LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2007/7/18 吉祥寺 赤いからす
出演:澄+黒田+吉見
(澄淳子:vo、黒田京子:p、吉見征樹:tabla)
赤いからすは行くの初めて。19時45分くらいに到着すると、ピアノの音が聴こえてきた。しまった、出遅れたか。
ステージは大きめのスペース。テーブル席キャパが30人くらいか。さらにカウンターあり。PAごしのピアノも、奥行き広く聴こえた。
ピアノとタブラの一騎打ち、真っ最中。黒田京子が鍵盤でスピーディに指を回す。爽快な長尺ソロを。吉見征樹は着実に叩き続ける。
吉見の無伴奏ソロ。口タブラは無し、無言で激しく。左手のベンドを頻繁に差し、指先を使ってメロディアスに叩き分ける。疾走するビートがスリリングだった。
再び黒田のソロへ。やがてスタンダードのメロディが現れた。聴き覚えあるがタイトルは失念。
曲が終わり、おもむろに澄淳子が登場した。黄色地にチェロとホルンがあちこちにあしらわれた、派手な柄の浴衣姿で。
ステージ中央へ進み、マイクを持つ。照明が暗く、スタッフにつけてもらう。
「つかないほうが良かった?」と、客へにっこり笑いかけた。帯留めを忘れ新聞紙を巻いた、と腹を叩いてみせる。
3人による演奏は今年の5月9日、代々木ナルぶり。80年代にまで競演歴がさかのぼる組合せだそう。
今夜は3セット制、45分づつ。1stセットは19時半を回った頃に始まったようす。
初めて聴く澄淳子は、あまり喉を張り上げぬタイプのよう。情感を過剰に押し付けず、軽やかに歌い、フェイクも控えめ。浴衣を着てるせいか演歌歌手みたいなそぶりを、ときたま入れていた。
異化効果を狙ってか、日本の歌でも英詞を取り入れる。選曲は後述するが、もろにスタンダード。60年代へさかのぼるような選曲だった。
都合により今夜は1stの途中からと2ndセットのみを聴いた。歌伴では黒田と吉見がどんなアンサンブルを聴かせるか興味あって。各セット冒頭では黒田+吉見の演奏。
1stセットでは素早いメロディを立て続けに噴出させる、黒田のソロ真っ最中だった。
つづけて吉見のソロへ。口タブラは一切なく、めまぐるしくリズムを溢れさす。シビアにタブラを叩き続けるさまは凄みあった。
「吉見征樹!」
ソロの間は手を休め、椅子にもたれるように聴き入る黒田。一声、紹介して鍵盤へ向かった。細かなフレーズが収斂し、メロディへ。聴き覚えある曲。スタンダードかな。
澄が舞台へ現れた。まず一曲歌う。タイトル失念。
浴衣姿だとコブシを回したくなる、と東京音頭かなにかの一節を挿入したのがここだったろうか。
曲間でピアノのソロ。ボーカリスト前提の短いソロかと懸念したが、けっこう長く弾いてくれた。全曲ではないが、タブラのソロもあり。
続いて"デイ・バイ・デイ"。小粋な感触で歌うが、どこか日本風味漂うユーモラスさ。基本はコードもの。しかしピアノはオーソドックスな伴奏へ行ったりしない。隙間を空けたり、和音をぶつけたり。ひとひねりなアレンジを採用した。
和音と旋律が混在し、滑らかにコードを踏まえたアドリブの風景が新鮮だった。
"テネシー・ワルツ"を。フェイクは多くないが、メロディはかなり解体された印象あり。「ボサノヴァか3拍子か・・・どっちにしよう」と澄が選んだ。
吉見は譜面を見ながらタブラ中心のプレイ。歌伴ではさほどトリッキーな展開に行かない。右手で左のタブラを叩いたり、指先を巧みに使う。
音程をきっちり出し、アンサンブルに膨らみを出した。ベンドは控えめ。
ときおり横に置いた小さなタンバリンを叩く。
ちなみに曲によってリズミカルにシェイカーっぽい音が聴こえた。足で刻んだのかな。
1stセット最後が"ミネソタの卵売り"。超スタンダードの連発。吉見はタブラから、小脇に抱え撥で単弦をはじくパーカッションに持ちかえた。
単弦を引きながら、リズミカルにメロディを。黒田はピアノから立ち、ステージ袖へ。辛そうに耳を押さえる。
パーカッションのみの伴奏で、澄は歌いだした。鶏の鳴きまねも挿入する。
