LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2007/4/8   東中野 パオ/驢馬駱駝

出演:MAHA,バービー・マコ,KANARI wirh 太田惠資+平井ペタシ陽一
 (MAHA,バービー・マコ,KANARI:ベリー・ダンス、太田惠資:vln,per、平井ペタシ陽一:ダルブッカ)

 東中野で"遊牧民BAR"として開店するPAOビル最上階「驢馬駱駝」のイベント。
 今日のメインはベリー・ダンスらしい。店内は意外に広い。屋根にはパオがある、ユニークな場所。
 ステージ奥にミュージシャンがスタンバイ、その前に広々とダンスの場所を確保した。観客は女性が過半数。ほぼ全員がベリー・ダンスに関係か。男は数人。ましてや音楽目当ての観客はいなさそう。

 開演時間は30分ほど押す。客電が落ち、大きな音でアラブのポップ・ミュージック(?)が流れた。第一部は本日の企画グループ、アルカマラーニのメンバー(?)によるベリー・ダンス。入れ替わり立ち代り、7人ほどが踊ったか。
 一曲で平井ペタシ陽一が掛け合いでダルブッカを鳴らす程度。前半の踊りは基本的にテープでの踊りだった。
 
 休憩を挟み、いよいよ太田惠資が現れる。観客は80人弱か。
 黒尽くめの太田は無言で青のエレクトリック・バイオリンを構える。かすかにロングトーン。すぐにやめて、別の音を静かに重ねる。足元のペダルを操作し、ループを作った。

<セットリスト>(2部のみ)
1.即興#1(ソロ)
2.オータのトルコ(以降、+ダルブッカ)
3.即興#2(以降、+ダルブッカ、ベリー・ダンスと競演)
4.即興#3
5.即興#4
(アンコール)
6.mozqus

 一曲目は完全即興ソロ。続いて、オクターバーの低音でゆったりリフを。
 ひとしきりループを作ると、バイオリンを下ろす。おもむろにアラブ風に唸り始めた。朗々と歌い、おもむろにホーメイを響かせた。

 演奏当初に聴こえた観客のざわめきも消え、皆が熱心に耳を傾けていた。
 バイオリンを構えなおし、熱っぽく奏でる。前衛要素は控えめに、ひたむきで性急な旋律の奔流が美しい。ディレイをかぶせた音色が飛び交った。

 目を閉じ、すっくと立った太田は猛烈に弓をかきむしる。
 5分ほど弾きまくったろうか。ふっと音を止め、すかさず横のリズム・ボックスのスイッチを入れる。
 とたん、大きな拍手がスペース一杯に響いた。

 平井が登場、エイトビートに乗って軽快にダルブッカを叩く。リム打ちも多用し、フレーズごとにパターンを変える多彩さ。
 バイオリンが聴き慣れたリフ。"オータのトルコ"だ。

 太田のボーカルが飛び出す。最初の"ゲール、ゲール、ゲール"は弓弾きで代用の、ちょっと変えたアレンジだった。
 太いメロディはアドリブへ雪崩れた。力強くダルブッカが支える。ここでもループを使ったかな?中間部の即興はかなりじっくり演奏。

 3曲目から、一人づつベリー・ダンサーが登場。どこまで構成を決めていたかは、聴いてて分からず。平井が冷静な目でダンスを眺めつつ叩くのと対照的に、太田はときおり軽く眺める程度。
 目を閉じて自らの音楽をかっちりと提示した。

 3曲目は重厚な音世界を展開する。目の前でくるくる踊るダンサーへ青光りする刀で切りつけるかのごとく。
 高音ループを薄く広げ、低い旋律を中心にスケール大きな即興をバイオリンは繰り広げた。
 ダンサーはひとしきり踊ると、観客スペースへ向かう。そこでも踊りは続いた。すうっと手を高く持ち上げ、ポーズを決める。
 太田はメガホンを構え、つぶやき声でをひとしきり。静かにパフォーマンスの一幕を下ろした。

 もっとも聴き応えあったのが、続く即興。一転して華やかな世界を広げた。きれいな旋律が溢れた。軽やかに別のダンサーが舞う。透き通った大きな布を両腕で広げ、踊りながら体へ巻きつける。
 すっと太田が手を休め、ダルブッカのソロへ。軽快なビートが噴出し、ダンスは切れを増した。
 太田はすかさずタールを構え、低くビートを強めた。

 猛烈なボイスを聴かせたのもここだったろうか。アラブっぽい即興声を立て続けにまくし立てる。吉見の口タブラをバイオリン風に翻案の印象が、ふっと頭に浮かぶ。
 強いビートとがっぷり組み、噴出すボイスの勢いがかっこいい。こういうアプローチは初めて聴いた。

 ダルブッカのソロへ再びバイオリンが加わり、エンディングに。
 すっと着地しかけたとき、太田が足元のスイッチを踏む。唐突に流れるエイトビート。間違えたみたい。あわてて止め、太田が一人苦笑した。
 ダンスを引き立てがちな立ち位置の太田だったが、このときだけはふっと素直な表情をを見せた。

 最後のダンサーへ変わったとき、ここまで弾き続けてた青エレキからアコースティックへバイオリンを変えた。
 微分フレーズから、次第にクラシカルなカデンツァへ。マイクを通さず、旋律の奔流へ。
 ダンサーがステージ狭しと踊りまくる。太田がずいっと歩を進めた。ミュージシャンの舞台から降り、ダンス・スペースへ侵入。舞台へ片足かけて、強靭な即興メロディをひたむきに弾きまくった。

 約50分ほどで演奏は終わり。暗転で全員が舞台から降りる。大きな拍手が続き、アンコールの要請へ。まず太田たちが舞台へ戻る。
「そろそろ体力が・・・MAHAさん、なんか喋りませんか?」
 太田はギャグ交じりに、挨拶をダンサーへ促した。
 イベント趣旨やスペース紹介。その後ろで太田は、切れた弓を丁寧に片付ける。

 そしてアンコール。観客へもダンスの参加を勧めた。曲は太田の"mozqus"。テンポは比較的ゆっくりと。
 テーマが繰り返される中、ダンサーが周辺の女性たちを引っ張り出す。ひとり、またひとり。最終的には20人弱がステージで踊った。
 露出の多い衣装でなく、普段着で踊るベリー・ダンスもなかなかセクシー。
 演奏はアドリブへ進む。太田のバイオリンはつややかに響いた。
 
 ライブはおよそ1時間ほど。あくまでもベリー・ダンスが主役で、太田のバイオリン目当てだと、物足りないのも正直なところ。
 しかし得意の多重トラックをバックに、まっすぐに弾きまくる太田のソロはなかなか新鮮だった。さらに場面毎に音世界を鮮やかに変えるさまも聴き応えあり。
 ダンスと絡み合うバイオリンのパフォーマンスを味わえた、貴重なひとときだった。

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