LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2007/6/17 西荻窪 音や金時
出演:ル・クラブ・バシュラフ
(松田嘉子:ウード、竹間ジュン:ナイ,レク、with 秋元カヲル:g)
現在は二人組のル・クラブ・バシュラフ。のみやたかこ(ダルブッカ)が都合によりライブ欠席のため。前回行ったときは19時半きっかりに始まった。
今回も客足にあわせ、19時45分くらいにライブの幕が開く。普段のライブハウス時間と違うタイミングが、ちょいと新鮮。
前半はデュオでチュニジアなど、北アフリカの音楽を演奏。
今夜も中央に座った松田嘉子が、一曲づつ丁寧にタイトルや背景を紹介する。
曲名を覚えきれず。セットリストは割愛させてください。すいません。
一曲目はナイとウードのデュオから。ひとしきりユニゾンでテーマが紡がれ、竹間ジュンはレクへ持ち替えた。
するするとフレーズを重ねるウードを、力強いタッチでレクが補強。
揺らがぬメロディを飾るかのように、竹間はさまざまなアプローチでレクを叩いた。
シンバルを揺らし、リムを強打。打面も中央と端と打ち分け。頻繁にパターンを変えた。
リズムは一定でも、レクのバリエーションがアンサンブルに複雑さを産み、興味深かった。
続いて数曲のメドレー。中間でウードのタクスィームか。穏やかに即興が展開した。
リズム楽器無しのデュオでは、かえってナイとウードの旋律へのアプローチが際立つ。
ウードはときおり装飾音符を、メロディの合間に挿入。音使いはタイトな印象。
いっぽうナイはきっちり吹きつつ、冒頭フレーズなどでビブラートを強くかける。
楽器ごとに強勢のポイントがずれ、ユニゾン基調のアンサンブルの膨らみを感じた。
ナイのタクスィームを冒頭に置いた曲へ。小節感を希薄にし、即興が展開する。
ウードが数本の弦で、かすかに爪弾き。とはいえリズムの提示まで至らない。ドローンとも違う。
バックで大河が流れるように。かすかに音が震えた。
竹間はおおよそ4小節くらいの切れ目で、フレーズを組み立てた。
合間に口からナイを放し、コンマ数秒間をおく。そして次の旋律へ移った。何度かライブで見たスタイル。
なお、後半セットでは対照的なスタンスが聴けた。
前半は30分強くらい。ずいぶんあっけない。もう少し長く聴きたかった。
休憩中にゲストの秋元カヲルがステージで、ガットギターとピックアップつきのアコギをチューニングし始めた。
後半セットは竹間のオリジナルを並べた。秋元は出ずっぱり。
まずは今夜の新曲"マヌーバの夜"から。
バックボーンなアラブ音楽の香りが漂いつつ、メロディはぐっと洗練。スケール大きくキュートに音楽が広がった。
ユニゾンでなく、アンサンブルを意識したアレンジ。ナイの旋律へウードとガット・ギターがストロークで絡む。ウードとギターで違うパターンだったか。
秋元は譜面台を置くが、竹間も松田も暗譜で臨んだ。
ちなみに全て竹間の曲なのに、ずっと松田がMCで面白かった。てっきり竹間が喋りも主導権持つかと思った。
"マヌーバの夜"は中盤でギターのアドリブへ。秋元はぐいぐい盛り上がり、ラッシュしてソロを弾き倒す。
レクへ持ち替えた竹間とリズムが両立し、互いに渡り合った。
ウードはいったんボリュームを下げ、レクに寄り添うように爪弾いた。
後半も曲名紹介あったが、覚えきれず。2曲目は"〜の少年"というタイトルのオリジナル。ダイナミックにメロディやアドリブが弾んだ。
チュニジアでポピュラーな食べ物売りをテーマにしたそう。MCですかさず秋元が「ぼくは食べなかったな」と混ぜ返す。
後で伺ったが、秋元はバックボーンにチュニジア音楽を持つミュージシャン。ル・クラブ・バシュラフのメンバーと同じ先生へ、一年早くウードを習ったという。
3曲目のメロディは4小節だと思うが、途中で5拍子っぽいブレイクあり。
実際は4拍子のままか。この曲に限らず、竹間のオリジナルは小節の終わりで拍の頭をまたぐフレーズが効果的だった。
すっと聴いたら、滑らかに耳へ届くのに。リズムを体で刻んだら、途中でぐうっとリズムが揺らぐ感触。これがなんとも気持ちいい。
冒頭でギターの無伴奏ソロが置かれた。3フレにカポをつけ、サムピックや人差し指を駆使し、弦もはじけよと強打。
ハンマリングで軽やかに音を弾ませつつ、指がネックを駆け抜けたのもここか。
アクセントを少しづつずらしたフレーズが展開した。
最後にカポをはずし、床へほおる。その音すらも、アドリブの一部みたいだ。
盛り上がったのが、後半4曲目。3人のタクスィーム持ち回りとなった。
まずナイから。前半とはフレーズのアプローチが明らかに違う。古典音楽と調性や段取りが異なるのかな?
