LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2007/4/10 西荻窪 音や金時
出演:MaMakin+太田惠資
(MaMakin:俳句、太田惠資:vln,voice)
バイオリンの生演奏と即興俳句のイベント。年に数回、定期的にあり。今夜のお題は「遅き日」。店内の壁は白紙が貼りめぐらされた。ステージの上に丸テーブルがひとつ。
なおMamakinの書く俳句は、文字の形そのものが表現。よって以下へ記した句は、言葉をぼくが写し間違えてる可能性をご承知おきのほど。
客電が溶暗。静寂を縫って、Mamakinが筆を持つ。壁へ向かった。
一筋。また一筋。太い線を描く。水だけか、ものすごく薄い薄墨。
数本の曲線が壁へ弾かれた。時間が立つと、この線たちはほとんど消えてしまった記憶ある。
太田は床へ座り、弓へグリスを塗る。
Mamakinの筆が出す、描線ノイズと相対するごとく。
さらに、弓二本を軽くこすり合わせた。
Mamakinは無言でステージ中央のテーブルへ。女性ボーカルのジャズが薄くかかる。照明も場面にあわせ、きめ細かく変わった。
ちなみにPapakinは照明、スライド、PA、さらに写真撮影。八面六臂のスタッフ役。
Mamakinは腰掛けて、さやえんどうを向く。太田は、
「またクラシックを演奏することになったんですよ」
つぶやくと、ゆったりした旋律をアコースティック・バイオリンで奏でた。フレーズが途切れ、次へ。次第に即興へ向かったか。
Mamakinが唐突に立ち上がり、ピッチャーのしぐさ。架空の球を投げる。
「いきなり何するんですか」
苦笑する太田。バイオリンをバットに見立て、Mamakinのしぐさにあわせ打つ。
それもやめたMamakinが、新聞を読みあげた。太田は黙って聞いたまま。BGMのジャズはかなり長く続く。
太田は演奏を始めない。ここまで二人のパフォーマンスがメイン。
ふと、静寂。二人は黙って扉を見つめる。新たな観客を待つかのごとく。
太田がバイオリンを構えなおす。断片的な旋律の組み立てで、クラシカルな即興を。
立ち上がるMamakin。壁の一番端まで向かい、太い字で最初の句を描いた。
"四半里ごと花盗人となりにけり"
バイオリンの音が高まる。即興は依然クラシカルな様相を含んだまま。
Mamakinの筆はさらに進む。
"白地図を色付け初むる日永かな"
次第に熱っぽく変化するバイオリン。数度、素早く弓を弾き下ろす。
メロディが暖かく産まれ、さらに鋭く幾度も弾き下ろすアクセント。
Mamakinは次々と句を描いた。
"時計屋の加減や如何にか訪ふ遅日"
音楽は止まらない。基調は静けさ。しかし激しいフレーズもときおり現れる。
テンポが速まり、唐突にピチカート。次にフラジオを多用。
そして弦へ指を滑らせ、音程をきゅうっと下げた。
"長襦袢干したるままに春の雷"
バイオリンが切なく盛り上がる。
雄大なメロディが提示されたが、もしかしたら曲だったかもしれない。エスニックな広がりが産まれた。
ぐいぐいと太田の演奏は高まる。
"雹ばらら真向の真夜微塵なる"
ふっと音楽がゆったりと。復弦の響きが膨らんだ。勇ましい旋律へ。ぐいぐいとバイオリンが展開した。力強く、ヒロイックに。メロディが力強い。
Mamakinは袖へ腰掛け、無言で耳を傾ける。
次第に明かりが暗くなった。バイオリンは止まない。完全に照明が落ちた頃、美しくコーダを決めた。ここまで25分程度。
暗転。
観客が静かにステージを見つめる。Mamakinは長い板をステージへ立て掛けた。
太田はふっと、エレクトリック・バイオリンを持った。ちょっと爪弾き、すぐに置く。
アルペジオ風のループを作り、ごく小音で流してたことに、後で気づいた。
アコースティックへ持ちかえると、ステージ中央の椅子へ。静かに奏でる。
Mamakinは大きな細長い布を、ばらりとステージへ広げた。端を持って太田へ向かう。
ぐるぐると頭へ巻きつけはじめた。太田はおとなしく、されるがまま。演奏は止まない。
二巻きくらいされ、アラブのターバンを巻いてるかのごとく。もう一方の端は、テーブルをまたいで床にまで広がる。
旋律が中近東を連想する寂しげなフレーズに変わった。
Mamakinは筆を取る。太田の頭へまきつけた長い布へ、句を記した。この段階では、何を描いてあるか読めない。
書き終わったMamakinが、太田の頭から布をはずしてく。Mamakinが袖へ下がると、途方にくれたようすの太田。
弾き止めて布へ描かれた句を読む。ステージ上の板へ自ら布をかけて、観客へ句を示した。
"遅き日の経絡たなびきゆく出窓"
だらんと床へのたくる布の端を、丁寧に解く。エレクトリック・バイオリンのループが薄く響いてたことを、ここで気づいた。
エレクトリック・バイオリンへ持ちかえる。
太田のバイオリンが炸裂。
30分近く、弾きっぱなし。本日のクライマックスであり、壮絶なひと時。
レコーディング無かったのが惜しい。果てしなく展開する即興の醍醐味に、惹きこまれた。
次々にフレーズをループ。さらに深いリバーブとディレイで、弾くフレーズに奥行きを。こだまのようにフレーズをディレイで返し、性急さを出す。
さらにオクターバーでベース音を不穏に奏でた。
オクターブ下の音程をエフェクタで同時に出す。微妙に音程を変えてるのか、一筋縄では行かなぬ和音で聴こえた。
演奏はぐいぐいツヤが出て、ロマンティックな世界を提示。
ステージにはスライドが次々映し出される。海辺の写真だが、中央に何かの物体を浮かべた、抽象的な写真。ふわふわ不安定なムードをかもし出す。
バイオリンが軋む。めまぐるしい旋律の奔流の収斂で、ロングトーンに。太田の歌が飛び出した。力強く、しばし喉をふるわせる。
フレーズのループはときおり切られ、完全ソロへ。続いて新たなループによるバック・トラックが速やかに構築。
アイディアは止まらない。壮絶だった。
"土星の輪傾いでをか日遅らし"
ステージの紙へ、Mamakinがやっと句を記した。後半が始まって20分程度。
ループがフェイド・アウト。エレクトリック・バイオリンのソロが切なく響く。リバーブをまとって。
"遅き日や己が匂いす中の空"
再びループを作る。アコースティックへ持ち替えた。旋律がむせび泣く。
静かにクライマックスへ。ステージに闇が訪れる。
一呼吸置いて、二人が一礼。大きな拍手が沸き起こる。
前後半合わせ、1時間強のパフォーマンス。後半のバイオリン・ソロに圧倒された。
次第に空気が濃密になる、充実した素晴らしいひと時だった。