LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

07/10/14  舞浜 クラブ・イクスピアリ

出演:渋さ知らズ・オーケストラ 
(sax:片山広明、川口義之、小森慶子、立花秀輝、鬼頭哲、鈴木新、tp:北陽一郎、辰巳光英、
 fl,vo:室舘彩、b:オノアキ、g:斉藤良一、大塚寛之、ds:磯部潤、倉持整、vln:太田恵資、
 p:山口コーイチ、per;松、関根真理、vo:渡部真一、dance:さやか、ペロ、東洋、しも、たかこ、ちえ
 不破大輔:ダンドリスト)

 ディズニーランド前にあるライブハウス、イクスピアリは初体験。ブルーノート・スタイルのレストラン形式なクラブで、キャパは150くらいか。涼しい日差しの日曜の夜なせいか、動員はまずまず。ほぼ客席が埋まる程度だった。
 渋さ知らズは場所によって、サウンドを明らかに変える。この場所で、どう渋さが音楽を展開するか楽しみに向かった。

 メンバーは中編成+α。オーケストラにしては、人数が少な目か。
 地底新聞を参考にメンバーを書いたが、現場はちょっと違う。ピアノは山口コーイチだった。
 19時開演をほんの少し押して、トランペットの音が聴こえた。客電がゆっくり落ち、メンバーが現れる。"バルタザール"のテーマに乗って、北陽一郎を先頭に。

 ホーン隊が音を増やす。ぐるぐると管はステージからフロアへおり、練り歩きを始めた。
 渡部真一が大きく腕を振りながら登場。プレスリー風のスーツ(ただし、へそ出し)に、でっかいカツラ。ウクレレを持ち、かき鳴らしながら歩いた。

 東洋組が姿を現す。手に手に野菜を持って。中央でボウルを持った女性がカリフラワーを口に加え、東洋はニンジンを貪り食いだす。しももニンジンを一本かぶりつくした。カリフラワーも食い散らかされ、ついにサツマイモまで生で・・・。
 さやかとペロが、黒いドレスで優雅に姿を見せた。

 ホーン隊がステージへ戻り、片山広明がソロを始める。東洋組はいったん袖へ下がった。
 不破大輔が大きく腕を振り、改めて曲が始まった。

<セットリスト>
1.バルタザール
2.火男
3.ライオン
4.フィッシャーマンズ・バンド〜ライオン
5.Song for One
6.ナーダム
7.ひこーき
8.本多工務店のテーマ
9.仙頭

 セットリストはこんな感じ。一部間違いあるかも。PAバランスがぼくの聴いてた位置(最前列テーブルの下手側)では、下手側に立った社長のギターが凄まじくでかく聴こえた。ホーン隊はマイク立てたソロだと聴こえるが、バイオリンが埋もれ気味。
 ドラムやピアノはほとんど聴こえず、なぜかパーカッションやベースは耳に届いた。後半ではかなりバランスが改善されたけれど。
 終わった時に、ほんのり耳鳴りが残る程度のでかい音量だった。

 欧州ツアーを終えた渋さがどう変わってるかと思ったが、安定したアンサンブルを改めて実感。途中のソロ転換でぐたぐたになり、不破がぶっ倒れてしまうシーンもあったが、なんだかんだで滑らかに収斂する。
 メドレー形式な演奏も見事に展開した。

 辰巳光英がシャープで熱いソロを聴かせ、"バルタザール"を盛りたてる。太田惠資の長尺ソロがスケール大きく広がり、終わるなり笑みを浮かべた不破と握手を交わす。このシーン、今夜は幾度も見られた。ナイスなソロのあと、不破は腕を伸ばしてホーン隊と握手を交わした。

 北のゆったりしたソロから、一転してアップ・テンポの"火男"へ。フロントでさやペロがステップを踏む。さやかは滑らかに体を動かし、ペロは活き活きと身体を振った。
 オノアキのベースが、シンプルなリフを前のめりに刻み、グルーヴをあおる。

 不破のキューは細かくサインを送る。曲によっては伝わらず、苦笑する場面あったとこみると、その場で即興的に送ってるようだ。指をぐにょーんと横へ伸ばし、オブリを送るシーンが多く見られた。
 合間に足元のスキットル・ボトルでウイスキーをがぶ飲みする。

 社長とペット二人のやりとりが無伴奏で抜き出されたのは、"火男"だったか。スライドバーでかきむしるエレキギターと、ユーモラスなスロー・テンポのトランペットの対比にメンバーも笑いながら聴く。
 激しさを増し弦を切る社長とは逆に、さらりとミュートでかわすペットの仕草に観客も笑いが飛ぶ。辰巳はしまいに、マウスピースだけで吹いて見せた。

 いきなり弦を二本も切ってしまい、戸惑う社長へ「弦交換していいよ」と不破が声をかけ、ソロを回す。
 室舘彩の高らかなフルート・ソロへ鬼頭哲のバリサクだけで広げたのはここだったかな。
 ちなみに鈴木新は上手後方に立ち、EWIを吹く。音色をじっくり聴きたかったが、いまいち元気無い。長尺のソロも取らず終わり残念。

 東洋たちは曲によって入れ替わり立ち代り登場。ステージ横と客席中央に踊り舞台を作り、しぶとく身体をくねらせた。
 ホーン隊はソロのとき、比較的おとなしめ。たまに片山が、川口や立花をあおってカウンターをぶつけた。
 どの曲か忘れたが、完全に客席へ背を向けた片山は、磯部潤へ向かってソロを吹くシーンもあったな。
 
 大塚のソロは"ライオン"だったか。無表情に音をばら撒く。後ろで渡部がウクレレを構え弾きまねをする。不破の合図で前に出て、ウクレレでエアギターを。堂に入ったしぐさが面白かった。別の大塚ソロでは、アンプのつまみを回すしぐさまで真似ていた。

