LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2007/7/20 西荻窪 音や金時
〜ややっの夜〜
出演:太田惠資+今堀恒雄
(太田惠資:vin,voice、今堀恒雄:g)
ややっの夜49回目のゲストは今堀恒雄。この企画を立ち上げたときからゲストに想定しつつ、なかなかタイミング合わなかったようす。
「恐れ多くて依頼出来なかった」
「世界を代表するギタリストの一人と競演で、手が震えてる」
「今堀さんが出演、でややっの夜にも箔が出る」
と、冗談めかして太田惠資が今堀を紹介。
「・・・ほめ殺しですか?」
今堀がにやっと笑い、「いつも言われるんですよ・・・」と、太田ががっくり。
喋りは苦手、と演奏ぶっつづけのややっの夜。極上の即興がたんまりはじけた。
<セットリスト>
1.即興#1(45分)
(休憩)
2.即興#2(20分)
3.即興#3(10分)
4.即興#4(35分)
冒頭の口上からすぐに今堀の登場。MCは苦手と首を振る今堀に対し「では演奏中心に」と太田が告げたとたん、今堀は弾き始めた。
今夜の今堀はエレキとガットギターの2本を持ち込んだ。太田はエレキバイオリン2種類とアコースティックで迎える。
今堀は横にミキサーを置き、アンプの横に機材が一台。エフェクターかな?
太田もリズムボックスらしきものを準備するが、実際は使わなかった。
冒頭は互いがてんでに音楽を提示しあう、スリリングな即興から。今堀はさほど音を連ねず、断片的に紡ぐ。太田は青のエレキ・バイオリンで長音符をいくつか奏でた。
それぞれが別のタイム感で演奏しているようだが、根底ではテンポを共有する。旋律やソロの応酬をあえて避け、同時進行で紡いだ。
今堀の強靭なリズム感がまず耳を捉える。アクセントの位置を次々変え、バリエーションを持たせた。太田はゆったりした音で今堀を際立たせるが、あえて寄り添わない。
ふと連想したのが、太田と灰野敬二によるセッション。しかし今堀のすさまじいリズム感が明確に違う。灰野は独特の譜割とテンポで幻想を作るが、今堀は明確なテンポや拍子を構築の上で、あえてパターンをロジカルにずらして聴こえた。
といっても、ぼくのリズム感ではお手上げ。4拍子を基調に2拍や3拍を混ぜてるように感じたが、ずっと4拍子のままだった気もする。
奇数連符やシンコペーションを果てしなく繰り出し、ギターを聴いてても、しょっちゅう拍の頭を見失う。きっちりと正確なテンポで、グルーヴがずれないのに。
太田はリバーブやサンプリングをわずか重ね、ときおりフレーズをループさせる。
幾度か足元のペダルで、ハウリングっぽい硬質なノイズを挿入。鮮烈に引き締める。
今堀がメロディを選ばないと判断したか、次第にバイオリンのメロディ比率が高まった。
バイオリンはクラシカルなメロディへ移行。今堀はストロークの要素も取り混ぜた。
鋭い3連符から裏拍連打のカッティングがかっこいい。
エレキギターはエフェクターで音色を変え、角ばった音に。アームの先を指でつついて、リバーブで広げる。バイオリンの合間を縫って、フレーズを滑り込ませた。
抽象的な断片音が積み重なり、展開する。ネックの上まで指を伸ばし、弦の下部を指ではじいた。刻みではない。あくまでアクセントを意識的にずらして。
ピック使いと指弾きを場面によって変える。どの指でピックを持ってるんだろう。親指で爪弾いた次の瞬間、するっとピックが現れる。遠めで見えなかったが、素早い動きについ、ピックの行方を目で探してしまった。
ある程度の時間、即興が繋がったところで二人の進行が寄りそう。ポリリズミックな展開から、くっきりとアンサンブルへ向かった。
太田がメロディを次々ばら撒く。メガホンで呟きをしきりに挿入したのも、前半だったろうか。
ふと、今堀がガットギターへもちかえた。太田はループを踏まえたフレーズで場を持たす。
