LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2007/7/14  荻窪 ルースター・ノースサイド

    〜崖っ縁SESSION Vol.5〜
出演:藤掛+早川+巻上+室舘
 (藤掛正隆:ds、早川岳晴:eb、室舘彩:vo,fl,ds,per、巻上公一:vo,theremin,口琴)


 藤掛正隆と早川岳晴が軸のセッション企画"崖っ縁SESSION"の5回目。台風直撃前夜で、雨が降る中のライブとなった。

 ステージ配置は中央を空け、藤掛と早川が下がる。フロントは両脇に。上手に巻上公一、下手に室舘彩が立った。
 巻上はテルミンの上へ、口琴をいくつか置く。
 室舘はドラムを準備。横へフルートを置いた。タム、フロア、スネア各1個にライドが1枚。ハイハット無しという、シンプルな変則セットだった。

 "遠方から来ている"と紹介したフロント二人に合わせたか、もともとの開演時間なのか。19時50分頃、演奏が始まった。
 藤掛がまず、横のリズム・ボックスでニューウェーブなビートを。アクセサリでなくリズムのひとつとして、ほぼ全編で打ち込みを流した。

 早川が軽く弦を弾く。藤掛がスティックを持ち、室舘もドラムで加わった。
 彼女のドラムは初めて聴く。この日はスタンディングで叩き、バスドラはよく聴こえない。チューニングは高め、ティンバレスみたいなアプローチだった。
 ロールやタム回しを織り交ぜ、威勢よいリズムでタムを叩きのめす。

 巻上は冒頭の即興で、なかなか音を出さない。体を動かし耳を傾ける。おもむろにヴォイスで対抗。続いてテルミンも鳴らした。
 鋭い電子音が膨らむ。勢いよく両腕を動かしつつ喉を膨らます、巻上の即興ヴォイスが炸裂した。

 この日はほとんどが完全即興。前半は拍手しそびれたが、4曲くらいに区切れる。
 まず5分程度づつで2曲立て続け、あとは長めに数曲。リーダー役は特に決めてなさそう。

 リズム・ボックスが鳴り響く。シンプルに藤掛がリズムを刻む。プラスティックのブラシですら、がっちりとリズムの芯が太い。
 早川は特に前半が抑え目。ソロもほとんどとらず、リフをときおり繰り出す。なんだか元気ない。
 リフそのものは全体を支え、グルーヴを引き出す。アンサンブルの冒頭のきっかけは、ほとんどがベース。中だるみしかけると、早川が引き締めた。

 フロント二人の渡りあいに目が離せない。冒頭は巻上が奔放に動き、室舘が膨らます。
 テルミンをノイズ・マシンのように操った。アンテナへさまざまな方向から、腕を振り回す。さらにアンテナの根元や本体、ボディへ指先をあてた。びりびりとハーシュな電子音が絞りでた。
 特に上向きのアンテナを、メインに演奏。仕草はおとなしい。アンテナの手元にそっと指を置き、ペダルとあわせる。噴出す音は、ノイジーに。
 さらに喉を震わせ、即興言語がうぃんうぃんと空気を震わせた。最初は口琴を使わず。

 室舘はスティックを置き、ヴォイスで巻上へ対抗。ファルセットのロングトーンで電子音のように。同じ音程で延々とロング・トーンを続ける。
 巻上のテルミンやヴォイスの音程にばっちり溶けて、幻惑的な空間を産んだ。
 次々とシャツを脱ぎさる室舘。最後は胸元へ汗を行く筋も滴らせつつ、声を張り上げた。

 テルミンと室舘の声、巻上の声。3つの音が混ざった。メロディは希薄に飛び交い、紡がれる高音の交錯が、素晴らしく気持ちよかった。
 早川がシンプルなリフで押す。鳴り響く打ち込みは途中で止み、藤掛のビートが轟いた。

 いったんテンションが静まる。間を置かず次のセッションへ向かった。
 口琴で巻上は口火を切る。手早くいくつかの口琴を持ち替えた。歯に当て鳴らすタイプの口琴を、頭で叩いてにっこり。室舘はスティックを頭に当ててまねするそぶり。
 新しい打ち込みビートのボリュームが大きくなる。早川の爪弾きで次第にノリが高まった。

 続く室舘ヴォイスが、クールで良かった。「ポコン!」とビートの句切れに、カウンターで声をぶつける。
 アンサンブル全体のノリへ強烈なアクセントとなり、涼やかでスピーディなグルーヴを付与した。

