LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2007/5/2  吉祥寺  武蔵野公会堂

出演:太田惠資トリオ
 (太田惠資:vln、高木潤一:g、吉見征樹:tabla)

 吉祥寺音楽祭の一環で、武蔵野公会堂のジャズ・コンサート。トリが太田惠資トリオと知り、いそいそ聴きに行く。本名義の活動って初めてじゃ。実質はMASARAでの参加。「"ラッサーマ"名義で申請したが、採用されなかったようだ」という裏話も聞いた。
 開演はタイムテーブルぴったり。司会の女性がMASARAにも触れ、太田惠資トリオを紹介する。拍手の中、メンバーが登場した。小さな音でチューニングが始まる。
 
 無言で3人が視線を合わせ、ロマンティックなメロディを奏でた。
 太田にピンスポットが明るくあたり、高木潤一や吉見征樹にはうっすら暗め。
 吉見が横へ置いたパーカッションを、軽く揺らす。

<セットリスト>
1.雲(ラインハルト)
2.(ロリンズの曲)
3.モズクス
4.マサラスコープ
5.オータのトルコ

 1曲目はごく短いインスト。MC無しで続くロリンズの曲へ。3人でこの曲を弾くのは始めてだそう。曲名紹介あったがタイトル失念。
 ここで一気にライティングが明るくなった。
 タブラが静かに響く。PAバランスはまずまず。もうちょっと低音欲しいが。ステージの間もバランス変えてたようだ。

 太田のバイオリンは滑らかに響き、ソロが終わると大きな拍手。軽く一礼する。
 高木のソロへ。その時、吉見の譜面が落ちてしまう。さりげなく足を運んで拾い、譜面台へ戻して微笑む太田が印象に残った。
 短めなギター・ソロ。軽やかに親指が動き、弦を弾いた。

 ここでMC。「いつも司会は任せてるので、居心地悪い」といいつつも、軽妙な喋り。吉見が茶々をいれ、コミカルに盛り上がった。
「ジャズをやってと頼まれました。2曲やったからいいよね」
 と、あとはオリジナル曲の連発を宣言した。ややっの夜でもめったに無い展開で嬉しい。

 まずは"モズクス"。意外なことにMASARAの3人では初演だそう。
 冒頭は太田の小唄からホーメイへ。倍音が響き、観客から拍手が起こる。なんか新鮮。
 バイオリンを構えなおし、快調なスピードでテーマを奏でた。テーマの合間にギターが一節、アクセントを入れるアレンジ。高木は譜面をじっと見つめながら演奏した。 
 ちなみに吉見は冒頭2曲までが譜面、あとは暗譜。太田は譜面台すら必要としてなかった。

 太田の長いアドリブが前面に出て、弾きまくった。この日はアコースティック・バイオリンのみ。
 テンポはあえて変えず、豊潤な旋律をばら撒く。アドリブの途中で観客から拍手が飛び、一瞬戸惑いつつ笑顔。軽く一礼した。

 高木のソロでは風景がフラメンコに。太田は弾き止め、一歩下がって演奏を眺める。
 吉見が素早い手拍子でビートを提示。うつむき加減で軽快なギターを弾く高木。めまぐるしく指がフレットを押さえ、和音の鋭いストロークへ進んだ。

 続く"マサラスコープ"は3人のお家芸。安定したアンサンブルで優雅に盛り上がる。冒頭のタブラ・ソロは短めで残念。
 タブラは3個用意したが、おそらく持ち替えは無し。タンバリンや小さなシンバルなどを横に吊るし、ポイントで軽やかに鳴らした。
 たっぷりのバイオリン・ソロからギター・ソロへ。振り払うかのように、下へ弦を弾く右手のしぐさが爽やかだ。

「今日は時間を守らないといけないので・・・」
 つぶやいて、"オータのトルコ"をやると紹介した。
「体調よければ、吉見さんがいろいろやってくれるはずです」
 そのとたん、吉見が鼻をかむ。
「なにもマイクに向かってやらんでもええがな」
「いや、たらしっぱなしよりマシかと思って」
 鼻を拭いて、ティッシュを足元へ置く。ギャグかと思ってたが、実際に前日まで大風邪を引いて大変だったそう。

 イントロから太田のボーカルへ。バイオリンを小脇に抱え、目を閉じて歌う。
 節回しにあわせ、ふわりと右腕を回す仕草が好き。
 吉見は静かに口タブラを重ねる。リフレインのみ高木もコーラスで加わる。ちょっとマイク・バランスが小さかった。

 タブラの低音が響く。今夜のステージを通し、左手のベンドは控えめ。右手の素早い打ち鳴らしが耳に残った。
 さらに右手で左のタブラを軽く叩く。無論グルーヴィだが、うねりよりもはじけるビートを強調して聴こえた。
 バイオリンからタブラのソロへ。口タブラが次第にスピード上がり、タブラへの指先もめまぐるしくなる。途中の段階で観客から大きな拍手が飛んだ。
 「あー、風邪で調子でんわ!」
 一声叫び、猛烈な指打ちと同時にソロを締める。

 もちろん高木のギター・ソロも。5フレにカポをはめ、かき鳴らした。
 CDで聴ける3人のシャウトがあるかと期待したが、あっさりとコーダへ向かってしまう。
 同時に司会者が登場、挨拶に入る。そのままメンバーは袖へ消え、アンコールは無し。

 しめて40分のステージ。19時半開演だから、20時半くらいまで1時間を期待したが、あっさりの進行だった。
 曲順のセンスはさすが。ジャズという縛りを踏まえつつ、こだわらない。
 さながら太田ヒット・パレードの様相だ。自作の名曲3連発できっちり決め、自らのアピールを短時間でまとめた。

 さらに太田のライブを何度も聴いてきたファンへは、ロリンズの曲やMASARAでの"モズクス"初演で、新鮮味を与える。
 もちろんバイオリンのアドリブもたっぷり。ややっの夜以外では自己名義の活動を控える太田だが、いざフロントに立つと堂々たるもの。
 サービス精神旺盛さがにじみ出る、小粋な選曲とステージだった。

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