LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2007/9/24   青山 BLUENOTE 東京

出演:CHICK COREA with 上原ひろみ

 "CHICK COREA Rendezvous in TOKYO"と題された、3days三連荘の初日2ndセットへ行った。
 ちなみに他の3daysはジョン・パティトゥッチ(b)、アントニオ・サンチェス(ds)とトリオ、最後がベラ・フレック(banjo)のデュオ。上原ひろみ人気も手伝ってか、この日は完売だったらしい。
 チック・コリアはリターン・トゥ・フォーエバーを数枚聞いた程度。上原ひろみは初めて聴く。

 時間を10分ほど押して、ステージが明るくなる。スタッフに連れられ、チックと上原がいきなり登場した。てっきりゲスト扱いで、上原が現れると思ってた。
「チューインガム噛んでるけど、気にしないよね」
 にやりと笑うチック。グランド・ピアノが向かい合わせにセッティングされたステージへ腰掛ける。
 さほど巨体じゃなさそうだが、軽々とグランドピアノへ頬杖つく体格がごつい。

「あんまり有名じゃ無いけど、いい曲だよ」
 そう紹介して、ビル・エヴァンスの曲で幕を開けた。

<セットリスト>(不完全)
1.(ビル・エヴァンスの曲)
2.サマー・タイム
3.デジャヴ
4.ハウ・インセンシティヴ
5.(?)
6.バルー・ボリヴァー・バルーズ・アー
(アンコール)
7.スペイン

 上原と完全連弾でステージは進む。左右の音がくっきり混じり、どちらを誰が弾いてるかわからなくなるときも。チックの指先が見える位置に座ったため、かろうじて区別ついた。
 気のせいかもしれないが、上原のほうが高音強調のPAに聴こえる。チックは穏やかなタッチで、鍵盤を押さえた。

 上原は頭を高々と結い、ときおり唸りながら弾く。高音を派手に駆け抜け、その勢いで指を中へ跳ね上げた。さらに激しい打音から真下へ指へ弾き下ろす仕草。けれんみあるプレイだった。
 指は確かにかなり回る。ときおり高音部分でリズムが震えるが、軽やかにアドリブを紡いだ。

 チックと上原が交互にソロ回しの様子。チックは上原のソロでもかまわず、奔放に鍵盤を押さえる。単なるバッキングにとどまらぬ音使いは見てて面白かった。
 とはいえかなりリラックスしたプレイ。

 続く"サマー・タイム"では、自由にコードを互いが変えあう。基調だけ残し、響きはときに不協和音っぽく。豪快にあっちこっちへ飛び交う和音の響きが心地よい。
 ソロはそれぞれ長め。一曲をけっこう長尺で奏でた。

 曲の合間、水で一服するチック。ふとペットボトルを掲げ「カンパーイ!」と呼びかける。何人かの観客がグラスを上げ、呼応した。チックは満面の笑い顔を見せた。
 次は上原のオリジナルらしき"デジャヴ"。ほんのりセンチメンタルなテーマを見せたが、すぐさまアドリブの渦に溺れた。

「いろんな素敵な作曲家がいる。たとえば、スティーヴィー・ワンダー、とかね。ぼくが好きなA・C・ジョビンの曲をやろう。"ハウ・インセンシティヴ"」
 つい数日前、菊地+大友のライブで聴いたばかりの曲。妙なシンクロニシティが愉快。
 チックがインプロを華麗に広げ、土台を作る。上原がしずしずとテーマで参加した。
 メロディが次第にフェイクし、アドリブへ繋がる。

 もっとも派手だったのが、次の曲。全編が即興みたいだったが、どうやら曲らしい。
 中盤で豪快なチェイスを聴かす。上原が高音を猛烈に駆け抜ける。チックは丁寧に和音と、鍵盤を右から左へ素早く流れるフレーズで応えた。
 幾度も二人のアドリブ合戦が繰り広げられた。

 二人とも演奏中に視線を交わさない。最後は息を合わせ、一気にコーダへ。
 観客から大歓声が上がった。二人は立ち上がり、観客の拍手へ応える。
 
 本編はここで終わりな演出なのかも。実際はそのままピアノへ座り、モンクの曲を奏でた。
 てっきり"ブルー・モンク"かと思ったが、"バルー・ボリヴァー・バルーズ・アー"("ブリリアント・コーナーズ"収録)だったらしい。
 チックが低音部の弦を内部奏法でミュートし、クラヴィネットみたいな響きを出す。
 椅子から全く立ち上がらず、軽々と中へ腕をつっこむ図体がすごい。
 アドリブとテーマが幾度か繰り返され、上品にステージを終えた。

 アンコールの拍手へ、首にタオルを引っ掛けた姿で応える。
 ちょっと相談のそぶり。やがてチックがピアノの前に座り、さりげなく鍵盤を押さえた。
 テーマが流れた瞬間、どよめきと拍手。曲名思い出せなかったが、どうやら"スペイン"を弾いたらしい。低音押弦の奏法をチックが再び。アナログ・シンセみたいな響きを出した。
 上原もきれいにアドリブで加わった。熱っぽく鍵盤を叩いても、常に観客の目を意識し華のある奏法だった。

 一時間強のステージ。熱気を見せず寛いだ、チックの風情にもどかしさもあった。ともあれ着実なテクニックを、悪戯にひけらかさぬゆったりなステージだった。

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