LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2007/9/22   新宿 Pit-Inn

出演:菊地+大友
(菊地成孔:sax,vo、大友良英:g)

 菊地成孔3daysの2日目(初日は南博とのデュオ)。ぎゅうぎゅうに詰め込みクレーム出たという昨年を踏まえ、各日が150人限定。チケットは瞬殺し、なかでも大友良英とのこの日が、真っ先に売り切れたそう。
 ステージ下手にグランド・ピアノがセッティングされ、中央と上手に椅子。
 上手にギターが一本、置かれていた。
 フロアは後方1/4くらいを立ち見スペースに開放。先日の東ザヴィと同程度の混み具合か。

 スムーズに客入れは進み、開演を待つ。20時を15分ほどすぎ、おもむろに客電が落ちた。
 頭に縁の太いメガネを引っ掛けた菊地と、アコギを持った大友が無言で現れる。
 拍手の中、ステージの椅子へ座る二人。MCもなく、そのまま演奏に向かった。
 
 静かにエレキギターをハウらせる大友。しばらく耳を傾けた菊地が、アルト・サックスを構える。
 そっと息を吹き込み、ぱたぱたとキーを押してタンポを鳴らした。そっとノイズが二人から産まれ、サックスは次第に音が太くなる。
 やがて菊地はアドリブへ向かった。

<セットリスト>
1.Inst.#1
2.?
3.Inst.#2
4.Text Reading #1
5.Text Reading #2
6.You don't know what love is
(休憩)
7.Inst.#3
8.名手は雨の日でも命中させる
9.Text Reading #3
10.Sweet Memories
11.Inst.#4
(アンコール)
12.White Christmas

 "Inst.#"と書いたものは単に曲名不明。即興か曲かはわからずじまい。
 結局本編では、MCが全く無し。ストイックに音楽へ向かう姿勢をとった。
 (1)は大友がシンプルなハウリングでの、ギター・ノイズを提示した。菊地が奔放にメロディを操る。滑らかな旋律から曲も連想した。
 ノイジーさやテンション高く切りこまない。あくまでクール/ダンディなアドリブ。

 この曲に限らず、菊地は循環呼吸を使わず。大友と静かにロングトーンで鳴らす場面も、律儀に菊地はブレスを取る。
 またフリーク・トーンもライブ全般的に少なめ。楽器を曲ごとに持ち替え、きれいにサックスを吹いた。

 大友はどの曲でも真剣な面持ちでギターを弾く。リラックスしつつ、真剣さも滲み出る。
 ノイズを出すときも、音量は控えめ。フィード・バックも静かに響かせた。
 手数は少なく、一音一音を丁寧に紡いだ。

 続く(2)で菊地はテナー・サックスを膝に乗せ、マイクを引き寄せた。英語歌詞でボサノヴァっぽく歌いだす。タイトルは不明。
 クルーナー調のボーカルは、すんなりとメロディをたどった。フェイクは少なめで、淡々と。この歌が、もっともキュートだった。
 大友はエレキギターを抱え込み、さくさくとストローク。アドリブはほとんど無く、バッキングに徹した。
 間奏でさくっと菊地がテナーをくわえ、野太く旋律を提示した。

 テーマへ戻る部分で、ちょっと歌に入りそこね4小節ほど手間取る。大友は無表情にギターを弾いた。
 菊地は再び歌いだす。エンディングで二言三言、スキャットを挿入。
 左耳の三連ピアスがライトの光を反射して、きらっと光った。

 (3)はインスト。菊地はアルト、大友はアコギへ持ちかえた。菊地が冷静なアドリブを紡ぎ、大友のプリペアード・ギターっぽい歪んだ響きに立ち向かう。
 菊地がメロディを使いながらも一歩下がり、ギターを立てたアレンジに聴こえた。

 手元がよく見えなかったが、大友はときおりピックをくわえ、指先で弦をはじく。
 いくつかの道具を弦に挟み、鳴らしていたのか。倍音や錆びた音色がアコギから引き出される。
 サックスがあっても、耳ざわりはノイズ嗜好。二人は視線を交わさず、互いの音楽へ相対する。面白かった。

