LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2007/6/3  入谷 なってるハウス

出演:明田川荘之+明田川歩
 (明田川荘之:p、オカリーナ、明田川歩:vo)

 コンスタントにライブを重ねる親子デュオ。3/4@アケタぶりに聴く。ステージの中央に譜面台とマイクをひとつ立てた。ピアノは大きく蓋を開け、譜面がずらり並ぶ。
 オカリーナはピアノ横のステージへ、丁寧に置かれた。
 20時を15分ほど回って、客電が落ちる。まずはピアノ・ソロから。

「いつもやっている曲です」
 明田川荘之は曲紹介でつぶやき、弾き始めた。
 ペダルのせいか、アケタで聴くより残響が多い印象あり。アケタ以外で彼の生ピアノを聴くのは初めて。場所によって、楽器によって音色が変わる。

 テンポを揺らしながら"アイ・クローズド・マイ・アイズ"を奏でる。さっそく、唸り声も。幾度か咳き込みながらも、唸りは止めずに引き続けた。
 さらりと一曲を終えて、歩がステージへ上る。

(セットリスト)
1.アイ・クローズド・マイ・アイズ
2.リンゴ追分〜オーヨー百沢(*)
3.オール・オブ・ミー(*)
4.レフト・アローン(*)
5.外はいい天気〜ヘルニア・ブルーズ(*)
(休憩)
6.クルエル・デイズ・オブ・ライフ(*)
7. ? (*)
8.マック・ザ・ナイフ(*)
9.アルプ(*)
10.サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート(*)
   〜ブラックホール・ダンシング
   〜ヘルニア・ブルーズ(*)
(*):with 明田川歩

 この日は基本的に曲紹介のMCあり。アケタで聴くより丁寧な喋りと感じた。
 2曲目はイントロでオカリーナのソロ。歩は腕を軽くたらし、明田川の演奏を見つめる。
 ひとつのオカリーナを吹き続けたあと、指が鍵盤へ向かった。
 短いイントロから歌声が載る。朗々と歌い上げるさまは以前のライブと印象同じだが、いくぶんステージ慣れしたようにも見える。
 しかしスキャットや掛け合いはなく、テーマを歌い終わると明田川のピアノ・ソロへ。
 ピアノのアドリブは、ソロのときよりさすがに短め。しかし歌のバッキングで、全開よりもアドリブ要素が強くなったのでは。ひとしきり弾くと、視線を歩へ投げて歌を促す。
 歌が載ってもアドリブは止まらない。バッキングの位置づけではあるものの、メロディは完全に歩へまかせ、奔放に明田川はピアノを弾いた。
 太いアルトで歩は力強く喉をふるわせた。

 3曲目からは主役を歩へわたし、ジャズ・ボーカルっぽく。しかしピアノのタッチはアケタ流。ソロではテンポも揺らし、メロディがじわじわと解体される。
 完全に崩すソロよりも、テーマの繰り返しから溶かすようにメロディを操る明田川のアドリブは、むしろボーカルとのバッキングと相性いいのかも、とふと考える。

 "オール・オブ・ミー"、"レフト・アローン"と続いた。軽快な前者より、深く旋律へ声を乗せた後者が、より耳に届く。
 オカリーナのイントロは"オール・オブ・ミー"にも載る。ソロの途中で、明田川はがつんとピアノのボディを叩いた。
 イントロはどれも短め、さらにエンディングはもっとあっさり。ぐいぐいコーダを長引かせず、歌が終わるとすんなり締めてしまう。
 
 聴き応えたんまりが、ピアノ・ソロで弾かれた"外はいい天気"。歩はステージに置かれた丸椅子へ腰掛ける。
 イントロでは和音の拍頭にわずかずらし、右手で低音を一音、強く鳴らすパターンを数度。
 さらにテーマはごく優しく。軽やかに撫でるがごとく、鍵盤へ指を落とす。この時に限らないが、爪が鍵盤へ当たると思しき音が、カツカツと聴こえた。
 
 テーマは次第に解体され、アドリブが熱っぽく拡大。左手のタッチもみるみる強くなる。
 おっとりしたイメージだった曲が、ダイナミックかつ独特のセンチメンタリズムも加味され、活き活きと響いた。明田川の唸りが強さを増す。
 自由にたっぷり時間をかけて、明田川は曲を展開した。

