LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2007/3/17  高円寺 Jirokichi

  〜 ABO's Birthday Special!:Wherever I go , I'll be with my didge〜
出演:DIDGERIDOO MAGIC
 (荒井ABO誠:didge、近藤等則:tp、向井滋春:tb、村上"ポンタ秀一:ds、
  仙波清彦:per、バカボン鈴木:b、太田惠資:vln、今堀恒雄:g、天田透:bass flute)

 ジロキチのオーナー荒井ABO誠のユニット、DIDGERIDOO MAGIC。今まで聴きそびれてた。あまりの豪華メンバーに惹かれ見に行く。予想通り大入りでびっしり立ち見。100人弱入ったか。
 ちなみに荒井は4月から北海道へ1年ほど移住するらしく、DIDGERIDOO MAGICはしばらく活動停止とか。

 ステージは基本的に即興のようす。前半が40分、後半が1時間強と、比較的短めながら濃密に進む。強烈な個性を持ったミュージシャンがてんでに音楽をぶちかます。混沌とポリリズムがうねった。
 リーダーがバンマス役をあえて控え、個々の自由度を高めたためか。
 無秩序さの炸裂は興味深い。これだけの顔ぶれで粛々とソロ回しに陥らず、個性のぶつかりとなった。

 しかし奔放さゆえあえて一歩引く場面も見られる。場面によって太田惠資はじっと耳を澄まし、あえて混沌へ突入しない。今堀恒雄もリズム・ギター中心で、長いソロは取らず。
 近藤等則や天田透、村上秀一あたりが前面に出た。
 仙波清彦と村上のバトルを期待したが、くっきりと設定されず。その点、なんとも贅沢なライブだった。

 まず新井がステージへ登場。竹製の太いディジリドゥを構え、ぶかぶか吹き始めた。
 循環呼吸を駆使した低音がうねる。ぐいぐい押す。サイケな感触が響いた。
 5分ほど完全ソロ。一息ついたあたりで仙波と太田が現れる。
 口琴を唇に当てた仙波が軽くリズムを取り、次々とおもちゃ中心に鳴らしてゆく。

 メガホンを構えた太田がアラブ風のスキャットで吼えた。バイオリンへ持ち替え、鋭いフレーズで立て続けに切りこむ。
 新井は目を閉じたまま、軽くひざを揺らしてディジリドゥを吹き続ける。
 ひとしきり、3人の即興。ふっと音が消えたとき、仙波が太田のスキャットを真似て一節。太田がふきだした。

 続いてバカボン鈴木と今堀がステージに。バカボンはスティックを構え、テクノっぽいタイトなリフがびしばし決まる。一気に音世界がリズミカルになった。
「ポンタさ〜ん。来てくださ〜い」
 新井がオフマイクでポンタを呼び出す。しばらくしてサングラスを掛けた村上がにこやかに現れ、ドラムセットへ座った。
 2タムの上に大きなタムを一つ置くセッティング。太いスティックからブラシ、マレットから棒状のスティックへ。場面ごとに力強く叩きのめした。

 今夜はバカボンが基本グルーヴを出す場面多し。村上は矢継ぎ早にフィルを繰り出す。タイトな乱れ打ちが中心で、シャープな刻みは少なめ。
 全体のボリュームがぐんっとあがり、仙波の音がオフ気味。天田透が登場し、2メートルくらいある、極大のフルートを吹いた。
 新井は吹き止め、頬杖ついてミュージシャンの音楽へ聴きいった。
 今堀がちょっと捻ったリフをカッティング、バカボンのスティックはぐいぐい押す。太田がリバーブをまぶしたエレクトリック・バイオリンでアドリブを奏でた。
 
 ついに向井と近藤も登場。いきなりトロンボーンの長尺ソロ。たまたま音数が減ったタイミングで、するりと演奏がジャズめいた。
 太田が爪弾きに切り替え、手を休めて目を閉じ、聴きいった。

 近藤がエフェクタでドップリ加工のトランペットを吹き始める。奔放なソロが続き、天田や向井がカウンターを入れた。
 誰もがまっしぐらに音を重ね、誰がどのフレーズを出してるか混乱するほど。バカボンはエレキベースに持ち替える。
 ディジリドゥを構えなおした新井が延々と吹き連ねた。おそらく鈍く響いていた過半数の低音が、この音だろう。

 いきなり村上が主導権を握り、仙波とフィルのタイミングを合わせ、強引にコーダへ導いた。
 ここまで手を止めていた太田が、バイオリンでフレーズを弾きかけるが、するりと着地へ。爪弾き数度で、最後を飾った。