 菊地が本を取り上げ、(4)"Text Reading #1"。雑誌のように見えた。菊地がテキストを読み上げるパフォーマンスは、初めて見る。
 あらゆる性嗜好が享受できる"ヘルファイア・クラブ"で、クイーンとなった女性の独白がテーマ。菊地は無表情に、間をたっぷりとってセクシャルな言葉を連ねた。

 (  )を律儀に数度「カッコ」、と読み上げる。「カッコ閉じる」と、一度だけ、(4)では言った。テキストへ没入しそうな瞬間、この発言でふっとテキスト朗読行為に引き戻される。
 テキスト・リーディングは全部で3曲、今夜提示した。朗読のスタイルは、曲ごとにまちまち。
 もしかしたら、あえて菊地は全てでアプローチを変えたのかも。
 あくまでも朗読で、メロディ的な展開は無い。しかし間が大友のギターと絡み、シンコペートや奇数連符のつるべ打ちのせめぎが、確かにあった。

 大友のギターも抜群。特にこの曲でのエレキギターは冴え渡った。
 膝にエレキを乗せ、ピックアップ部分に箱を載せる。あの箱はなんだろう。ハウリングが小さく響く。
 構えなおし、磁石を近寄せたり、そっとフィードバックの残響を空間へ提示。
 メロディは断片のみで、響きそのものを巧みに操った。リズムやビートは気にせず、奔放で冷然なギターだった。

 曲が終わると、二人は時間をチェックし苦笑のそぶり。すぐさま次の(5)へ。
 今度はハードカバーを持つ菊地。冒頭から早口で読み上げた。追っかけでギターが入る。
 中世ヨーロッパと思しき舞台の料理手法がテーマ。ノンフィクション風だ。

 ときおり噛みながら、初めでは「カッコ」と数度言う。後半は文章的に「カッコ」がありそうな部分も後半では言わず。
 喋るテンポは次第に遅くなったが、あまり意味伝達を意識しないリーディング。テキストの羅列による酩酊を狙ったがごとく。抑揚を廃し、段落の切れ目もあまり強調しない。ひたすら料理手法を提示した。

 ギターはアコギのシンプルなリフを、淡々と連ねるのみ。菊地も大友も互いの音を並列させ、なおかつギターも変化無し。ぐいぐいと単調に繋がる音像が空気を引き締める。
 唐突に菊地が、本を足元へ放り投げた。
 すばやくテナーを構え、アドリブのメロディで雰囲気を和らげた。

 前半最後は再び菊地の歌物、"You don't know what love is"。菊地はソプラノ・サックスを吹く。ときおり音程を震わす歌から、サックスのソロへ。
 大友も長めのギター・ソロを取った。エレキギターだったかな。俯いたまま無骨に大友はフレーズを重ねる。
 歌からコーダへ。二人はすっと立ち上がり、菊地が大友の名前を紹介。休憩を告げて、楽屋へ去った。約50分の演奏。

 21時40分頃に客電が落ちる。暗闇のなか、ちょっと間を置いて二人はステージへ戻った。
 冒頭は即興っぽいインスト、(7)。
 ギターが爪弾くフリーな演奏するなか、菊地はサックスを選びかねるそぶり。ソプラノからアルトを手に持ち、やがて置いてしまう。
 結局、ソプラノを持った。メロディは引き締まった感触。今夜のライブで、比較的アグレッシブさが出た。

 サックスをアルトへ持ち替え。膝において譜面へ顔を近づけ、"名手は雨の日でも命中させる"を。大友はシンプルなリズムで伴奏役。
 たどたどしさをちょっと残すそぶりで、菊地は歌った。
 間奏でまず、長めのスキャット。肉声ゆえかフェイクの幅はシンプル。スキャットの言葉遣いも、あまりバラエティを持たせなかった。
 訥々とメロディが上下し、ときおり母音が変化する。スラーを中心にしつつ、アクセントは断続的に。

 サックス・ソロのとたん、音世界が引き締まる。あえてテンションを多様したのか、大友の提示する和音とサックスの親和度が薄い。
 落ち着かないメロディがサックスからふんだんに溢れる。
 きりきりとサックスは舞い、次第に二人の演奏が寄り添った。

