LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2007/10/1   荻窪 杉並公会堂小ホール

   〜Inter Improvisation Music Festival 2007〜
出演:World Kaibutsu Quintet
 (原田依幸:p、Louis Moholo:ds、Henry Grimes:b,vln、Tristan Honsinger:vc、Tobias Delius:ts,cl)

 10月初頭に日本4箇所でツアーする、原田依幸が仕切ったイベントの初日に行く。
 そうそうたるフリー系のジャズメンぞろいで、わくわくしながら聴きに行った。約200席の椅子は満杯、さらに立ち見がびっしり。観客席もジャズ・ファンがぎっしり。こんなにフリージャズ・ファンいたんだと改めて実感。

 1ベルが鳴り、しばしの空白。2ベルは鳴らさず、おもむろにメンバーが登場した。原田依幸が個々を紹介し、椅子に座る。
 その勢いとともに、低音鍵をひっぱいた。すかさずルイス・モホロがドラムで受けた。
 前半は40分、後半30分。それぞれ一本勝負のフリージャズ。ソロ回しは皆無。メロディもほとんど無い。展開やコール&レスポンスも控え、ほとんどてんでにテンション高く突っ走った。

 マイクは立ってるが録音用らしい。ベースのみアンプを通したが、1stセットではボリュームが小さく、ほとんど聴こえない。ぼくの座ってる位置では、ほとんどモホロとトビアス・ディーリアスのサックスが聴こえるのみ。前から3列目に座ってたのに。

 ヘンリー・グライムズのベースは音圧のみ響き、原田のピアノすら聞こえぬ場合多し。
 トリスタン・ホイジンガーのチェロにいたっては、かろうじて空気の震えのみ感じた。
 パルスのようなモホロのドラミングが響き、ディーリアスがステップをせわしなく踏みつつ、単音や短いフレーズを突き刺す。互いの音は聴いても、あえてあわせない。

 ディーリアスがマイクから若干距離をとったのは、音量バランスを意識してか。実際はPA無しだから、さほど意味無し。けれども音量控えめを配慮はありがたい。
 ffのブロウが延々続いたらアンサンブルが破壊され、かなり辛かったろう。

 グライムスは淡々と猛烈な勢いでベースを操った。冒頭はアルコ、ついで指弾き。
 唐突に脈絡なく、ベースを床に置く。横のバイオリンを手に取り、ぎしぎしと弾き始めた。
 フレーズはいまひとつ聴こえづらいが、やはりメロディとは別ベクトル。
 しばらく弾いて止め、ベース演奏へ戻る。この持ち替えは1stセットだけで2回ほど行われた。

 エキセントリックな演奏を聴かせたのがトリスタン・ホンジンガ。指板へ頬を押し付けんばかりの勢いで、闇雲にアルコをチェロへ叩きつける。
 高音を軋ませ、激しくかきむしった。ほぼアルコのみの演奏。面白そうな音がもれ聴こえたが、さすがにこの編成で生音はきつい。
 エンドピンの先を木のきれっぱしに刺し、両足をひっきりなしにバタバタさせながらの演奏。

 そして原田はクラスター中心の奏法。ピアノですら聴こえづらかったが、ほぼメロディやコードは希薄。とにかく手のひらや指を鍵盤へ振り落とす。
 ピアノというより、88個の打面を持つパーカッションを演奏するかのよう。スピーディに弾きまくる。高音鍵を両手で叩きのめした。

 モホロのパルス・リズムにディーリアスの中途半端なサックスが挿入される音像が延々続き、発展しない。途中でちょっとダレ気味なところも。
 ディーリアスがクラリネットへ持ち替えたが、フレーズがピリッと来ないのは同じ。
 実際、たちまちテナーへ戻した。

 グライムスが最初にバイオリンを持ったとき、偶然グライムスとホンジンガのみが抽出され、弦のみの構図となった。軋む音のみが宙を舞う。ここで場面が変わり、きれいだった。
 しかしメリハリ効いたのはつかの間。原田が鍵盤を押さえ、モホロが叩き始める。
 シンバルがなんどか打ち鳴らされ、クライマックスへ突入した。
 前半は40分間、ほぼ変わらぬテンションが持続した。

