LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2007/8/11 西荻窪 アケタの店
〜AKETA・藤川 共演初CD「シチリアーノ」発売お祝い記念〜
出演:明田川+藤川+早川+楠本
(明田川荘之:p,オカリーナ、藤川義明:as,fl、早川徹:eb、楠本卓司:ds)
今年の1月10日、伝説(になるかもしれない)のケンカ・ライブが行われた。
出演は明田川荘之、藤川義明、翠川敬基。その日の演奏は思いのほか素晴らしい、と急遽、リリースが決定した。タイトルは"シチリアーノ"。今月末に発売予定。おそらく1stセットが丸ごと収録される。
今夜はレコ発と思いきや。まだジャケットが出来上がってないそうで、「CD発売を祝う」記念ライブになった。
リズム隊を加え、明田川と藤川ががっぷり噛み合う。選曲も藤川の意向を尊重する、対等なセッションだった。
出演者は4人だが、ピアノに4本、ドラムに2本のマイクが立つレコーディング体制で、ステージが手狭に見える。
まずCD収録曲の"シチリア・マフィア・ブルーズ"から。
マイクへ向かって、明田川のオカリーナ・ソロ。ひとしきり吹くと、大ぶりのオカリーナへ持ちかえた。
五弦エレベを構えた早川徹が耳を澄ます。タイミング見計らって、軽く弦をはじく。
すかさず楠本卓司がスティックをライド・シンバルへ落とした。
暖かい4ビートが広がる。ハイハットを踏みながら、楠本はライドで淡々と刻んだ。
たまにリムを入れるくらい。穏やかな雰囲気の中、藤川へソロが回る。明田川はピアノに向かった。
かなり長めのソロ回し。藤川はまっすぐにアルトを歌わせる。1stセット前半はフリー色を薄め、メロディを奔放に操った。
姿勢をきちんとたもち、アルトと向かい合う。生真面目な空気が伝わった。
<セットリスト>(不完全)
1.シチリア・マフィア・ブルース
2. ?
3.トリステ
4.テツ
(休憩)
5.シヤハ
6. ?
7. ?
8."翠川敬基"〜シチリアーノ
(アンコール)
9.ヘルニア・ブルーズ
続いて藤川が持ってきたブラジルの曲を。タイトルは紹介してたが失念。
これもメロディ/コードに軸足を置いた演奏。気持ちよかったのと、なんだか疲れてたのかウトウトしながら聴いていた。
次も藤川の選曲でジョビンの"トリステ"。早川は足に鈴を巻き、藤川がカウントでテンポを出す。早めのメロディで、楠本がせわしないハイハット・ワークで軽快に刻んだ。
楠本のビートは高速でもアクセントをルーズに決めてる感触。
音数少なめながら、着実な早川のベースと絡み、がっつりとグルーヴを出す。
譜面を見つめながら熱演の明田川も、唸り声は控えめ。音だけが強く響く。
その上を、藤川のサックスが疾走した。朴訥で芯の強い響きの音色で、メロディを紡いだ。
テンポが速まり、熱気がこもる。ぐいぐいテンションが上がる熱演が気持ちいい。
各人のアドリブも聴き応えあった。音もかなりでかく、早川の鈴はほとんど聴こえない。
エンディングで早川がベースを弾きやめ、シンバル・ロールのように鈴を巻いた足をぶらぶら揺すり続けるさまが面白かった。
1stセット最後は、明田川のオリジナル"テツ"。冒頭で小さなベルを早川が軽く打ち鳴らす。
テーマのサックスは前半はタンギングをきっちり決め、メロディの終わりはするっと流した。
アドリブはどんどんフリーキーになる。アルトもフラジオを軋ませ、明田川のクラスターも手数多くなった。
ピアノのソロががっしがしに盛り上がる。リズム隊が手を休め、サックスが絡んでた。クラスターの連打が高まったところで、ピアノが急に止む。
「休憩です」
一言告げて、明田川はステージを去る。藤川は全く動じずに、吹き止めた。
後半セットは林栄一に捧げた、明田川のオリジナル"シヤハ"。テーマの合間にドラムのフィルを挿入の構成。