ロングトーンや同じフレーズの繰り返しを力強く使い、鋭くナイを奏で続ける。
メロディの合間も口からナイを離さず、ブレス以外はほぼ止めずに吹ききった。
秋元がネックやボディを鋭く叩き、カウンターを静かに入れる。
ウードは僅かに弦を弾く。3人の混沌なアンサンブルも期待したが、そこまでは踏み込まず。
ウードも自らのタクスィームでは、別の音像を綴った。冷静な面持ちのままブルージーさを取り入れたアラブ風味のソロ。変な表現だが、そう感じてしまった。
単音が骨太に響き、ぐいぐいとドライブする。
ギターへ移ったら、一段階ブルージーさが加速した。
がしがしとストロークが刻まれ、独自の世界観を構築した。ピックアップ部分をマイクへ近づけ、フィードバックも。
俯いてウードを弾いてた松田が、ふと視線を投げて微笑む。
タクスィームは2週目へ。さらにアドリブはアラブ音楽の枠を飛び越えた。
竹間の即興はタイトに変化し、バロック音楽っぽいロジカルな組み立ても。松田はぐっと顔を伏せ、どんどん内面を広げるかのように、音楽と対峙した。
秋元はフォークを取り出し、スライド奏法。スライドバーでもボトルネックでもない。ビブラートやグリサンドを狙わず、フレーズの一部としてフォークを使った。
松田や竹間が、面白そうに秋元の演奏を眺める。
アラブ音楽では、フォークをスライドバー代わりに使うかと誤解してた。
実際は、前回にル・クラブ・バシュラフのゲストで出演の際は、ナイフを使ったそう。
要するに、単なる響きの問題。フォークの持ち手が中空で響きがきれいだから、という。
エンディングはもう一度ナイへ。3週目突入は残念ながら無し。ウードも加わりユニゾンへ。テーマが決まっていたのかな。
次もフレーズ頭の3連が耳に残る曲。リズムはたぶん4拍子。
なのに半拍か1拍置いて、3連がメロディの頭を形作る。
拍の頭を跨いで、広々と音符が勇ましく自己主張する。耳に残る響きがエキゾティック。
最後にオリジナルとして馴染み深いらしい曲を演奏し、軽やかにステージは幕を下ろした。
観客の拍手がやまない。秋元がアンコールを促し、竹間と松田が相談。
2セット目冒頭の"マヌーバの夜"を再演となった。
すたすたとステージを降り、観客モードな秋元。メンバーから呼び戻され、笑いながら舞台へ向かう。
"マヌーバの夜"はセット最初の演奏より、さらに躍動さを増した。
前半後半で音楽アプローチを明確に変え、2倍美味しいライブ。
ル・クラブ・バシュラフのコンセプトと異なるかもしれないが、竹間のオリジナル曲中心でのライブも、何らかの形で続けてほしい。
アラブ音楽の影響を受けつつ、枠に嵌らぬ伸びやかなメロディが心地よい。独自のアンサンブルが生まれると思う。