LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2007/8/14   代々木 ナル

出演:黒田+小森+西嶋
 (黒田京子:p、小森慶子:cl,ss、西嶋徹:b)

 黒田京子が仕切るナルのセッション。小森慶子とのデュオは幾度かあったが、ベースの西嶋徹が加わったトリオ編成は初めて。
 開演時間は19時半。押すだろうとぎりぎりに行ったら、ちょうど始まるところだった。

 まず黒田の曲から。"砂嵐"の意味を持つ外国語が表題だが、タイトル失念。ダイナミックな展開だった。
 早いフレーズがぶつかり合い、アンサンブルを成立する。かなりリハをやったのかな。細かいやりとりまでぴっちり決まった、スピーディな演奏。
 ソロの応酬よりも細かい切り替えしが爽快だ。

 小森はソプラノでソロを吹きまくり。体からソプラノをぶら下げたまま、クラリネットへ持ち替えた。
 テーマへ戻り、倍テンで突き進む。短い小節のソロ応酬をピアノとサックスで聴かせたのがここか。

 西嶋のベースは初めて聴いたが、スラップ音を装飾に多用する着実な演奏。テクニックよりも堂々たるスタンスが印象に残った。
 惜しむらくはPA無しなこと。ピアニッシモへ向かうと、さすがに音が消えかけてしまう。その直後に太い音を響かせる辺り、奏者のダイナミクスは幅広かった。

 黒田と小森ふたりを相手に回し、たじろがずに低音を唸らす。二人に比べていくぶん音が少なめ。一歩下がった印象あり。
 しかし出るべきところで、音はきっちり主張した。
 だからこそ後述する、西嶋のオリジナルが鮮烈だった。デュオ+ベースの立ち位置がぐいんっと代わり、トリオの応酬が濃密に広がった。

 2曲目は小森のオリジナル"パストラル"へ。改めてじっくりと各人の長尺ソロ。小森はクラリネットを吹く。
 ゆったりとアドリブが展開し、3人の音がふくよかに広がった。ベースはリフからじわり逸脱したフレーズを組み立てる。
 黒田はときおり軽やかに腕を宙へ上げ、鍵盤を柔らかく叩いた。ロマンティックな拡がりが素敵に漂う。

 次に小森が持ち込んだ、ブラジル関係を2曲続けて。彼女は今夜、オリジナルは"パストラル"のみ。後は全てカバーを選んだ。
 まずショーロから1曲。もう1曲もショーロかな?クレツマーを連想するアップテンポなフレーズが疾走する。ブレイクが多く、小森はかかとを高く踏み鳴らしリズムを取った。
 長いフレーズをノンブレスで吹ききる。低音をぶいぶい膨らますリフは、バスクラでも改めて聴きたくなった。

 西嶋のオリジナル曲"蛇"。ポルトガル語(?)の原題があるらしい。
 イントロはアルコ弾きの無伴奏ソロから。スケール大きいフレーズがたちまちに。
 ピアノのソロに向かっても、しっかりとうねりを残した。

 ステージを通して黒田のアプローチは、左手でリズムを刻まず、優美に音像を拡げる印象。西嶋もグルーヴはさほど強調せず、ランニングとカウンターを織り交ぜ組み立てる。 したがって全般的には、ビートが希薄なアンサンブル志向となった。
 ところがこの曲ではベースがくっきりとリフを明示し、独特のうねりを作る。
 小森や黒田の演奏にベースが負けない。がっぷり3人が絡み、熱い響きとなった。

 1stセット最後は黒田のオリジナル"ホルトノキ"。黒田京子トリオで幾度も聴いたが、このアンサンブルではロマンティックさが強調された。
 西嶋と小森は譜面をきっちり見ながら、リフを次々決めていく。アドリブへごく滑らかに繋いだ。

 ソプラノサックスがきっちり響き、ピアノが懐深く受け止める。
 黒田はここぞと即興を展開、繊細さと大胆さが交錯した。この曲だけで15分くらいの長尺。
 最後は静かに着地する。サックスがかすれ気味に音を伸ばした。

