LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2007/9/16   新宿ピットイン

出演:東京ザヴィヌルバッハ
 (坪口昌恭:Key, Computer、菊地成孔:sax、三沢泉:Per、numb:Live Electronics)

 06年5月ぶりのライブ。ピットインでの坪口2daysの後半に東ザヴィがブッキングされた。予約でいっぱい、当日券が30枚のみ出る動員。立ち見スペースを広くとり、ぎゅうづめほどでもない。
 椅子は側面にもびっしり並び、楽屋の前まで潰す。どうやってミュージシャンが登場かと思ってたら、ステージ横から現れた。向かいのピットイン・スタジオを楽屋にしてたのか。

 坪口はシンセ2台にノートのマック、さらに横へ機材も。菊池はCD-Jやキーボードが無くなり、シンプルなセットになった。しかもサックスは生徒のものを借りてるとか。えらい気軽なスタンスだ。

 ステージ後方に三沢泉。コンガやジャンベをずらり並べる。さらに横へ各種シェイカーを準備したようす。
 numbも正規メンバー扱いかな?ノートPCを一台置き、卓をいじる。

 20時を数分回ったところで、客電がばらばらと落ちる。
 東ザヴィは03年4月ぶりに聴く。かなり音楽性が変わっていた。

 まず坪口がいくつか機材をいじり、リズムとベースパターンを出す。"M"かな?坪口のサイトによれば前回ライブでは"Ableton Live5"に取り込み、Mを使用しないパターンもあったらしい。

 ともあれパターンが響く中、菊池や三沢はじっと耳を傾ける。numbのみがつまみをしきりにいじっていた。
 おもむろに菊池がアルトを持って、立ち上がる。いきなり吹き出した。
 前に聴いてたライブでは、なかなか吹かなかっただけに嬉しい。ちなみに今夜は吹きっぱなし。菊池のサックスを堪能できた。

<セットリスト>坪口昌恭のサイト記載リストより転載
1.Mr. P.D.(Peter Doigに捧ぐ)
2.R&B+-
3.Absinthe
4.6 Dreams
5.Shout(Randy Hall & Robert Irving III)
(休憩)
6.76 Space
7.Horizoning
8.Ask Me Now(T.Monk、Bird Conduct方式)
9.House Five
10.Predator(Wayne Shorter)
(Encore)
11.8:30

 2曲を除き初演だそう。1st/2ndともにメドレー形式。譜面をめくったり、菊池がサックスを持ちかえる箇所を1曲とすると、それぞれ5曲くらいやっていたようだ。
 菊池はまずアルトでパルスのようなフレーズを吹き鳴らす。ほとんどパターンを変えず、リフのように。
 やがて三沢がシェイカーをためらいがちに振る。コンガへ手を振り落とした。

 冒頭の曲は混沌さを前面に。わずかにポリリズミックな響きでキーボード・ソロも目立たない。
 鋭角なアルトの響きとnumbのせわしない卓の操作が目立った。

 numbがどこまでリズム・トラックをいじっていたのかよくわからない。音色や定位を操ったみたい。
 2曲目でキーボード・ソロがたっぷり出たとき、弾きながら音色がぐねぐねと変化する。あれもnumbの操りか。
 ときには明確に左のチャンネルに全ての音を集め、じわじわ右へパンさせる手法も。キーボード・ソロのとき、くっきりと低音ビートが前へ出た箇所もあった。

 大胆だったのが4曲目あたりや後半冒頭のサックス。菊池のアドリブやフラジオをその場でディレイさせ、吹き続ける菊池の音へ重ねる。ダブ・ミックスのサックスが唐突に奔出し、漂った。
 ある意味、出音までままならぬセッティング。菊池は涼しい顔で演奏を続けた。

 つまりかなりnumbが、出音のバランスや響きで主導権持っていそう。
 この点、今夜の位置づけはかなり強かった。

 残念なのが三沢の立ち位置。各曲の冒頭やポイントでさまざまなシェイカーを振り、中盤でパーカッションを叩く。ポリの位置づけかもしれないが、アンサンブルをひっぱるポイントが無い。
 リズムを刻み続けもしないので、あくまでアクセントにとどまる。1stセット最後で譜面をめくる仕草があったので、インプロで参加じゃなさそう。
 三沢がいる必然性を、もう少し強めるアレンジが欲しかった。手を休めてるときも、所在なさげに見えてしまう。