黒田がピアノへ近づき、立ったまま鍵盤をいくつか押す。座りなおし、伴奏へ戻った。
曲はかなり解体した。コミカルな雰囲気で歌い継ぎ、吉見のソロへ。
スピーディな刻みでバラエティを出すアドリブで喝采を浴びた。
ここでいったん休憩。
2ndも黒田と吉見のデュオから。インプロだと思う。この手の音楽をこの日に聴けると予想しておらず、単純に嬉しかった。
客層はインプロ系とはかなり違いそうだが、遠慮無しに二人の音世界を提示した。
キーを確認しあい、吉見がタブラを置き換える。
黒田がまず和音をいくつか出し、リズミカルなイントロからスケール大きい音像へ。吉見は様子を見るように、シンプルなビートで応えた。
つと立ち上がった黒田は、ハンカチを手にピアノの中へ手を伸ばす。内部奏法も踏まえ、ノリを断片化させた。タブラが次第に鋭くなる。
鍵盤へ戻った黒田は、和音をめまぐるしく変え、テクニカルかつ勢いあるサウンドを爽快に。世界がぐいぐい広がり、ピアノだけで音の地平を広げた。
吉見は叩きながら前のめりに。心なしか瞳や体に力が入り、集中力が増したかに見えた。
タブラのソロも奔出。今回も口タブラ無し。ベンドをふんだんに取り入れ、リズムが空間を引き締める。
ピアノが加わると、一転してロマンティックな世界に。軽やかかつ美しくコーダへ導く快演だった。
澄が登場し「元はこの曲も電車がテーマだったとか」と、曲名を告げずに歌いだした。
"センチメンタル・ジャーニー"。もっとも演奏後に紹介するまで、曲名に気がつかず。ほとんどが英詞だったかな。
ハンドマイクで歌いながら、ときおり身をそらし袂で顔を隠す。演歌調な風景と歌とのギャップをユーモラスに提示した。
イントロで黒田が汽笛を模した音形やそれっぽいフレーズを織り込み、寛いだ雰囲気を醸しだした。
レクっぽい打楽器に吉見が持ち替える。
アクセントでなくリズム楽器として、一曲を叩きとおした。
2ndセットでは幾分、演奏のアプローチがオーソドックスへ移行した感触。
次の曲辺りから、伴奏が明確になり歌を補強するアレンジに。
「イタリアにいる祖母(?)に歌を習った、兄弟子の追悼に」と前置きする。
歌詞は英語で。メロディが聴き覚えあるけど、思い出せない・・・なんだっけ、と首を捻ってると、2番は日本語で歌いだした。
オリジナルは大仰なスローから、一気に賑やかな世界へ突入。黒田と吉見はあえてシンプルな音使いで臨んだ。
澄が「ふざけやがって、ふざけやがって、このやろ〜!」と叫びを抑えたのが残念。
やっぱり"ハイそれまでヨ"なら、オリジナルみたいに思いっきりシャウトして欲しかった。だけどクレイジー・キャッツを選曲とは。
続く曲は"愛しちゃったのよ"と言ったかな?ほぼ全て英詞で歌われ、曲名は不明。
コードをきっちり押さえるピアノで、伴奏でもさほど前面に出ず残念。
そのあとの"東京砂漠"でも、淡々とピアノを弾いた。じわりと歌世界がスナックっぽくなる。
あえて"東京砂漠"でも英詞で歌ったため、いくぶん異化効果が残る。
2番のあと、サビでは"東京砂漠〜♪"と日本語を取り混ぜる。それまで喋りに熱中していた若いグループが、このあたりで歌へ興味を持ち、振り返って聴いてたのが面白かったな。
2ndセット最後は、エノケンの"ダイナ"。ヴォードヴィル調は控え、タブラが軽快に刻んだ。ピアノは音数を少なめで弾いたか。
澄は体を捻りながら、ノリノリで歌った。酔客の合いの手にも動じず応える。
最後に「一杯、二杯、三杯・・・・」とどんどん言葉を続ける。吉見と向かい合って。
微笑みながら吉見はタブラで応えた。
「こんだけ歌っても、一杯も酒が持ってこない・・・もう、休憩ね!」
にっこり笑って、澄は2ndセットの幕を下ろした。
ジャズにこだわらず、耳馴染み深い曲を続けざまに選ぶ。ピアノとタブラ、ある意味変則的なアンサンブルにもかかわらず、滑らかに歌うのはキャリアのなすわざか。
黒田と吉見のインストも相性良い。デュオでの即興ライブもじっくり聴きたくなった。二人が厳しく渡り合っても、そうとうに刺激的な音楽になりそう。