LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2007/9/23   新宿 Pit-Inn

出演:菊地+山下
(菊地成孔:sax、山下洋輔:p)

 今年で4年目という、菊地成孔3daysの最終日。客電が落ち、テナーを持った菊地が素早く現れる。すぐ後ろに山下洋輔が。椅子に腰掛けた山下は、そのまま静かに待った。
 菊地は挨拶で軽く笑いをとり、山下へ軽く手を振る。演奏のきっかけを促した。

 ごっつりと、そして優雅に。コードが提示され、テーマへ向かう。山下が左手で紡ぐ、三音のリフが心地よい。菊地のテナーもコードをなぞり、アドリブへ向かった。
 メロディが解体され、ときおりフラジオを混ぜる。コルトレーン風に早いパッセージを多用し、めまぐるしく音を吹き連ねた。
 サックスはテーマを崩し奔放なメロディへ向かい、不意にテーマが浮かび上がる。
 アドリブは比較的長尺。山下へソロを回したが、圧倒的に菊地のほうが長かった。
 冒頭のテナーのソロが終わったとたん、拍手が飛ぶ。

 最後にピアノとテナーでテーマを。三音リフを、サックスがセクシーに吹き上げる。
 音程をぐいっとひねり、譜割を溜めて。ふくらみが心地よい。
 ピアノと連れ立ち、たっぷりニュアンスをこめた音使いだった。

 無言でアルトへ持ちかえる菊地。山下へ冒頭をまかす。
 丁寧に右指が早く動き、ぱらぱらと加速した。サックスはしばし様子を見て、いきなりつっこむ。
 音像だけなら、ハイテンションのフリー・ジャズ。しかし二人とも、余裕たっぷりだった。
 即興だ。菊地は譜面を見るそぶりで視線を譜面台へ落とすが、明らかに奔放な展開。
 山下の動きが次第に早くなり、ひじ打ちを丁寧に鍵盤へ落とした。右小指を僅か立て、32分音符と64分音符で高音部分を素早く弾く。

 アルトのフレーズはピアノへ切り込むが、菊地もゆとりあり。リラックスした面持ちで、サックスを軋ませた。
 山下の左手が連打でテンポを出す。すかさず菊地が乗っかり、サックスのロングトーンで合わせた。二人の音は絡み合い、じきに離れてく。
 賑やかにコーダを決めた。
 肉体的に素早い運指で額に汗が滲んだ山下は、腕で汗を拭う。しかしオーラは穏やかだった。
  
 テナーへ持ち替えた菊地。喋らずに、テーマをロマンティックに吹いた。バップ風のテクニカルなアプローチにこだわってた気がする。
 菊地の丁寧なタンギングが音を柔らかくする。フリーク・トーンは積極的に出すが、循環呼吸を使わぬのは昨日と同じ。
 こまごまなフレーズまで、きっちりタンギングに聴こえた。指に任せず、くっきりと旋律が提示された。

 この曲が終わって、菊地のMC。思ったより早く進んでるから、時間調整と称して。

<セットリスト>
1.Orange is the color of her deress,then blue silk
2.即興#1
3.You don't know what love is
4.即興#2
5.Black and tan fantasy
(休憩)
6.Fables of Faubus
7.即興#3
8.Lush life
9.即興#4
10.My grandfather's clock
(アンコール)
11.Say it (over and over again)

 1曲目はミンガス。3days初日にもやったそう。「3日間来た人は聴いたと思いますが」と断り、簡単な曲紹介を。3曲目は昨日も演奏した。

 山下の横にマイクが置かれてるが、喋りには加わらず。ときおり菊地のギャグに肩を震わせるのみ。
 3曲目"You don't know what love is"の話から、チェット・ベイカーの伝記本へ。ロリンズとベイカーのニュアンス違いを喋ったときには、店内の後ろ、PAの辺りから笑い声が聞こえた。
 
 ひとしきり喋り倒し、サックスをアルトへ持ちかえる。この日は即興をアルト、曲をテナーと使い分けた。
「次の即興はきっちり11分で終わらせて見せますよ。3時間やるバンドとかで、制限時間守るうちに体内時計が出来ました。職業病というのでしょうか」

 前置きして、アルト・サックスで切り込んだ。
 裏拍から噛み付く、ビバップ風の速く短いフレーズ。幾度も繰り返す。
 即興ではあるが、構築度が高い。アドリブしながらしきりに、このフレーズへ戻って確認し続けた。
 山下の暴れっぷりもおとなしめ。中盤ではテンポダウンし、ロマンティックな風景へも行く。勢いと加速志向だけでなく、優雅さを求める菊地流の即興嗜好が興味深かった。