 ステージから受ける印象はそっけない。メドレー形式でMC皆無。菊池は一歩引き、愛想を振りまかない。
 そして坪口は次々に機材を操作し、ひっきりなしさが目立った。

 坪口のソロも無論あったが、とにかくサックスが一杯聴けた。
 2曲目でテナーへ持ち替えた菊池は、まず太いジャズをたっぷり。ブレイクをはさみ、アフリカンさを強調して疾走する。

 曲名は不明だが、フュージョンっぽい響きが明確に提示される箇所もいくつか。坪口が複雑で爽やかなコードを提示し、サックスが巧みにソロを紡ぐ。
 曲のつなぎはブリッジのように、電子音が交錯する箇所をあえて置いたようだ。
 サックスやパーカッションが音を止め、坪口だけがキーボードと対峙する。

 前半で菊池がas、ts、asともちかえ、ssで2曲。
 3曲目では曲中にasとtsを持ち替えたかな?ビートも複雑で、5、6、7拍子が入れ替わるように聴こえた。
 1stセット最後は、マイルスの"The Man with the Horn"からカバーしてたらしい。
 
 後半セットは菊池がts、as、ts、ss、tsと持ち替えた。
 ときおり大きく髪の毛をかき上げ、額を手で拭う。

 2ndセットも曲によって、あからさまにフュージョンっぽいアプローチも。抽象的なサウンドをライブでばら撒く印象あったので、なんだか新鮮だった。

 特に3曲目。打ち込みビートが美しいコード進行の断片を刻み、キーボードが輪郭を作る。聴き覚えある曲だが、なんてタイトルだろう。
 アドリブはテナーが受け持ち、じっくりとテーマを吹く。幾度も繰り返し、次第に変奏度が強まった。

 ちなみにこの曲は中盤でシンセのブレイクがあり。菊池が一度、譜面を横へ置いてしまう。
 ぴこぽこと賑やかなシンセのビートで、曲が終わってないことを告げる。いったん譜面を横へ置いてしまった菊池だが、もういちど取り上げた。
 サックスを構えなおし、古いSF映画のようなシンセのビートに載って、朗々と吹いた。

 4曲目辺りで坪口はヘッドセットを取り出し、ボコーダーでアドリブを。
 numbと二人だけでしばらくアドリブを弾いた。フレーズは淡々としており、先鋭性をあえて抜いた感触あり。
 ソプラノを持った菊池の、鮮烈なアドリブと対照的だった。

 最後の曲ではくっきりと曲間を作った。慣れた観客のため、拍手無しで無音が広がる。
 激しいビートでも熱狂までは至らない。どこかクールなポリリズミックを残した。

 ちなみに後半セットではウェザー・リポートの"プレデター"をカバーしたそう。聴いたことなく、どの曲かは不明。

 各セット1時間あまり。MCはステージ最後のメンバー紹介のみ。アンコールで登場して、坪口が喋りはじめた。
 菊池は一歩引いた格好だったが、途中で喋りに参加。二人で盛り上がる。
「脳内判定」ソフトに菊池がはまって、友達ミュージシャンの性格分析で大うけ。坪口の機材が全く減らないことをからかい、三沢と坪口のきっかけの話へ向かう。
 緊迫したフロアの雰囲気が、一気に和らいだ。

 アンコールは9/11に他界したばかりのジョー・ザヴィヌルに捧げ、"8:30"をカバー。
 坪口はボコーダーでソロも取った。

 東ザヴィはずいぶんシンプルで、わかりやすいサウンドになった印象。とにかく菊池のサックスをたっぷりと聴けたのが嬉しい。ジャズから硬質なリフまで、多彩な触れ幅を提示した。
 ビートもnumbの操作で、複雑に絡み合ってるが、いくぶんすっきり。ふっきれたかのよう。
 次回は12月だそう。numbの操作がアンサンブルの刺激を強めたと思う。今後の展開が興味深い。

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