 後半セットは小森が選んだエルメート・パスコアルを3曲メドレーで。
 1996〜97年に毎日一曲を作り、00年に"calendario do som"でまとめられた本かららしい。小森→西嶋→黒田の誕生日順に演奏された。
 捻ったメロディをソプラノが奏で、ベースのメロディへ繋ぐ。
 ピアノがそこかしこでキュートに響いた。あっという間に終わったが、即興要素は無しだろうか。

 ここで黒田がスタッフへ目線で合図。フロアの明かりも落とされ、大きなケーキが現れた。今日誕生日の小森へ、"Happy birthday"が歌われる。
 サックスでろうそくを吹き消そうと試みたが、消えたのは一本だけ。ケーキへ息を吹きかけた。

 次がルイ・スクラヴィスのレパートリー。前に小森のセッションで聴いた記憶ある。
 勇ましいフレーズが捻った譜割で、めまぐるしく駆け巡った。
 メカニカルな展開から、ソロで盛り上げた。

 続いて黒田のオリジナルを2曲続けて。黒田トリオでも演奏された"インハーモニシティ"から。
「西嶋君がこれを気に入ってくれて、とても嬉しい」
 演奏前に黒田が微笑む。

 ウッドベースがアルコで重厚に奏で、ソプラノが入った。
 ちょっとばらついたか、黒田のNG。イントロはやり直された。

 ベースはアルコ弾きと指弾きが交錯する。弓で激しく弦を叩くそぶりもここか。
 巧みなボウイングで、さまざまな表情を出す。アグレッシブな場面では弓が太く短く感じる。
 けれどもエンディングのロングトーンでは端まで引ききり、すごく長い弓に見えてしまう。2本の弓を使い分けてるのかと、思わずきょろきょろ。

 ピアノの暖かな表情と、ベースやサックスの抽象的な掛け合いが心地よい。
 ひずんだ和音の響く中、ピアノが柔らかくメロディを紡ぐ箇所が刺激的だった。
 最後はペダルを踏んで余韻を響かせたまま、黒田がふっと身を起こす。コーダの着地を見届けて、そっと足をペダルからはずした。

 圧巻が続く"白いバラ"。これも長尺で、黒田のスケール大きな世界感が炸裂した。演奏自体は数箇所の行き違いで解体しかけた。
 イントロ部分では音が止まりかけ、小森や西嶋が戸惑い顔。いぶかしげな黒田が「あ、私が歌うんだっけ」とつぶやき、テーマへ向かう。

 エンディング間際では違う箇所へ行きかける二人に、展開方向を黒田はアイコンタクトで示す。ピアノを弾きながら、じっと見つめた。

 しかし演奏は多彩な表情を見せ、華麗に広がった。
 黒田が歌う冒頭のテーマから、エンディングでは西嶋もそっと歌った。
 即興は譜面のように細かく楽器が入り混じり、構築度高い音像を提示した。
 "白いバラ"の叙情性と厳格な掛け合いが交錯するテイクだった。
 まるで省略を全て取り払った、全尺版のよう。この曲のポテンシャルをみるみる拡大した。

 クラリネットを吹く小森がじりじりと指を動かす。
 吹きながら押さえる指穴を、少しずつ開放して音程を変える。
 その奏法を多用するさまが目を惹いた。
 
 西嶋のオリジナル"Hope for peace"で2ndは幕を下ろす。
 ここでベースの立ち位置が、ぐんと前へ出た。3人の濃密な音の交歓が広がる。
 "白いバラ"で重厚に終わらせず、トリオ編成の醍醐味を提示する良い構成だった。

 残念ながらアンコールは無し。でも満足感いっぱい。
 小アンサンブルながらさまざまなアレンジで、紡がれる音楽の妙味を味わえた。
 偶発性も要素に取り入れる、黒田京子トリオとは違うアプローチ。

 きっちり目配り効いた構成と即興で充実した演奏だった。3人とも互いを尊重しあう風情が、上品さとなる。
 いっそ丁々発止と斬り合ったら、どんな音楽になるだろう。この顔ぶれで次のライブがあるかはわからない。さらなる展開へも、興味が沸いた。

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