ガットギターの演奏が始まり、機を見て太田もアコースティックへもちかえた。
中近東あたりを連想するバイオリンのソロ。今堀はかっちりとストロークで、もろに伴奏っぽく。とはいえパターンはころころ変わり、刺激を常に提示した。
ガットギターでも、ピックと指弾き両方で。早弾きのバラまきを期待したが、今夜はまったくそのチャンス無し。複雑なアクセント使いのどぷどぷな即興で、太田と渡り合った。
ときおり牧歌的な和音展開をギターが見せる。活き活きと太田がメロディを展開。
「呼ばなきゃ〜!よかった〜!弾いてる手が震えてる〜!」
いきなり太田が歌いだした。一瞬太田を見上げ、今堀がにやり笑う。
即興歌で喉を張りあげた。抽象言語に切り替わり、さらにバイオリンのアドリブへ。
45分間、前半はぶっ続け。ブリッジのような抽象的場面を合間に置き、ずっとインプロが連なった。
2ndセットはさらに濃い。まず二人ともエレキのセット。太田は赤いバイオリンを持つ。冒頭は太田の爪弾き、ループを含めて幅を持たす。今堀はテンポこそ似てるが、拍の頭をずらし、多層的に突き進む。
暗黒インプロが始まった。休憩時間に照明が一部直される。全体の照度が落ち、二人へほんのり赤いスポットがあたった。太田の顔半分は陰となり、凄みが出た。
後半は比較的早めにアンサンブル方向へ向かった。
太田は弾きまくりや裏拍から食いながらも、頭は明確な4拍子。そこでテンポをいきなり動かす荒業でぶつかった。
むろん今堀は顔色ひとつ変えず、さらりとリズムの変化についてくる。
バイオリンの速弾きが炸裂し、芳醇な旋律が次々に溢れた。太田は冴えまくり、今堀の変則ビートとがっぷり噛み合う。
同じフレーズの積み上げで緊張を高め、フラジオ連発で引き締めたかと思うと、美しい旋律を噴出させた。
"即興#2"は今堀がアコースティックへもちかえを見計らって、終わらせた。
太田のホーメイが響いたのは"即興#3"だった気がする。いきなり朗々と響かせ、今堀は弾かずに太田を見つめた。息継ぎしながら、太田はえんえんとホーメイを。
今堀は探るように弦へ指をやり、そっとはじく。やがてギターの音数が増えた。太田がバイオリンをアコースティックへ持ちかえる。
リズミカルなカッティングに載って、バイオリンは旋律を豊かに膨らませた。
今度はいきなり今堀が曲を止め、太田がつんのめってにやり笑う。
短めな"即興3"から次へ。太田は組合せをあえて変え、青いエレキへ持ち変えた。今堀はアコースティックのまま。
このデュオがどのくらい過去にあったか、不勉強で知らない。
とにかく二人の持ち味がひときわ絡んだのが"即興4"だった。
今堀はあえて前へ出ず、多様な断片やカッティングでサウンドに複雑さを出す。
太田がメロディ中心に展開するが、弾き伸ばす音やフレーズのあおりで、常に今堀を映えさせた。
明確なコール&レスポンスはごくわずか。ごく一瞬、スケールっぽい応酬があったくらい。
テンポを共有する即興だが、太田はいきなりテンポを落とす。動じぬ今堀の牧歌的なストロークで、音像は軽やかに膨らんだ。
終わりそうで、終わらない。
後半セットでも太田の歌があり。ギニアあたりのアフリカンな香りを漂わせて。
最後は太田の、唐突な一人芝居。田舎へ電話する男の風景か。せりふの合間に今堀がぱらぱらぱらっとアコギのフレーズを入れた。
やがてふと、音がやむ。二人で顔を見合わせ、終わりを確認。後半セットは1時間以上と、たっぷり即興で盛り上げた。
大きな拍手の中、太田のクロージング・テーマ。客電もステージも全て闇に包まれ、再びステージへスポットがあたる。
太田が深く礼をした。
今堀のメロディ速弾きとバイオリンの応酬が聴けなかったのは残念ながら。
がっぷりと即興が渡り合い、濃密な聴き応えあるステージだった。ぜひ録音物を作って欲しい。一期一会のステージを体験のみならず、聴きこむほどに味が出るサウンドだった。