LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2007/4/21 大泉学園 in-F
出演:黒田京子トリオ
(黒田京子:p,acc、翠川敬基:vc、太田惠資:vln、ゲスト:おおたか静流:vo)
ゲストというより、競演。
"おおたか静流 with
黒田京子トリオ"の面持ちだった。in-Fが保谷から移転して9周年を記念しての組合せなようだ。
店内は満員で立ち見が出る。どうやら太田惠資はリハに不参加らしい。さんざんMCでおおたかにからかわれていた。
メンバーが三々五々店へ戻る。最後におおたかが登場し、おもむろに客電が落ちた。
中央におおたか。司会役も勤める。
「ゲストなのにいいんでしょうか」
と、つぶやきながら。レパートリーも1stセット4曲は、全ておおたかの作品。黒田京子トリオへの即興によるアプローチでなく、自らの世界観でがっぷり相対した。沖縄要素を漂わせつつ、立ち位置はとどまらない。
pppの交換からイントロ。チェロが、バイオリンが、ピアノが、かすかに音を奏でては沈む。若干、硬めの雰囲気。
チェロはフラジオの連発で弦を軋ませる。太田もそっと弦をこすった。
やがて太田がイントロを提示し、翠川敬基ががっしり受け止めた。おおたかの歌声から間奏へ。
バイオリンがまずアドリブ。数小節たってチェロが一音出した瞬間、すっと下がる音量。すぐさまチェロが主旋律へ。
やがて黒田のフレーズへバトンを渡す。紡ぎあう音絵巻が美しかった。
1stセットは歌を生かしつつ、間奏やイントロでは奔放なトリオの個性が滲む。
続く"I remember
you"ではゆったりしたメロディとは逆に、中間部でリズミックなアレンジに。おおたかの即興ボイスがスタッカートで切り込み、ピチカートの応酬と渡り合った。
続く曲では沖縄要素がより滲んだ印象あり。おおたかの歌声が朗々と響いた。
冒頭はチェロとバイオリンのデュオ。極小音で弦二本が絡んだ。歌が始まっても、黒田は耳を傾けるのみ。体を優雅に揺らし、指先でピアノのボディを叩く。
おおたかにあわせて黒田が口ずさむ。バイオリンの音とぴたりはまったピッチで、歌声がかすかに聴こえた。
黒田はアコーディオンを構える。すいっと音楽へ参加した。ここでもバイオリンと音色の相性がばっちり。
ぴりぴりと空気を震わせる響きが、なめらかに歌声と馴染んだ。
中盤で"月が出た"を、フェイクしたメロディで歌う。太田がバイオリンで応え、コミカルな一幕も。
翠川は目を閉じ、ベースの役割をつとめる。リフを黙々と弾き続け、途中でバイオリンや歌がフェイクしても、自らのタイム感をずらさない。さながらポリリズム。
重厚なフレーズの掛け合いがすさまじかった。アンサンブルは歌声に誘われ、昇華した。
1st圧巻は最後の"Voice is
coming"。ちなみにこの日は"命"をテーマに選曲したそう。
実際は黒田とおおたかのみ確認できており、翠川は「そうなの?知らなかった」ととぼける。
リハ不参加の太田は言わずもがな。コミカルなおおたかのMCで進行した。
「みんながお母さんから産まれた時・・・お父さんから産まれる人はいませんね」
という喋りが、面白かった。
演奏が強烈。冒頭ではマイクのリバーブに気がついたが、ここではアンサンブルとエコー成分が溶けて、滑らかに響いた。
歌声が。3人の演奏が。スケール大きく、ステージ一杯に広がった。
トリオ編成+ボーカルのシンプルな編成。なおかつマイクは太田とおおたかのみ。
しかしそれ以上の大きな拡がり。オケさながら。迫力が鮮烈な、ひと時だった。