 後半セットも基調は同様。しかし耳が慣れてきたのか、すんなりと楽しむことが出来た。
 さらにベース・アンプのボリュームを上げて、グライムスの音をくっきり聴こえたのもありがたい。しょっぱなは指弾き。
 つるべ打ちで弦をはじき続け、怒涛のバラまきを続けた。がむしゃらに弾くさまは凄みあり。襟を立てたシャツに首を埋め、目をぎょろっと輝かせた。
 さほど周りの様子を伺う感じじゃない。あくまで独自の世界をストイックに攻めた。

 唐突に弓を置くのは前半セット同様。グライムスはバイオリンをかまえ、かなり長尺のソロをとった。
 音色に趣きはなく、ひたすら金属質。いくぶんメロディの動きを感じさせる。
 奔放にひとしきり弓を操ったあと、フレーズの終盤や盛り上がりも意識せず、いきなりバイオリンを置き、ベースへ戻った。

 彼の演奏は、とにかく指先のめまぐるしさがスリリング。
 メロディやフレーズが無くとも、マシンガンのような高速フレーズが圧倒的だった。
 ヘアバンドした顔や額が、あっというまに汗まみれに。
 
 ホンジンガーが影響されたか、テンションのギアをもう一段上げた。弓の動きは激しくなり、単に弦へ弓をこすり付けてるだけ、みたいな光景に。
 さらに弾きながら立ち上がり、中腰でチェロを弾きのめした。押さえる場所はほとんど変わらず。がむしゃらに弓でかきむしる。
 
 エンドピンを置いた木っ端も外れてしまい、ひとしきり弾いてちょっと落ち着いたとき、あらためて先端を刺しなおしていた。
 途中でメロディを志向し、ソロっぽい風景も。ただし音量が埋もれてしまい、効きづらかったのが残念。

 ディーリアスは途中でクラリネットも持ったが、ほとんどはテナー。音数やアプローチは前半とさほど変わらない。
 ホンジンガーが盛り上がった辺りで、テナーもぐいっと前のめりの音へ。
 モホロが「Go!Go!」とあおった。
 ディーリアスの音数が増えることは無かったが、幾分、音圧が上がったと思う。彼も終盤ではシャツが汗でぬれそぼった。

 モホロは後半セットでスティックを次々変える。ほとんどはプラスティックのササラみたいなスティック。
 音量を配慮したか。ハイハットを踏み続け、スネアを中心にタムを混ぜて規則正しい連打を続ける。
 ときおりスネアの響き線やフロアタムをまぜて、ビートの目先を変えた。
 スティックは後半冒頭で頻繁に変える。途中ですりこぎめいた、太い木製スティックを持った。ドラムは強打せず、スティックをクラベスのように打ち鳴らす。
 
 ほとんど視線を合わせないアンサンブルの中、モホロは比較的まわりを見ていた。鋭い目つきでディーリアスやグライムスの様子を伺う。
 ハイハットのポジションが合わぬのか、ときおり叩きながら引きずり寄せる。
 中盤で一度、全く演奏をやめてペダルを直し始めた。ちょうどグライムスがバイオリンを弾いてたときか。
 ここぞとホンジンガーも盛り上がり、前半同様に弦だけのアンサンブルへ。図らずもブレイクの形で、音像が移り変わった。

 原田のアプローチはますますパーカッシブに行く。椅子からはみ出るように、はだしの足を振り回しながら。
 舌を大きく、べろんと強く突き出す。弾きながらパワフルさをアピールする。いくども、舌を派手に見せた。
 いかんせん音がマスクされ気味で、独特の強打を味わうには音量バランス的に辛かった。

 後半セットは短く、30分程度で終わり。シンプルに楽しめた。
 アンコールの拍手が高まったが、メンバーが出てきて挨拶のみで終わり。
 
 かつてのフリージャズ手法を厳格に提示する、頑固なアンサンブルだった。相手に合わせ変化するインプロを聴き慣れると、この手の即興はのめりこむまで時間がかかる。
 PA無しが痛かった。頭の中で楽器バランスを変えるのが難しい。
 録音をCD化する際には、バランスを恣意的にかえてミックスすべきだろう。個々人のアピールがわかりづらい。
 長尺一本やりでなく、短い即興を連ねるなどアプローチに工夫も欲しくなった。

 メンバーではディーリアスがちょっと落ち、グライムズがピカイチ。ホンジンガーの音も、もう少しきちんと聴きたかった。
 新しい地平を目指す即興とは違うが、生々しいフリージャズを味わえたライブだった。

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