LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2007/10/20 東高円寺  Los Angeles Club

   〜natural gift - vol.123〜
出演:アニュウリズム/Oeil/metaphoric/November November/吹雪

 若手バンドを5バンド、立て続けに聴かせるイベントnatural giftの123回目。前回に引き続き、聴きに行く。今回はバンドの色合いがかなり千差万別。
 ソロ編成のミュージシャンが2組もいて、なんだか新鮮だった。

吹雪
 エレキギター二人にドラムの編成で、2曲を演奏。1曲目はドラムがクリックを聞きながら、細々と叩く。エフェクタでぐしゃぐしゃに崩されたリードギターが、か細く歌い、リズムが刻む。
 意図的かは不明だが、クリックとドラム、リズムギターのショート・ディレイのタイム感がぐしゃぐしゃに崩れ、非常に混沌としたリズムが提示された。

 2曲目はかなり長尺。歌は無く、リードが俯き加減で歪んだ音色のギターを弾きまくる。カタルシスよりも混迷を志向かのごときプレイだった。

November November
 エレクトリック・バイオリンの女性ソロ。"still life in the attic"のメンバーだそう。このバンドは03年2月、04年10月にライブを聴いていた。感想を読み返したが、どちらもバイオリンをもっと強調して欲しく、もどかしかったとある。
 ある意味今夜は、その希望が叶った格好。
 演奏前もバイオリンの多重奏がBGM。彼女の音源だろうか。物販は特に無し。

 中央にちょこんと座り、エフェクタをずらり。黒の4弦エレクトリック・バイオリンを操る。
 せわしない5拍子のパターンがいきなり提示され、やがてループされた。丁寧にシンプルなフレーズを繰替し、ループで積み重なる。クラシカルな素養とアプローチで、さほど過激なアドリブは無い。

 ところが積み上がった音像の天辺で、いきなり音色を強烈に歪ませ全てを破壊するような展開がユニークだった。
 しかし音色とエフェクタ使いはもどかしさあり。1曲目ではピッチが違うのか、積み重なったループの響きに統一感が薄い。途中でコンマ数秒、ループが全停止するのもとまどった。

 短めな尺で3曲を弾いた。MCの合間に、強烈なハム・ノイズがどこかから共鳴がすごく気になった。
 3曲目がベストかな。10拍子っぽいアルペジオからロングトーンが重層され、フレーズに向かう。
 まだ荒削りなので、今後の展開が興味深いミュージシャン。
 
metaphoric
 (庭野孝之:g、沢田拓也:g、Guest::関根隆博:G、北村仁志:ds)

 目当てのバンド。03年8月に解散したspeonic teroecaのメンバー2人が06年に結成した。ライブを聴くのは初めてのはず。今夜はゲストにギターとドラムを加わった。
 20分一本勝負の即興。恐ろしくストイックながら、肩の力が抜けたサウンドだった。
 即興はミュージシャンによってはコンセプトが先行し、ライブの空気が緊迫したり重たくなることもある。
 しかしmetaphoricのサウンドは透徹ながら、飄々と漂う重心の軽さも同居する。あっけらかんとノイズを提示するいさぎよさによるものか。

 メンバーはステージ上下手にくっきりわかれ、ギターの一人は完全に客席へ背を向ける。全員が椅子に腰掛けたまま。一人のギターはシンセらしきものも椅子の上に置き、なぜか足元にミカンを一つ転がす。あれは何の意味だろう。
 「やりまーす」
 振り向いて関根がスタッフへ一声かける。照明がぐんと落ち、半分暗闇の中で進行した。

 おずおずとノイズが立ち上がる。庭野は俯いてギターをほんの少し弾いた。人差し指にスライドバーをはめ、きしっきしっと弦を軋ます。
 北村が何かを掲げ、連続した軽やかな金属音を響かす。逆光で何かは良く見えず。

 他の二人も特に目立った音が出ない。混沌がしばし高まり、庭野のギター・ノイズが断続する。それすらも漂うだけ。メロディもビートも轟音のカタルシスも回避し、無作為なノイズの断片をかすかにちりばめた。

 強烈な低周波が別のギターからぶちまけられた。胸元辺りが振動する。
 この日は3人とも、楽器がギターである必然性の薄いノイズを志向した。ストロークや爪弾きも僅かにある。しかしノイズ装置としてギターが機能し、あくまでメロディはほとんど無かった。

 むしろ今夜のセッションで、もっとも音を出したのが北村かもしれない。
 ドラムの音はみるみるリバーブが深くなる。手のひらでスネアを叩き、マレットでシンバルを打つ。立ち上がって大判の紙をくしゃくしゃにし、勢いよく畳む音を提示した。
 とはいえ北村の音はあくまで異物として、アンサンブルへ貢献する。規則的なビートは止め、ランダムかつ少ない音でドラムが鳴った。

 ドラムはリバーブをたんまり纏い、ずどんっと響く。あくまでも音像を支配しない。
 4人が並列構造で音を出した。視線を交わさず、淡々と続く。
 極低周波はすっと消え、あっけらかんとした空間。ドラムがシンバルやタムをシンプルなパターンで叩き、クライマックスを予感させる。この日のドラムは、小音量からffまで、ダイナミクスにも配慮していた。

 庭野はもはやギターを弾かない。かかえたまま、足元のエフェクターを操作し、手に持ってカオスパッドみたいに操る。
 混沌が漂い、誰がどの音かよくわからなくなってきた。
 
 ふうっと上手からの音が消えた。ドラムが幾度か叩き、消えかける。庭野も音を消した。
 空気の振動が闇へ溶けた。

 20分程度の即興。どこまで決め事あるか不明ながら、きれいに着地したと思う。 
 で、足元のミカンはなんだったのかな。

Oeil
 男女のギターを含む4人編成。イントロを待たずにエフェクターまみれのギターが零れだし、なんとなくカウントから曲へ向かう。
 ボーカルのか細い声は、演奏に埋もれ聴こえづらかった。

 サイケな志向かな。刻みをしゃきっと明確にし、幾分タイトなベースをもっと前面へ。さらに後ろを向いたままのギター音をすっきりと整理したら、抜けのいい音像になるのでは。
 音楽性がちょっと好みと違った。

アニュウリズム
 アコギの男性弾き語り。ファルセットも含め、フォークっぽい歌を。英詞をとりまぜた。
 リバーブを効かせた歌声は滑らかだが、ギターのフレーズがシンプルなストローク中心で、ちょっともどかしい。中盤で構成されたリフも弾いたが。
 ぼくの好みとは異なる音楽性だった。

 さまざまな音楽性のバンドを集めた夜。metaphoricは次のGridでのライブが楽しみになる一時だった。

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