LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2007/10/21   表参道@月光茶房

   〜月光茶房の音会 (第5回)/神無月の二人〜
出演:吉田隆一、かわいしのぶ
 (吉田隆一:bs,keym,vo,etc.、かわいしのぶ:b,vo,per,etc.)

 月光茶房のライブ第5弾。本イベントのプロデューサー、吉田隆一自らが登場のデュオとなった。相方にかわいしのぶを迎える。
 しっかりした譜面台を置き、二人とも座って演奏。ぼくの位置からだと、二人の指使いが見えなくて残念。特にかわいしのぶが、ハンドベルの棒を使ってスライドする様子らしきところは、見てみたかったな。

 今日は2部構成。かなりMCが多く、寛いだ雰囲気で展開する。リラックスして喋る吉田と対照的に、かわいしのぶはしっかりした面持ち。
 2ndセットではいきなり「吉田さん、説明下手ですね〜」とみもふたもないことを、ずばっと言い放つ。その後にもフォローになってそうで、なってない喋りに吹きだした。
 
 1stセットは吉田のオリジナル、"ソネット"から。次の譜面をめくる時にちらと見えたが、4行程度のシンプルなテーマを、二人が即興で膨らます。
 ロジカルな旋律をバリトンが提示し、ベースが僅かにテンポを揺らしながら対峙した。
 音数はさほど多くない。バリサクとエレベという低音楽器なアンサンブルだが、あっけらかんとアレンジした。グルーヴは二人ともさほど重要視せず、ルバートを多用し揺らす。
 バリサクはリードが硬いような、シビアな響きで吹かれた。かわいはフレーズの合間に、スライドで弦を軋ませた。

 中盤でフリーな展開へ。循環呼吸のフレージングから、マウスピースのみで吉田が吹き出す。するとかわいが横に置いた玩具の鶏を甲高く鳴かせ、唐突に高音のやりとりへ。
 二人とも大真面目な表情で、しばし交錯。やがてかわいはベースへ戻り、吉田はネックで直接吹き、ノイジーにサックスを軋ませた。

 かわいのレパートリーで、続いて谷山浩子"不思議の国のアリス"。聴き覚えある曲だが、どのアルバムに入ってるか特定できず。
 平歌を完全無伴奏で歌う、大胆なアレンジに驚いた。サビでベースが入り、バリサクがそっとオブリを入れる。曲間のリフはバリサクとユニゾン。全く同じ譜面を見ながら吹いてるのかな。アンサンブルを施さぬ、あっけらかんとした展開が面白かった。

 のんびりしたMCを挟み、かわいのオリジナルをもう一曲。"秘め事"という曲だったろうか。おっとりしたメロディだった。歌声はほのぼのしつつも、凛と張る。
 
 1stセットは短めに、といいつつ。コロコロねた等喋りが長く、一時間程度となった。
 前半最後はミンガスの"Orange is the color of her deress,then blue silk"。
「最近は誰もやらない曲だと思ってたら、先日の山下洋輔+菊地成孔のデュオで演奏しちゃった。前もってことわりが欲しかったよなー」
 と、吉田が苦笑しながらぼやく。
 
 ゆったりとテーマが奏でられ、アドリブが膨らむ。ブレイクを大胆にいれ、吉田が譜面の指差しで進行を示す。かわいも吉田も明確なバッキング役へ下がらず、平行してアドリブを絡ませあい、聴き心地よかった。吉田が中盤で、循環呼吸の強烈なアルペジオを叩き込んだのも、ここだったろうか。

 休憩を挟んだ後半は、吉田のボーカル曲から。言葉を選ぶの難しいが、脱力する感触の歌を立て続けに。ピッチもテンポもかなり大胆に崩していた。
 まず「ポンスの歌」。ポン酢とは"ポンス"か"ポンズ"かどちらが正しいか、がテーマという。ちなみに正解は"ポンス"らしい。オランダかどっかの言葉が原型とか。ぼくのPC辞書では、"ポンズ"でのみ変換するのがなんともはや。
 バリサクは吹かず、かわいのベースのみで歌った。

 続いて「YMOに捧げるが、本人らが聴いたら嫌がりそうな曲」と、わざわざ前置きした"テクノの曲"(タイトル失念)。
 キーボードのプリセットで高速16ビートを吉田が提示し、かわいがオブリを入れた。
 なんというか腰砕けな曲だった。
 中盤で吉田がキーボードにプリセットした曲を流す。すばやくかわいが反応、ピアニカに持ち換え、テーマのユニゾンからアドリブへ滑らかに変化した。
「何の曲でしたっけ」
 ちなみに終わった後で二人して首を捻る。メロディは聴き覚えあるが、なんだっけ?
 
 ここからかわいの歌コーナーへ。譜面を見ながら次々に吉田がリクエストし、数曲演奏した。ふちふなにも通じるおっとりしたメロディを、かわいは朗々と歌う。
 譜面を見ながら、吉田がキーボードで和音を重ねるアレンジ。"花子さんの歌"だったかな。
「ラテンの曲なんですよ」
「(キーボードのプリセットに)ラテンのリズムあるよ。入れようか」
「いりません」
 大真面目な顔でぴしゃりと切り落とす、かわいの返事に大笑いした。

 "サランラップの歌"では観客の一人にベルを渡し、"電子レンジ"の歌詞で一音だけ出してくれ、とかわいが指定する。ぴたりと決まっていた。
「才能ありますね。人生で一度だけ、この場面でしか役に立たない才能だと思いますが」
 と、吉田がつっこむ。

 アレンジは即興らしく、譜面を見ながらキーボードを吉田が静かに押さえた。
 "守銭奴の歌"で、だったかな。
「ソロ」
 一言つぶやくかわいのキューで、吉田がじわりとメロディを奏でる。かわいが動きあるフレーズのベースで絡んだ。
 のんきなMCでまったり気分だったが、どの曲も素朴で味わいあった。

 ちなみに「トークショーかと思ってた」かわいは、自著も含めた回文の本を数冊持ち込み、ひとしきり回文で盛り上がるひとときも。

 最後は、吉田のオリジナル。前日の野球の話を吉田が始め、強引に関連付ける喋りで曲紹介した。"安曇野"という曲だったろうか。
 素朴でしみじみとした旋律が美しい曲。聴き覚えあるが、どのライブでだったか思い出せず。
 
 長尺でアドリブが平行し、素晴らしい演奏だった。後半セットのバリサクは音がいくぶんふっくらし、柔らかく響く。テンポはぐいぐい揺れ、ポリリズムっぽいやり取りも。
 やってることは複雑だが、無造作に展開。ブレイクして終わりそうで、テーマへさらりと飛ぶ。しみじみとまとめた。
 後半セットは特に肩の力を抜いた演奏やMCなだけに、最後にこの曲で、きっちりとライブを引き締めた。
 終わりそうで終わらない。アドリブがテーマと交錯する。もっともっと長尺で聴きたかった。

 かわいの歌伴をメインに展開かと予想したが、しゃべりや吉田の歌も混ぜる、無造作な展開のライブ。低音楽器2本による、あっけらかんとしたアレンジは、各セット最終曲でのアンサンブルで効果的に映えた。
 ある意味、日曜の昼下がりにぴったり。リラックスしつつきっちりと締める、寛いだライブだった。

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