LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2007/4/24   西荻窪 アケタの店

出演:緑化計画
 (翠川敬基:vc、石塚俊明:ds、喜多直毅:vc、片山広明:ts)

 緑化計画の月例ライブ。昨年の4月ぶり。喜多直毅の正式メンバー化でのアンサンブルは初めて聴く。

 今夜は出演者に土壇場まで、あれこれ変更が生じた。
 もともとの告知は、早川岳晴の加わったトリオ編成。しかし早川が足を骨折し欠席、トラで片山広明と望月英明(b)が参加へ。
 さらに喜多直毅もフランスから帰国に間に合い、5人編成の予定だった。
 ところが連絡行き違いらしく、望月英明は当日欠席。ライブ中にアケタへ向かうとの告知があったが、間に合わずじまい。
 結局、カルテット編成でのライブとなった。

 どやどやとメンバーがアケタへ戻ってくる。おもむろにステージへ向かい、客電が落ちる。
 翠川敬基が本日の変則メンバーについて、簡単にMCした。そして、曲紹介。
「リハで壊れっぷりが面白かった曲からやります」
 ふっと空気が張り詰め、音楽が始まった。

<セットリスト>
1.タコヴィッチ
2.ヒンドゥ
3.タオ
(休憩)
4.トレス
5.アグリの風
6.エヘン

 "タコヴィッチ"はショスタコーヴィッチの曲を翠川が編曲したものらしい。硬質なメロディが弦二本とテナー・サックスで奏でられる。
 トシはプラスティックのブラシで、音数少なく叩くのみ。フロントに演奏をゆだねた。強く弓を弦へ打ちつけ、軋ませる喜多。

 片山が柔らかい音色で短くソロ。そして喜多へ。きっちりとソロ回しな感触だった。  翠川は前へ出ず、フラジオを取り混ぜた。カウンターのようにフレーズを奔出。
 ドラムが静かでベースもおらず、するすると音が滑った。

 MCで「うらぶれた感じが面白いんだ」と翠川がほくそ笑んだ。
 続く"ヒンドゥ"はヒンデミットの翻案か。クラシカルな曲を続けた。
 雰囲気は硬質でどこか雪崩れる。冒頭の弦二本による響きが美しい。
 激しい弓使いのわりに、喜多は毛を切らない。むしろきつく弾き絞るチェロのアルコがぼろぼろになり、翠川は頻繁に切れた毛を引きちぎっていた。

 "ヒンドゥ"もトシは抑え、フロントのソロが主体。
 ソロは短めでつなぎ、アンサンブルと混在した。
 翠川はあえて前面に出ず、リフともオブリともいえるフレーズを自由に鳴らす。

 喜多は鋭く旋律を組み立てる。片山は奔放にサックスを操り、混沌さを出した。
 エンディングでは軽くスネアを叩くなか、フロントが音をフェイドアウトさせる。一人残ったドラムが、静かにロール。
 ゆったりテンポを下げて、曲を締めた。

 前半最後はアップ・テンポの"タオ"。別名の「"オータバカ"をやろう」と翠川が告げ、なんだそりゃって表情の片山。
 トシの手数が派手になる。足を大きく動かしハイハットを踏むが、ほとんどハットを動かさないのがユニーク。
 横に吊るしたシンバルを持ち、しゃにむに小音で叩き続けるプレイをしたのはここだったか。後半セットだった気もする。
 小さなシンバルも巧みにアクセントとした。

 ダイナミックな展開で聴き応えあり。ひときわバイオリンとテナーのからみが鋭くなった。
 チェロとバイオリンはPA経由で音を出し、バランスも良い。もっともドラムやテナーが派手に動くと、埋もれてしまうのは否めず。
 ここで休憩。約40分。

「まだ望月先輩が到着してませんが・・・とりあえず、演奏始めます」
 翠川が告げ、後半セットが始まった。
 喜多が参加以降、初めて演奏すると言う"トレス"から。
 あえて曲名をMCで告げず、譜面をさして片山と演奏ラインを相談。
 ベース不在のため、片山が中音域、チェロが低音と分担したようだ。

 バイオリンとチェロが美しく紡ぎ、ふくよかなテナーが中域を動く。
 片山がちらっと喜多を見て、ソロを促した。ここでも即興を前面に出し、ソロ回しは控えめ。短いアドリブが続いて全体を構築した。

 バイオリンとチェロはきっちり拍の頭を意識する。ところが片山があえて自在に吹き、ポリリズミックな効果を出す。
 弦が紡ぐ音域を押し広げるかのように、完全に小節線をまたぐ譜割で、別リズムのアドリブをテナーが吹いた。

 後半2曲目はアップテンポの"アグリの風"。テナーとチェロがイントロを譲り合う。
 結局、チェロが弾きはじめたろうか。
 翠川の比較的長めなソロも、ついに登場。全員が弾きやめて、無伴奏でアドリブへ。チェロの響きが強調された。

 ソロへのアプローチも片山と喜多で異なり興味深い。緑化に慣れ親しんだ片山は、あえて定石をはずすタイミングでアンサンブルの存在感を出す。
 喜多は目を閉じて音を聞き、スペースができるとアドリブへ突入。しかし様子を見るようなそぶりも。
 ただし片山や翠川のソロにも対抗し、弾きやめずに自らの音楽を弾き続けるのはさすが。クオーター・トーンやグリサンドなど、音色に変化もつけていた。

 トシはマレットやスティックを次々に持ちかえる。
 コップの酒(?)でうがい音をくわえたり、コップの底でシンバルを叩いてた。
 最初はきれいに残響が響いたが、2回目、3回目は鈍い音。
 物足りなげに、幾度か繰り返すさまが面白かった。店の隅にある手作りのシェイカーをひょいと取り、軽く振る。

 爽快に"アグリの風"が奏でられる。最後はふっと音が止み、ドラムの静かなリズムのみに。
 しかしそれで終わらず、再度フロントによるテーマの演奏へ。
 数度テーマが続き、ふっと片山が合図。もう一度、繰り返された。

「先輩のために取っておいた4ビートの曲で、今日は最後にします」
 結局、望月は到着せず。カルテットのままでライブが終わることになった。
 "エヘン"がブルージーに。アドリブは各自、長めに展開した。
 ピックでバイオリンを爪弾いたのも、ここだったろうか。
 後半セットも45分ほどか。アンコールは無く、あっさりと終わる。

 バイオリンが加わったことで、アンサンブルがフルレンジになった印象あり。
 高音域で軋ませる喜多の存在感は、予想以上に緑化へ馴染んでた。
 弾きまくりでアンサンブルの温度差を変えたりせず、注意深く耳を傾ける。
 もっとも場面によってはいさぎよく音を止める、トシや片山とは対照的。あえて手を止めても、ぐっと楽器を持ち替えて音をくわえてた。

 思わぬハプニングで変則編成となったが、ベース無しの編成がリズムを浮遊させる効果となって、スリリングな演奏の夜だった。

目次に戻る

表紙に戻る