 打ち込みビートは、その場で藤掛が操作もしたようす。ダブ風に揺れ、巻上や室舘のヴォイスと渡り合う。
 3曲目くらいでは、あえて打ち込みをとめ、人力リズムで埋め尽くした。
 藤掛のドラムはテンポをキープしつつ、一気にテンポを変える。同じテンションでいきなり、倍テンポや半分にビートが変わった。
 場面ごとにマレットからスティック、ブラシへ持ち替える。
 ハイハットを踏み続け、ほとんど叩かない。何枚もあるシンバルをスティックが飛び交った。

 ハイテンション一辺倒なわけでもない。静かな幕開けも。
 パンデイロの表面をマイクへ向かってこすり、低音を響かす。早川が高音を爪弾く、硬質なフレーズで応答した。
 指先でスネアをそっと藤掛が叩く。
 室舘がスティックでドラムセットのリムやボディのあちこちを叩いた。

 巻上の圧巻は中盤あたり。テルミンに向かい手を振りながら、「ガリボリベリバリ・・ベリバッ!」と叫びだす。
 4/4の16分音符で2小節+1拍目に16音符3つを叩きつける。テルミンのほうも、アイディアを次々提示。アンテナを口琴でこすり上げるしぐさも飛び出した。
 室舘が小さいタンバリンを叩いたのは、ここか。

 室舘と巻上は前半だと、アイコンタクトをあまり交わさず。ニコニコしながら室舘が巻上を見るときは、巻上は目を伏せパフォーマンスへのめりこむ。
 逆に巻上が室舘を見るときは、室舘が軽快に喉を震わせていた。

 前半は45分くらい。かすかに耳鳴り残るくらい、結構大きめな音量。
 BGMはピアノ曲。15分ほどの短い休憩でメンバーがステージへ戻るやいなや、すぐさま叩き切られる。

 後半セットは巻上と早川のデュオで幕開け。テルミンとヴォイスの巻上に、早川が低音を当てる。果てしなくアイディアが溢れる巻上の様子に、藤掛と室舘が笑みを浮かべた。
 早川のアドリブがどんどん前へのめった。藤掛と室舘も加わる。

 巻上が腕をくるくる回し、両指でくいっと室舘を指し、室舘も同じポーズで応えた。
 テルミンを操るようすは、中国拳法のような、ビリーズ・ブートキャンプのような。
 仕草もふくめた巻上と室舘のやりとりも。
 後半も曲によって、打ち込みビートが加わった。

 2曲目がボーカル入り。「Fのブルーズね」と早川が告げ、室舘が微笑んだ。
 室舘の歌声が日本語から即興へ雪崩れる。ハイトーンで朗々と声が響いた。
 ヴォイスの即興が盛り上がったところで、早川のソロに。音数は若干多くなったが、後半も早川は一歩引くそぶり。この曲あたりが、もっともベースがめだってた。
 
 続く即興で2セット目も終わりだったかな。藤掛が室舘にMCを促した。
 「歌い始めるとき、巻上の自宅へ訪問し教えを乞うた」と、告白あり。師弟関係とは知らなかった。巻上に「自由に歌えばいいんだよ」と教わったらしい。

 リズム・ボックスへ藤掛がかがみこむ。巻上は口琴か。室舘が口笛で応える。
 ちょっと弦を弾いた早川だが、藤掛のMCマイクを手に取った。ベースを弾き止め、同じく口笛を始めた。静かな音像に藤掛が振り返り、にやりとする。
 マイクをわしづかみにした早川は、口笛の合間にドスの効いた声をぶちこんだ。

 スティックへ藤掛が持ち替え、音量が大きくなった。初めて室舘がフルートを手に取る。シンプルな節回しを展開させ、さらにヴォイスも取り混ぜた。
 巻上もノイジーなテルミンを矢継ぎ早に。
 室舘はぴょんぴょん飛び跳ねながらフルートを吹いた。
 
 後半セットも45分ほど。客出しのBGMで、いきなり5000mプールが流れ、室舘が苦笑。拍手が続くも、巻上の終電も考慮しアンコール無しで終わった。
 フロント二人のアイディアが刺激的で、充実のライブ。巻上の引き出しの多さは、毎回圧倒される。
 藤掛がリズム・ボックスをアレンジに取り入れたのは意外ながら、メカニカルな要素が展開に幅を出し刺激的な音像が提示された。

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