 スピーディに幾度も冒頭フレーズを、硬質に奏でる菊地。ソプラノを吹いてるような耳ざわりだった。クールでダンディにサックスを吹きまくった。
 終わりかけて山下が盛り上げる。やがて着地。時計を見たら、12分程度。おみごと。
 1stセットの最後はエリントン(作曲はストレイホーン)の"Black and tan fantasy"。
 熱っぽくグルーヴィにメロディが奏でられ、ピアノのアドリブが揺れる。じわじわと山下のテンションが高まった。ひじ打ちはあくまで優雅に。ピアニッシモで押さえる場面も。あくまでクラスターの表現として、丁寧に腕を山下は使った。
 指先がめまぐるしく鍵盤を叩く。

 サックスのソロもフラジオとブレスノイズを取り混ぜ、軋みながらメロディを展開した。同一音の連符でタンギングの丁寧さを表現する。
 山下に負けず、ここでの菊地のソロは熱かった。
 コーダが決まった刹那、観客から大きな拍手と歓声が飛んだ。約50分の演奏。

 2ndセットも基本的にさくさく進行する。山下は一度も喋らず。2曲終わったところと、最後の前に軽く喋った。
 まず登場していきなりテーマを。ミンガスの"Fables of Faubus"。テナーがちょっとロレって苦笑しながら、楽しそうに菊地は吹き鳴らした。
 ピアノがぐいぐい左手でノリを加速させる。

 続く即興は山下に主導権を任せたろうか。初手から猛スピードで疾走し、がんがんに盛り上がる。アルトを菊地は軋ませ続け、山下が両手を交差させ鍵盤を叩き続ける。
 かなり長めにアドリブが続き、たっぷりとフリージャズが溢れた。

 MCを挟み、エリントンの"Lush life"。
「この曲はヴァースがたっぷりあって、本歌が始まると終わってしまう」
 曲構造やエリントンへの賛辞を前置きに、テナーでゆったりと菊地はメロディを紡いだ。
 ヴァースを丁寧にアドリブを混ぜながら進行。やがてテーマへ繋がる。ピアノが柔らかくサックスを受け止め、即興へ。存分にテナーが鳴った。
 最後までピアノのソロは無し。"Lush life"ではサックスだけがアドリブを取る、贅沢なアレンジだった。

 "即興#4"は菊地のアドリブ主体だったか。硬質なフレーズが錯綜するイメージあり。 ぎしぎしと軋みあう。これも長尺気味な演奏だ。
 終わったときには大きな拍手。

「子供の頃から、ずっと頭に残っていたメロディの曲です」
 菊地がしみじみと曲紹介をする。山下のアルバムで選曲したのが、菊地の思い入れとは知らなかった。曲は、"おじいさんの古時計"。
「毎年やってます」と菊地が笑う。

 テナーが軋み、震えながら朗々と旋律を提示する。フラジオ気味に、時にロングトーンで音が途切れ裏返る。鮮烈な優雅さをサックスで表現した。
 ピアノがどっしり受け止め、アドリブへ向かった。
 ディキシー調で奏でたら映えそう。二人はフリーとバップが混在する、今夜の方向性を踏襲したまま、がっぷりとアレンジした。存分に菊地のブロウが続き、ピアノへ。存分に演奏した。

 後半セットだけで70分くらい。さらにアンコールにも応える。
 MCが始まり、やっと口を開く山下。もっともマイクは持たず。もっぱら菊地が喋った。
 山下のニューヨーク・トリオのライブ紹介の話題から、セシル・マクビーの話に。
 NYのファッション・ブランド、セシル・マクビーは、彼の名前から取った(らしい)エピソードの話に、菊地が大うけ。
「社長がまず名前でセシルって思いつき、もう一言欲しいと"マクビー・・・"って浮かんだとか。ありえないよな」
 山下が笑う。彼も弁護士と話すような事態だったとか。セシルは裁判も想定したが、NYの判事が取り上げなかったそう。

 話はあちこちへ飛んだ後、菊地が観客へ3daysへの謝辞を述べる。
「最後はこの曲。"I love you"を何度も言ってくれ、ってニュアンスの曲です」
 と、告げた。テナー・サックスを持つ。コルトレーンの"バラード"一曲目の曲、と紹介した。
 スローテンポで炸裂する。溢れるアドリブが充満した。
 
 終演は23時を回る頃合。喋りもさりながら、二人の演奏もたっぷり。
 山下の貫禄に支えられた菊地がのびのびと吹いた印象。
 激しさ一辺倒に陥らぬ、寛ぎ濃密なジャズを存分に味わった。

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