 エンディングは再びおっとりと。イントロ部分の静寂さは消したが、アドリブ部分の情熱もするり拭って、上品に奏でた。
 しかしクラスターが登場し、ボディ叩きから立ち上がってピアノを一押し。さらにかかと落しも見せた。さすがにアケタの店よりは、おとなしめなアクションか。

 メドレーで"ヘルニア・ブルーズ"へ。歩が立ち上がり、歌いだす。
「いてててて」
 弾きながら腰を押さえる明田川。歩は歌詞を即興で変え、軽快に歌った。

 休憩を挟んだ後半は、オリジナル"クルエル・デイズ・オブ・ライフ"。ハイトーンでころころと弾むメロディを、たやすく歩はファルセットを織り込みつつ操った。
 一曲終わったところで、唐突に休憩を宣言。ピアノが鳴りすぎるとか。
 蓋を半開きにして、譜面台を立てる。そのまま演奏へ入ると思いきや、カウンターで一休み、改めて再開した。

 続けて2曲、スタンダードか。両方とも、曲紹介は無し。(7)は"Crazy for feeling〜♪"と歌詞が聴こえたが、残念ながら曲名は不明。
 つづけて"マック・ザ・ナイフ"へ。イントロにオカリーナのソロを。蓋で隠れてよく見えなかったが、最初は霧笛みたいな多層の響き。二本吹きっぽく聴こえた。

 展開するアドリブが鉄道っぽい。てっきり"A列車で行こう"かと思った。
 響きはバロックぽく代わり、唐突に鍵盤へ指が落ちる。
 歩はハンド・マイクで楽しげに歌った。
 これら2曲は、3月のライブでは演奏せず。特にオリジナル曲ではきっちりレパートリーがあるイメージなデュオだが、どんどん持ち曲を増やしてるのかも。

 オリジナル"アルプ"は、ピアノのイントロも力強い。ロマンティックさよりも、パワフルさを前面に出すかのごとく。
 前にも書いたが、美しいメロディをコミカルな歌詞でイメージをがらり変えるのが、さんざんピアノで聴いた耳としては新鮮だ。

 曲は"サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート"へ。歌のバックで弾くピアノは、伴奏を一歩踏み込んだ即興性もあり。
 エンディングで歩は、ニットのベストのすそをつまみ、スカート風にちょこんと広げて一礼。
 ところが明田川が曲を止めない。エンディングへ行きかけて、執拗に続ける。歩は苦笑しながら、頭を幾度も下げた。
 
 やがてピアノが強烈に鳴り始める。歩はすっとステージを降りた。クラスターの奔流から、一節だけ"ブラックホール・ダンシング"のテーマがのぞく。
 すぐさまクラスターの波にうずもれた。ひじ打ちが幾度も炸裂。高音をきれいに鳴らしつつ、クラスターと対比し、混在させる音使いが鮮烈だった。

 椅子を振り上げる仕草も混ぜ、クラスターが激しくなる。ピアノの中へオカリーナを放り込んだ。しかしプリペアードっぽい鈍い響きは、なぜか聴こえず。
 両腕で鍵盤を打ち鳴らす。顔をくしゃくしゃにして。

 すっと、"ヘルニア・ブルーズ"を再演。歩もステージへ戻った。
 1コーラス歌ったところで、エンディングをなし崩しに。きっちりコーダを決めず、唐突に演奏を終わらせる。
 去り際に一言、歩を紹介する明田川。いかにも、らしい終わり方だった。

 歩のステージ慣れは進んでる印象。本人が志向かは不明ながら、スキャットでピアノと渡り合うアプローチまで、ぜひ進んで欲しい。ボーカルと伴奏のピアノから一歩踏み出し、デュオとして。
 少なくともピアノは伴奏から逸脱し、独自の音世界へ向かう兆候が見えた。
 さらなるステップへ、ボーカルも変化したらさらに面白そう。とことん奔放に歌っても、明田川は戸惑わないはず。むしろ、新たなアンサンブルが産まれると期待する。

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