後半も4曲。冒頭は「ぴとんっ」っておおたかの呟きから始まる、フリーなアプローチ。ハナモゲラをスピーディにまくし立てる。
最初の一言から、すぐさま翠川が反応。鋭い速度がさすが。言葉は抽象と日本語を行き来する。
太田もボイスで切りこむ。中国語っぽい響きの言い合いをおおたかとぶちかまし、続くメロディも思い切り大陸風だった。
ピアノやチェロも自由度高く弾きまくる。黒田トリオの強靭な即興性を披露した。
2nd2曲目は1曲目からメドレーでおおたかが続けた。素早くメンバーが譜面をめくる。
トリオでは幾度か演奏された、チャールズ・アイヴスの"Songs
my mother taught
me"。冒頭で大意を演奏に載せ、おおたかがつぶやいた。
歌詞は彼女の書き下ろし。叙情性たっぷりにピアノが鳴る。暖かく、凛と。
今夜の翠川は普段のトリオ時に比べたら、余裕ありそうに見えたのは気のせいか。
おおたかやメンバーが繰り出すサウンドへまったく動じずに受け止め、なおかつ隙あらばロマンティックなメロディを奏でるチェロは、さすがの貫禄だった。
黒田はおおたかの世界観にがっぷり組みつつ、軽やかに鍵盤へ指を落とす。上体がふうわり動き、タッチが柔らかい。
どの曲か忘れたがイントロで、思い切り高音部へ体を動かしつつ、ぐわんっと低音で始めた動きの意外性が興味深かった。
太田はリハ不参加で、新鮮に音楽を受け止めた。一曲終わるごと、楽しそうにバイオリンを軽く叩いてエールを送る。
譜面は初見ながら、次々にソロで美味しくアレンジを飾った。
おおたかも2ndセットは初めて歌う曲ばかりという。
「スタジオ仕事みたい。でも、新鮮な気持ちで歌うのもいいですね」
と、にっこり。
黒田トリオのいわば代表曲、"ホルトノキ"が続く。
おおたかの歌詞が載った。中盤で彼女のポエトリー・リーディングも挿入。
黒田のピアノが美しい。ボーカル部分は弦が伴奏で一歩引き、ピアノとボーカルで世界を構築した。
ピチカートで紡がれる箇所はボーカルも単音の呟きで加わり、アルコへ変わってテンポが雪崩れる部分で、弦が一気に高まった。
おおたかはどの曲も軽々と歌いこなす。アドリブから歌へ難なく馴染んだ。
中間部分は即興で、テーマ部分はすっきり濃密にまとめる。歌ありアレンジはそうそう無いだろう。貴重なひと時だった。
最後は"Everything Must Change"が選ばれた。Bernard
Ighnerの曲。「カーメン・マクレエも歌っていました」と、黒田が紹介した。黒田京子トリオで聴くのは初めて。
歌詞はおおたかが日本語詩をつけたか。しみじみと暖かい演奏だった。
アンコールの拍手が止まない。メンバーが顔を見合わせる。
「さくっと一曲、やりましょう」
黒田が宣言した。
「何をやるかすら、リハに参加してない太田さんはわかりませんよね」
微笑みながらおおたかが、歌詞カードをそっと太田へ見せた。
曲は"Round'
midnight"。ピアノがぐうっとブルーズ色を増し、チェロが低音を支える。ここまでの無国籍で重心軽い世界観が一転、どっぷりとジャズの暗闇がにじり寄った。
ふっと酒を飲みたくなる。おおたかの歌声が高く舞い、ピアノがひたひたと闇を塗った。いきなりの真正面なジャズが、なんだかとっても嬉しかった。
ある程度譜面で枠組みを決め、その上で自由度を生かす。まったく奔放に流れないが、個々の動きは固定されない。互いの音がきめ細かく絡み合う。
黒田京子トリオ+おおたか静流ではなく、4人での一夜限りのユニットとして演奏したのかもしれない。即興要素は無論あるが、隙無く配慮されたステージだった。