LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2007/8/26   表参道 月光茶房

出演:壷井+藤原
 (壷井彰久:e-vln、藤原大輔:ts,synth)

 隔月開催の月光茶房ライブ・イベントへ。二人のみの共演は初めてだそう。最初に出会ったのは04年2月、鬼怒無月が仕切った"江古田即興運動会"という。
 店内奥のスペースに、どっさり機材が並ぶエレクトリック仕様。壷井彰久は五弦エレクトリック・バイオリン一本、足元にさまざまなエフェクターをずらり並べた。
 藤原大輔は自作ラック(4代目だそう)の横にシンセを置き、ループや音色操作を操る環境。サックスにマイクをつけ、即時加工のアプローチだった。

 構成は全て即興。2ndセット最後は、異様に完成したアンサンブルだった。
 各セット約1時間、それぞれ4曲づつ演奏。曲の長さはまちまち。休憩を挟み、2setの構成。

(1)藤原がシンセを操作し、丸っこい音のビートを提示。いくつかのビートを多層に積む。3拍子っぽい展開へ。おもむろに壷井がメロディを重ねた。ディレイを駆使し、複雑な響きに。

 やがて藤原がテナーを構えた。短いフレーズを吹き、即座に加工。せわしなく機材をあちこち操作する。
 1フレーズをまず歪んだ音色で丸まる繰り返し、さらに前半の骨格だけもう一度、ループするイメージ。 
 途中でぐわっと二人の音が多重に絡み合い、濃密な響きが聴き応えあり。

 藤原のジャジーなサックスに惹きつけられる。たっぷりとソロを聴かせず、ダブ風に挿入。あくまで音世界の一要素としてサックスを捉えた。
 壷井はジャズを意識せず、独自のフレーズ使い。

(2)まず壷井から、と藤原が提案。弾きはじめるが、打ち込みビートが入ったとたんにアンサンブルはかっちりとまとまる。
 バイオリンが6+7拍子のフレーズ風に組み立て、ぐいぐい押す。どんどん世界が暗黒に塗りつぶされた。
 藤原のサックスは前曲と同じように加工された。足に鈴を巻いて藤原が演奏したのが、この曲だったろうか。

(3)壷井にMCを任せ、その場で藤原が打ち込みを始める。会話風に進めたい壷井だが、打ち込みで気もそぞろな藤原のようすがおかしい。
 あっというまにいくつかのボタンを押し、指でなにやら数えながら打ち込みを済ませる。
 
 藤原に進められ、壷井が足元に鈴を巻いた。
 浮かび上がるような、凝った打ち込みリズム。軽やかに刻むビートを、藤原は場面ごとに音色や音数を操り、ぐんぐんシンプルにまとめた。
 バイオリンが弓の背で軽く弦を叩き、サンプリングしてたのもここか。

 二人の応酬なシーンは無く、互いのスペースを尊重しあう。壷井が藤原のサウンドへ合わせた印象もあり。
 
(4)バイオリンのドローンから。ループも重たく沈む。暗黒な世界へ突き進むが、ビートが軽やかで重苦しさは無い。
  バイオリンがリズムと混ざり、どちらが何の音を出してるかわからなくなるときも。
 藤原のサックスがグルーヴィで興味深かった。

(5)休憩時間も熱心に、藤原は打ち込みを続けていた。15分くらいかけて打ち込んだパターンを一気に展開。開放感あるリズムの上を、バイオリンが周辺から突っつく。
 テクノなビートがバイオリンやサックスのメロディと絡み合う。

 藤原は演奏中もひっきりなしにミキサーやシンセのボタンを操作し続ける。バランスや音量だけでなく、音色波形そのものも。
 基本テンポは同一でも、同じパターンを続けることはよしとせず。多彩な展開で長尺の即興でも単調にならぬよう試みていた。

 壷井は藤原のアプローチを尊重しつつ、弓弾きにこだわらない。足元で音色を次々に変えた。

(6)演奏前にやたらとシンセのボタンを押し、藤原自身も「何が出るかわからない」のリズムを使用。
 多層ビートが噴出したが、すぐさま藤原が削って、シンプルに変えた。サックスを混ぜて、だったかな。重苦しい音像を組み立てる。
 壷井が目を閉じ、キーを探るような表情。かなり長いこと、耳を傾けていた。
 バイオリンの隙間が無いくらいの濃密さで、壷井は幾度か切り込みを試みるが、ちょっと見せ場に欠けた感あり。

(7)長尺の即興。MCで盛り上がった"鬼怒無月に捧げる"と、その場で藤原が作り上げたビートが土台。重たいプログレ風に始まったが、すぐにスピードを増した。
 パーカッションの刻みがひとつながりに流れる。拍の頭を壷井が確認すると、中途半端な位置を指定。さらに違う裏のリズムで手を叩く。
 「わかった!」
 唐突にリズムを理解し、バイオリンを弾き出した。

 壷井のバイオリンがここぞと前面に出て、硬い音色で弾きまくる。サックスのアドリブもフレーズがちょっと長めだった気も。

(8)最後は生演奏で、と即座に藤原が提案。壷井がプラグすら抜いて「こんな音しかでないよ」と笑ってみせる。リバーブをうっすら効かせ、ループやディレイは抜いた音色で弾いた。藤原は完全アコースティック。ループも無し。

 異様に二人のアンサンブルが決まる。半拍毎に二人が音を吹き交わし、白玉でテーマを紡ぐ。チェンバー・プログレっぽいアプローチだが、ビート感は希薄。コンパクトにまとまったアンサンブルで、崩壊は皆無だった。
 打ち込みの展開も良いが、このアレンジでのデュオも、もうちょい長く聴きたかった。

 共演といいつつ、ユニークな立ち位置のデュオだった。
 藤原は単独で音世界を構築してしまう。壷井の音を聴いてはいるが、ビートはループに任せてサックスを操るスタンスのため、リズム面での即興性は縛りありそう。
 バイオリンのスペースをあえて作らず、電子音と込みで壷井へ相対した。

 ビートはグルーヴでなく、テクノのように周縁からアンサンブルを固めた。パターンは一度作ったら、音色や音数の出し入れで変化を作る。
 さらにサックスから滲み出るジャズっぷりも美味しい。

 壷井は藤原のサウンドを尊重しつつ音楽を作るため、藤原がサックス中心に演奏し始めると、藤原を壷井がサポートしてるような光景が見えてしまう。
 いっそ壷井が藤原のループを越えて疾走するような、豪腕の展開も欲しかった。
 爆音もなく、コンパクトな響き。二人の端正で濃密ながら、暗黒モードな音楽が堪能できた良いライブだった。

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