 ここまでほぼメドレー形式。いったん音が全てやむ。おもむろに渡部が喋り始めた。
「この格好で"エンヤートット"も無いが・・・せっかくだから、いくぜ!」
 もこもこに膨れ上がったカツラ頭で、"フィッシャーマンズ・バンド"へつっぱしった。 中央へ走りより、激しいシャウトで観客を煽り立てた。
 山口コーイチがピアノの上においたキーボードで、プログレなソロを展開したのはこのあたりか。
 不破はいきなりステージをおりてフロアへ。しばらくすると、店員がワイングラスを持ってきた。くいっとのみ、さやかへグラスを渡す。
 
 "Song for One"は立花秀輝へソロを合図し、不破は袖へ消えてしまう。タバコをすう仕草を残して。さやペロも舞踏たちは消えて、しみじみと立花がアドリブを聴かせた。
 ハイトーンを織り交ぜながら、ゆったりとメロディアスなソロを見事に紡ぐ。あまり今夜はソロを取らなかったが、この瞬間はピカイチだった。
 やがて戻ってきた不破は、ソロが終わるなりがっちり握手した。

 室舘が声を張り上げる。歌がいっぱいに広がった。
 すぱっと照明は暗くなり、ミラー・ボールが回り始める。
 小森慶子と太田惠資のデュオへ。これも素晴らしかった。ほとんど今夜はソロを取らない小森だが、ここではかっちりしたクラシカルさも取り混ぜたアドリブを吹く。

 赤いエレクトリック・バイオリンの太田は、オクターバーなどで音程を変えつつ、がっちりと小森を支えた。次々と世界観を変える小森のソロを、太田はたじろぎもせず膨らませてアドリブをぶつけ返す。
 ソロが終わり小森と不破が握手する横で、胸いっぱいの表情な室舘が再び歌声を伸ばした。

 メドレーで朗々と"ナーダム"のテーマが轟く。くっきり明るい照明の下、青と赤のチャイナ・ドレスに身を包んださやペロや、東洋たちが輪郭鋭く照らされた。
 ドラマチックな音像を風景が色づける。

 ところが片山のソロのとたん、無伴奏でフレーズ合戦に。つぎつぎいろんなフレーズを吹いては、次へ進む。太田がコミカルに合わせた。「いやなツーショットだなー」とぼやいて見せながら。
「このソロで、新譜の売り上げが決まりますよ!」
 渡部が横から混ぜ返す。かなりとっちらかった片山のアドリブで、しまいに「もう勘弁して」と、片山自身が苦笑する。
 こういうソロも合わせる、太田の引き出しの多さに改めて気づく。

 テンポがじわじわと盛り上がり、"ナーダム"本編へ突入。ピアノのソロがこの辺りか。ジャジーなソロが続く。
 不破が細かいキューを送り、ベースやドラムへ指示。どうやら、倍テンポで突っ走らせたかったらしい。
 しかし背を向けてるピアノはわからず。さらにリズムもつんのめり、不破は派手にこけてがっくり。なんだかんだですぐさま復帰し、テンポを速めて疾走した。

 締めが川口義之のハーモニカか。不破は大きく手を横に広げ、次の曲をメンバーへ知らせる。"ひこーき"が始まり、今度もハーモニカのソロへ。
 ボーカル・マイクがない関根真理へ、横に立っていた太田が自分のマイクを譲って手早くセッティングした。

 途中から室舘も入り、"ひこーき"を歌う。太田が思い切り長尺のソロを披露。
 これも力強いメロディが次々に溢れる、とっても重厚で味わい深いアドリブだった。
 大塚のソロがあったのもここかな?珍しく、シールドが伸びるかぎりフロアへ足を踏み出す。
 観客席のあいだで、ギターをかきむしる。熱いソロを奏でた。不破が室舘のマイクへ向かい、リフレインを思い切りシャウトした。

 "ひこーき"のエンディングで、さりげなく不破が松へ合図を送る。大団円なエンディングが終わり、拍手の中すかさずコンガの連打。観客の拍手が強まる。
「座って見られる渋さなんて、そう無いぜ。でも、最後くらいは立って行こうぜ!」
 渡部があおり、観客が立ち上がる。ギターがロングトーンを伸ばした。観客とホーン隊が、ぐるりと手を回す。幾度も。

 テーマが始まり、舞踏が激しくなる。"本多工務店のテーマ"が華々しく轟いた。
 渡部が、そして不破が観客へテーマの合唱をあおる。やがてリズム隊を除くほとんど全員が、ステージを練り歩いた。不破自身も客席へ降りる。演奏でなく、観客の合唱をバックに。
 時間をたっぷりかけて、テーマの合唱が続く。客席中央のお立ち台で。渡部が腕を振りつつ、自ら歌い続けた。
 ついにメンバーがステージへ戻り、大団円。拍手の中、"仙頭"が鋭く決まった。

 2時間40分のぶっ続けステージ。"すてきち"を演奏しつつ、メンバーが去る。なぜか不破は、観客席を通って消えた。
「ヨーロッパから帰って、年末まで日本でいっぱいやるぜ!また来てくれよな!」
 後に残ったのは渡部と舞踏たち。ステージ左右を向いて幾度もお辞儀をした。

 ポップさを保ちつつ、どこか寛いだ感触のライブ。大編成で無い分、小回り効いた感じ。鋭さをユーモアで包む、しぶといアンサンブル。個々のアドリブをくっきり抜き出す、渋さ知らズ劇場を拡大した印象もあり。
 コンパクト気味の編成ながら、オーケストラ名義の豪華さと長尺なアドリブが交錯する、楽しいライブだった。

目次に戻る

表紙に戻る