LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2007/10/24   大泉学園 in-F

出演:黒田京子トリオ
 (黒田京子:p、翠川敬基:vc、太田惠資:vln)

 9月は太田惠資が渋さ知らズの欧州ツアーで不在だったため、2ヶ月ぶりのライブ。
 店へ入ると"ホルトノキ"のリハ真っ最中。なんでも太田が真っ先に登場、かなり長めにリハをやっていたそうだ。
 楽屋が休みらしく、翠川敬基も店内で開演を待つ。20時を15分ほど回った頃、おもむろに客電が落ちた。

 なんだか3人が固い空気。ほんのりと緊張を感じたのは気のせいか。
 演奏も前半セットの最初は、どことなくぎこちない感触だった。
 黒田京子が口火を切った後、太田のMCで曲紹介。静かに音が広がった。

<セットリスト>
1.清い心
2.ババヤガ
3.リンク
4.ゼフィルス
(休憩)
5.白いバラ〜バラの行方
6.ガンボ・スープ
7.グリーン・クレイドル
8.ホルトノキ

 冒頭はインプロから。太田と翠川がpppで単音を重ねあう。ひそやかな音像を作り、黒田がそっとピアノを乗せた。今夜のピアノは音が柔らかく響く。ふっくらと音が包まれたかのように、ほんのり弾んだ。
 黒田はあえてか、フォルテへ向かわない。ダイナミズムを控え、穏やかな音量で奏でた。太田のアプローチも丁寧で、ビブラートのかけかたも精妙だった気がする。

 インプロはやがて音数が増えた。比較的に太田が前面へ出るが、互いの音を聴きあって、するりとメロディ役はしなやかに変わる。
 いったんブレイクして、おもむろに翠川が"清い心"のテーマを提示。弦二本が厳粛に旋律を紡いだ。

 続く"ババヤガ"は、硬質な耳ざわり。互いの音がぎしぎしと絡み合う。テーマでのピチカートも、ちょっとばらついた。
 黒田はほとんど前面に出ず、翠川は小音量の構え。太田のアドリブがじっくり動く。
 今夜はひときわ、バイオリンのミュートをいじる。
 場面ごとでひっきりなしに、弦の根元から駒の上、ちょっとずらすなど、さまざまなポジションにミュートを置いた。音色と音量を意識したプレイだった。

 曲紹介は前後で丁寧に太田が説明。譜面を見ながらさくっと喋る。
 手が滑って譜面をぶちまけてしまい、拾い上げて「さて、次にやるのは"ババヤガ"・・・」と時間軸を捻じ曲げるMCで笑いを取ったのはこのあたりか。

 音がふくよかに鳴ったのは、続く"リンク"から。
 イントロは即興。太田と翠川が、ぎしぎしと弦を軋ませる。羽虫が唸るように。耳へ響くのか、軽く抑えながら黒田が顔をしかめていた。
 金属質なノイズを弦から互いに絞りあう場面はけっこう長く続き、やがてメロディへ移行する。

 太田がぶつぶつと小声でつぶやいたのは、ここだったかな?記憶あやふや。
 今夜はバイオリンだけを持ち込み、ストイックな立ち回り。ボイスも使わず、パーカッションやメガホンも無し。
 ときおりバイオリンをウクレレっぽくかまえ、無造作に爪弾いた。
 
 そして、"リンク"のテーマへ。滑らかで高らかに舞う旋律が流れる辺りから、3人の音がよりきめ細かく動いた。
 しかし演奏自体はあっけない。
 3人の即興がふっと止み、チェロが無伴奏でアドリブへ。ここまで特殊奏法や早めのランダムなフレーズで動いた翠川。
 今夜初めて、じっくりとメロディアスなソロを奏でた。
 ところがソロが終わるとすぐに、テーマからエンディングへ着地してしまう。もどかしい。

 そして、"ゼフィルス"。1stセットではピカイチの仕上がりだった。
 イントロのピアノ・ソロが、まず耳を優しくくすぐる。ほんわりと音が真綿のように漂い、幻想的なイントロを作り出す。
 テーマは弦二本。同じ譜割のメロディが和音を換え、音世界はくるくると表情が移り変わる。しとやかな旋律とピアノのやり取りが美しい。

 "ゼフィルス"は前回のライブで初演した、黒田の曲。曲そのものは以前の作品だそう。トリオに投入したのが前回から。
 バイオリンのアドリブに力がこもり、メロディの奔流となる。長尺で弾きまくった。すかさずチェロがカウンターで旋律をぶつける。
 黒田京子トリオ独特の豊潤さが、溢れ出る快演だった。

 後半は、黒田の"白いバラ"から。後半はぐっと寛いだ雰囲気で、名演の連続。どっぷりとトリオの演奏へ浸った。

 荘厳な"白いバラ"は黒田のピアノが冴える。身体を大きく揺らし、手が鍵盤の上を柔らかく駆ける。けっして激しく叩かず、身体が動いても腕はむやみに動かない。
 ちなみにいくつかの曲にて、黒田はエンディングでいち早く鍵盤から指を離してしまう。
 しかし指は鍵盤の上。音は弦だけなのに、演奏は3人が着地する風景が見られた。

 "白いバラ"は即興へ向かう。テーマのニュアンスを含んだメロディから、次第に自由な方向へ向かった。ブレイクっぽい間隙から、翠川がアイコンタクトで太田へ合図。
 "バラの行方"を丁寧に奏でた。

 "ガンボ・スープ"の冒頭は黒田と翠川のパーカッシブな展開から。
 翠川はチェロの胴を音数少なく叩き、立ち上がった黒田はピアノのボディを、こぶしで叩く。
 二人のリズムがポリっぽく響き、太田はバイオリンを横に構えて爪弾いた。

 構えなおしてメロディへ。多層ビートの上をバイオリンが動く。やがて二人も旋律を出した。
 生き生きと跳ねるビートはアドリブでも持続する。ピアノが、チェロが、グルーヴを出し続けた。ぐいぐいと引き込まれる。
 4拍子のテーマが3拍子へ移行し、素早い1小節を挟み4拍子へ。表紙の変化が、くっきり映えた。

 ひときわ、じんと来たのが、"グリーン・クレイドル"。これも前回、トリオでは初演な黒田の作品。
 ジャジーな空気。翠川はピチカートでベースっぽく弾き、弓に途中で切り替える。黒田はつぎつぎと音を膨らませ、緩急を効かせた。
 ここぞとバイオリンも、存分にソロを展開。

 3人の存在感が凄まじかった名演だった。
 演奏は長めで嬉しい。いつまでも終わって欲しくない。そんなひとときだった。

 最後の曲が"ホルトノキ"。しみじみと黒田が喋る横で、翠川が「シャープ4つで難しいんだよなー。これを最後にもってくるかぁ?」とまぜっかえす。
 演奏はしっとりとまとめた。次第にテンポが加速し、一気に雪崩れる。即興もばっちり。三人が活き活きと進展した。 

 ライブが進むにつれ、尻上がりに演奏へぐいぐいのめりこめた。
 終わったとき、身体がほっこり暖かい。余韻が気持ちよかったなあ。

目次に戻る

表紙に戻る