LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2007/4/29   表参道 月光茶房

   〜月光茶房の音会/鳥待月の二人〜
出演:田村夏樹+大蔵雅彦
 (田村夏樹:tp、大蔵雅彦:as,tubes、吉田隆一:produce)

 月光茶房でのライブ第2回は、ストイックな即興が予想される顔ぶれ。店内奥スペースをステージ、テーブルの上は何も準備されてなかった。
 PA無し、生音勝負。開演時間を10分ほど押し、観客の合間を縫って二人が舞台へ向かう。
 
 まず、極小音の即興。田村夏樹がトランペットを構え、軋み音を搾り出す。高音でかすかに弾き絞る。
 大蔵雅彦はアルト・サックスを横くわえ。マウスピースとリードの隙間へ強く息を吹き、ブレス・ノイズで対抗した。

 しばし同様の音像が続く。田村はミュートをあてて、さらにきつい音に変化。
 大蔵が吹き止め、目を閉じて聞き入る。ところが、二種類のサウンドが聴こえる。大蔵を見ても、音を出す様子はない。
 田村は目を閉じたまま、無造作にトランペットで超ハイトーンをかすかに響かす。
 どうやら吹きながら喉で、声を出しているようだ。ドローン効果の緊迫。

 大蔵は床へ座り、チューブへ持ち替えた。
 二人の発する音にメロディは無い。ビートも拍子も解体され、ひたすらフィルター・ノイズ合戦のごとく。
 かすかな田村の音を邪魔せぬようにか、慎重に大蔵はチューブを手に持つ。ぐうっと息を吹き込み、空気の振動音。

 さらにコーヒーショップのコップで使う、プラスチックのふたをベルの中へ入れた。強く吹く。かたかたとベルの中でふたが揺れた。小さなリズム・ボックス。
 振動のタイミングが気に入らないのか、大蔵は丁寧にふたを触り、タイミングを操作してた。
 
 田村はトランペットを置き、マイクの玩具をかかげる。息を吹き込み、電気変調した持続音を出した。
 床に座ったままの大蔵。ふたは取り去り、ベルへCD−Rやお茶缶の蓋をのせ、振動の音色やサイクルを変えた。
 やがて立ち上がる。大蔵はアルト・サックスを構えた。
 かすかに響くフラジオ。循環呼吸で延々と持続する。まるでサイン波のようだ。

 二人の出す音が、ふっと同時に切れる。
 マイクの玩具を置いた田村は、トランペットを構えた。ミュートをベルへ小刻みにぶつけ、リズムを出すかのごとく。大蔵は再び、どっかり座った。
 チューブを構え、循環呼吸でさまざまな振動音を弾き出す。

 いきおい音像の主導権が田村へ。あくまでも田村はメロディ路線へ行かない。細切れな単音や、超ハイピッチのロング・トーンで厳しく攻める。
 大蔵は額に汗を滲ませて、チューブを吹き続ける。出音は小さいが、かなりの迫力だ。
 すっくと立つ大蔵。再びマウスピース横咥えのブレス・ノイズで応酬。

 ひとしきり田村のパフォーマンスが続いた。
 ふとミュートを手に持ち、田村は床へ座り込んでしまう。ミュートで床をこするようなノイズが、静かに響いた。主導権を大蔵へ渡したか。
 だが大蔵はあえて、持続のパフォーマンスを選択した。身じろぎせず目を閉じたまま、ブレス・ノイズがひたすら続く。
 もしかしたらサイン波・サックスに変わっていたかも。

 やがて田村が立ち上がる。トランペットを構え直し、ハイトーンを一音。
 また一音。静かに、音を重ねる。
 サイン波・サックスの大蔵も、同様にさまざまなフラジオで応える。

 一音ごとのソロ回し。次第にペースが上がり、一音ごとのチェイスに。
 タイミングはあえて交互じゃない。時に二人が同時で吹く。
 田村の音がしっかりと変化した。トランペットのまっとうで大きな轟き。
 あえてメロディは排除し、抽象的なフレーズで組み立てた。

 大蔵はふっと吹き止め、目を閉じて田村の音を聴く。
 田村の音が止んだ。アルト・サックスを構えなおす。口にあて、どのアプローチで行くか考えるように。
 無音。ふっと田村が目を開け、視線で尋ねる。大蔵も視線を合わせ、目で合図。
「いいかな?」
「いいですよね?」
「いいのね?」
「いいですね」
 目線で二人は確認しあった。楽器を下ろし、二人は一礼。

 約1時間のプレイ。予想以上に抽象的な即興の対話だった。
 大蔵がサックスをノイズ・マシンとしてのみ使用したのが意外。あのアプローチでテンションが最後はメロディ合戦をちらと期待したが、それは大蔵の志向じゃないかな。
 二人の熱気がこもり、軽く汗ばむ。

 空気の振動を冷静に操り、パワフルな持続活動で世界を作る大蔵。
 通常とは違う奏法やテクニックで楽器を軋ませ、空気の切り裂きで音楽を奏でた田村。
 二人の手法は出音の類似性と別に、まったくアプローチが違う。互いの個性が明確に出たひとときだった。

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