後ろを向いて、なにやら操作する。
 アンビエントでリズムのはっきりせぬ、シンセの音が漂った。
 テリーは立ち上がって、大きなドラをぶら下げたマレットをぶつけて鳴らした。
 なおこの日はドラムもマイクで拾って、薄くリバーブをかけてある。ほどほどの音量かつ、のびのびとドラムが響いた。
 
 抽象的な世界観をジャストのリズムで叩きのめす。ゆったりしたシンセに、精妙なドラムが齧り付いた。
 ハイハットとバスドラが規則正しく動き、手は奇数拍子や裏拍のフィルが立て続けにばら撒かれる。ときおり、足と手が全く同時の動くパターンも。
 前半は5曲程度。シンセは3曲目と5曲目に使ったかな。4曲目辺りで、タンバリンを効果的にハイハットっぽく叩いていた。

 一時間弱の演奏で前半セットは終了。観客への感謝の言葉や15分ほどの休憩を本人が告げた。

 後半セットも静かなパターンから。音を確かめながら叩く。ゆったりしたテンポから、次第に手数が多くなった。
 続く2曲目だろうか。演奏始めたとたん、観客から歓声が上がる。パルス状のビートが連続し、横と背後のハイハットが同期して動く。さらにバスドラも別パターンで響いた。複数のハットを動かすペダル設定だった。
 テリーはセットの横で動くハイハットはほとんど打たず。手元に置いたハットを叩いたようだ。

「ジャズ・ナイトってことで、"ビッチェズ・ブルー"から"スパニッシュ・キー"を。さらにソロの曲につなげました」
 2曲目が終わった後、テリーが一言告げた。

 さらに後半セットではぶら下げたベルのみならず、鉄琴もプレイに織り込んだ。
 マレットでゴングからシンバルを叩き分け、ふくよかに響かせる。
 スレイベルを振り続け、シェイカーのようなものを、かがみこんで振った。
 ベルがいっぱいついたスティックのようなものを、鉄琴や吊るしたベルに摺り寄せ、続けてタムやシンバルをぐりぐりと撫ぜ叩き回した。

 後半でも数曲で、不安定なシンセのループを引き出した。くっきりしたドラミングで対比させる。
 バスドラのみならず、曲ごとに動くハイハットがきちんと違ってた。

 まったりしたアドリブが続いた後、クライマックスの激しいドラミングへ。アップテンポでめまぐるしく突き進む。
 両足がふんだんに踏み鳴らされ、バスドラの嵐が怒涛に轟いた。シンバルが次々打ち鳴らされ、テンション高くテリーが叩き続けた。15分くらいの長尺だった。
 
 汗を拭き、テリーが再び客席前に出てきた。深々と一礼し、にこやかにステージを去る。
 後半セットは70分くらいぶっ続け。曲の合間に水を飲むくらい。ほとんど切れ目無しに演奏を続けてくれた。

 アンコールの拍手が続く。テリーの登場。
「最後に短い曲を。ザッパの"Black page"」
 大きな拍手。これをやってくれて、すごく嬉しい。

 いきなりタム回し。シンバルを押さえ、間を置いて素早くスネアを叩く。
 途中のパターンで、既に曲がだいぶ進んでることに気がついた。冒頭はフリーから"ブラック・ペイジ"と思ったら、いきなり譜面どおり叩いてたようだ。

 膨大なメロタムを駆使したメロディ提示ではない。ごく少ないタムやシンバルのみで。
 ザッパ譜面を尊重したか、厳かにテリーは"ブラック・ペイジ"を演奏した。つまり"#1"。もっとも"Zappa in New York"よりも太鼓の使い分けは少なかった気がする。
 アドリブへは行かず鋭くリズムのみで曲が終了、ライブは幕を下ろした。

 膨大な太鼓を十二分に使い分ける、テリーのドラムを堪能できた。次はチャド・ワッカーマンとのデュオで来日しないかな。
 太鼓にもシンバルにも音程がある、と改めて実感した夜だった。

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