 "Text Reading #3"がもっとも前衛的な構造。文章のテーマは初めて雪を見たと語り合う、日常から離れた世界。SFっぽいが、意味を追ってて混乱する。支離滅裂にテキストが動き、文体も変わる。
 落ち着いた地の文章へ"マットな"って形容詞が唐突に入り、やがて口語的な頻度が強まる。雪を天使の皮膚にたとえた表現が、菊地好みと感じた。
 ハードカバーらしき本。途中から菊地の手元を意識していたが、ページをめくるそぶりに気づかず。
 かなり長い文章だったが。まさか全て、即興的に喋っていたのか。

 大友はギターのストロークから、途中でメロディを明示した。曲名が思い出せない。
 奔放に喋り続ける菊地を横に、優雅に大友はテーマを奏で、アドリブに。
 メロディアスなギターの観点では、この瞬間がとても美しかった。

 菊地は「カッコとじる」もいくつかアクセントのように喋る。まくし立てはときおりつっかえ、テンポをつんのめらす。
 テキストの意味を途中で追わず、音の羅列で追う。ギターと言葉は複層的にからんだ。
 コミュニケーションを全面に出さないが、菊地の朗読はギターのフレーズをきっちり聴く。半拍間を置き、裏から素早く滑りこんだ。ギターの4拍子とぶつからぬよう、言葉を切って。かなり長めの演奏だった。

 唐突に松田聖子の"Sweet Memories"。女言葉の歌詞へゲイっぽさを僅か滲ませ、母音の余韻を捻る。
 感情が言葉へほんのり乗り、日本語歌詞から英語へ変わった。
 大友のバッキングは、大真面目にリフも含めて。シンプルな伴奏だった。

 最後に菊地が"ノイズ界のリア王"と大友を紹介したが、その男がリフ付きで"Sweet Memories"を伴奏の絵柄は、ある意味すさまじい。
 普段に大友が弾く音楽と比較するならば。ソロではまず見られない光景だろう。

 後半セット最後は、インストで締める。これも即興かな。菊地はアルト、大友はエレキギター。
 メロディが次第にフリーキーに向かう。フラジオをいくつか軋ませたのもここか。
 最後は二人とも小音量に。音を絞ったエレキギターに、菊地はブレス・ノイズをふんだんに盛り込んだピアニッシモで応える。

 菊地はタンポをぱたぱた鳴らす。今夜のライブで、幕開けに吹いたように。
 二人のライブは冒頭の音世界へ戻ることで終わりを提示し、静寂へ戻った。

 後半も50分ほど。いったん二人はステージから消えた。
 アンコールで菊地がマイクを持ち、喋り始めた。譜面を抜き出し、グランド・ピアノの譜面台へ置く。

 本編のストイックなムードを払拭する暴露話に、硬い客席の雰囲気も暖まった。
 20分くらい、ギャグを飛ばしながら喋り捲る菊地。突っ込み通しの菊地に、大友も大苦笑と爆笑の連発だった。
 あまり説明無しに、話題はあっちこっちへ飛ぶ。その場で会話を楽しむそぶりだった。
 
 ようやく喋りが一段落、菊地が譜面を見る。
「あ、楽屋に楽譜忘れた。ちょっと喋ってて」
 言うなり駆け出す菊地。グランド・ピアノに目をやり「あった、あった」と立ち止まった。

「冬の曲です」
 菊地は告げて、ピアノへ向かった。軽やかに鍵盤へ指を乗せ、ヴァースを歌う。
 大友はエレキギターを持ち、興味深そうに聴いていた。

 一呼吸置いて、菊地は平歌へ。大友もロングトーンで加わる。たっぷり、一音一音間を置くアレンジ。菊地が"0ver the rainbow"でやるように。
 キーボードを弾く菊地はライブで幾度か見たが、ピアノを弾く姿はまた別のかっこよさがあった。

 フェイクは控えめ、メロディをじっくり歌った。
 最後はロング・トーン。ギターのフィード・バックが響き、菊地は大友を見つめる。
 音が消えるまで、身じろぎせずに大友は構えた。そして、無音へ。

 菊地は大友を紹介し、中央でがっしり握手。楽屋へ消えた。今夜は前日にあったという、サイン会は無し。

 23時ごろの終演。どっぷりジャズをやると予想したが、もっと突き抜けた朗読パフォーマンスを前面に出したセット・リストだった。
 轟音テンション一発な即興は控え、音を絞り込み向かい合う。サービス精神をそぎ落とし、張り詰めたスリルと溢れるメロディ、そしてアクセントの交錯を楽しむライブだった。

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