オーネットを意識した曲らしい。シャープな硬質なアレンジが炸裂した。
藤川はフラジオで高音を軋ませる。アンサンブル全体がきっちりまとまる、痛快な演奏だった。ドラムのソロがかなり長めに入る。
基本テンポを確保した上で、楠本はじっくりとスネアを叩いた。ときおり挿入される細かな連打に耳をそばだてる。
後半セットの真ん中2曲も、藤川が持ってきたブラジルの曲。アルトサックスだけでなく、フルートも吹いた。
あれは後半2曲目だったか。曲の前に軽くフルートを試奏。アルトを構えて演奏する。
ピアノのソロへ雪崩れたとき、藤川はかがみこんでフルートを手に持った。
一度ケースへ戻す。また手に持って、再びケースへ。
幾度か繰り返し、結局アルトを構えて立ち上がり、ソロへ突入。
あれはなんだったのかな。フルートかアルトかを選ぶ色々な思いがめぐらすような仕草だった。
フルートのソロもあり。3曲目ではイントロを明田川がオカリーナで吹く。
小さなボリュームにあわせてマイクから距離をとった藤川は、そっとオブリのフレーズをフルートで重ねた。
ブラジルの曲ではアンサンブル全体の印象が強く、個々のアドリブで藤川が存在感を見せる。明田川は一歩引いて藤川を立てたか。
2ndセット最後は新譜のタイトル曲"シチリアーノ"。その前にアルバムの共演者、翠川敬基に捧げる曲が演奏された。
彼の名前を音符へ置き換えた、即興的な1小節強のメロディをテーマにフリーを紡ぐ。
これも強力。ピアノが執拗にメロディを重ね、崩してく。リズムがみるみるスピードを増し、混沌なフリーへつっこんだ。
ドラムが乱打され、ベースが猛然と弾きはじめる。明田川につつかれ、急にベースが淡々となった。
おもむろにアルトが参入。フリーキーなアドリブが歪み、テーマのメロディが幾度も強く吹き鳴らされた。
翠川の名前を、幾度も強く呼びかけるかのよう。
即興的な曲かもしれないが、今後も演奏してほしい。
アルト・ソロを切り上げ、ピアノへ。この曲に限らず、藤川のアドリブは切れ目が無造作だった。フレーズを高め、最後で高らかに盛り上げたりしない。
何コーラスかを実直に吹きまくり、唐突にフレーズをぶった切る。乱暴さはなく、ふと切り去ったかのように。
このときも同様に、無造作な終わり方。ピアノのアドリブへ突入する。明田川のクラスターがひじ打ちへ変わり、顔を真っ赤に鍵盤を打ち鳴らす。ドラムとベースも大音量でぶちかました。
藤川はアルトを下げ、半身でピアノを眺めてる。
唐突にピアノが止んだ。リズム隊も消える。熱っぽい"シチリアーノ"のメロディがピアノから溢れた。
くるりと藤川は身を翻し、サックスを構える。旋律を吹いた。その仕草が、とてもいかしてた。
"シチリアーノ"もたっぷり時間かけて演奏。鮮烈なアドリブが交錯し、滑らかに終わった。
「アンコールです」
間髪いれず、明田川が宣言。ぽろぽろとピアノを遊び弾き。どう反応していいかわからぬ表情で、他の3人は明田川を見つめた。
いきなり明田川が鍵盤を強く叩き、アップテンポのブルーズへ。すかさずリズム隊が反応する。
藤川のソロに。フレーズを逸脱させず、派手に軋ませつつもオーソドックスに盛り上げた。
マイクを引っつかんだ明田川が"ヘルニア・ブルーズ"を唸り始める。
ピアノへ戻り、クラスターへ。ひじ打ちからかかと落とし、ヒップ・アタックと技が多彩に変わった。
クラスターの連打を高め、いきなり「終わりです」とステージを去った。ステージの後ろから、メンバーを紹介する。大きな拍手が飛んだ。
残った3人は、互いに握手を交し合う。
フリーとコード物が混在する上、明田川のリーダー・セッションとも違った、藤川と双頭リーダー風の、調和感あるステージだった。ステージの熱気にあおられ、頭がぼおっとする。
力による勢いとアレンジの構築度がせめぎあう、聴き応えあるライブだった。