 拍手の中、村上が新井へMCを促す。
「ええと・・・休憩します。後半は長くやりますので」
 一言つげ、あっさりと潔くステージを去る。

 20分ほどの休憩で再開。まず新井と仙波、バカボンあたりが現れたろうか。
「それ、フルートに見えないよな」
 村上が天田をからかう。たしかに馬鹿でかい。初めて見た。オクトバス・フルートというやつらしい。
 音を聞かせて、と村上がリクエスト。無伴奏でフレーズを軽く吹く。そこへバカボンがエレキ・ベースを重ね、演奏へ突入した。

 新井がディジリドゥを吹く。
 次々とミュージシャンが音を重ね、またしても即興が拡散。互いのベクトルをあえて同時並行させ、大きなうねりを作る。
 強烈なディストーションをかけたエレキベースで、バカボンがぐいぐいビートを刻んだ。

 セカンド・セット冒頭で延々とソロを吹いたのが近藤。テンポはバカボンが執拗に提示し、仙波が補強する。今堀もすこし弾いたかな。
 立て続けに村上がフィルの奔出。
 サウンドを意識しつつも、マイペースで近藤は吹きまくった。電気加工されたトランペットが轟く。
 向井や天田がカウンターを入れるが、トランペットのスタイルがまったくブレぬ。やがて3人の同時並行ソロへ突き進んだ。

 村上は仙波のリズムに絡もうとしたが、仙波があえてはずしたのかな。頭を抱えるそぶり。
 太田へボイスのサインを送ったようだが、目を閉じたままの太田は気づかず。
 またしても村上が頭を抱えて見せる。太田のソロ途中に、強烈なロールをぶちかまし、今度は太田がにやり笑った。

 後半セットはいくつかのブロックに分かれた即興。10分強のセッションが盛り上がり、次第に収斂することでブロックを作った。
 最初に終わりかけたとき、太田が支えたと思う。爪弾きで親指ピアノっぽいフレーズを提示。天田がバス・フルートのインプロで立ち向かう。
 仙波がエレクトリック・パッドをタブラのように鳴らしたのもここか。やがて仙波も手を休め、太田と天田のアフリカンな即興が繰り広げられた。

 音がやみかけたとき、拾ったのが今堀だったか。カッティングで突き進んだ印象あり。
 ディジリドゥもさまざまな楽器を使い分ける。しまいには立ち上がって、片手で持ち吹き鳴らす。

 途中で村上がハイハットを引き抜き、ネジを操作。付け直す。
 そこから猛烈なシンバルの四つ打ち。ガバ・テクノ風に押しまくった。
 演奏に火がつき、天田と近藤が暴れる。太田が隙をぬって切り込んだ。
 天田はピッコロに持ち替え、鋭いフレーズで空気を裂いた。

 圧巻は終演間近。ディジリドゥのぶかぶか提示するグルーヴで全員が疾走したあと、いったんブレイク。
 すかさず新井が再び吹いた。
 立ち上がった新井は軽く目を閉じ、片手をぶらり下げて極太のディジリドゥを操る。堂々たる様子がいかしてた。
 ぐいぐいとアンサンブルの即興がうねる。いつのまにか村上が仕切り役に回り、エンディングを演出。スティックを振り上げる村上に沿って、コーダに到達した。

 メンバー紹介し、楽屋へ去っていくミュージシャン。ステージには村上と新井のみ。アンコールの拍手が響く中、
「2分くらい、二人でやろうよ」
 村上が新井に提案、フリーへ。
 
 メイン・セットの激しさをほぐすように、ランダムでスローなインプロ。村上はスティックを軽やかに動かし、フィル中心のビートだった。
 静かに着地。そのとたん、楽屋からミュージシャンの褒め称えが響く。
 大笑いしながら、新井たちはステージを去った。

 凄腕ぞろいで決め事なし。隙を縫うか独自路線を突き進むか。個性かサウンドを構築する美学がぶつかり合う、壮絶なインプロだった。
 パーカッションを抱え、鳴らすタイミングに耳を澄ます仙波。目を閉じてバイオリンを構え、うねりが収まりかけた瞬間すかさず鋭く奏でる太田。二人の姿が印象に残る。
 後半セットでは今掘も同路線ながら、ちょっと見せ場を作り損ねたか。

 豪腕ベースを奏で続け、場面をがっちり構築したバカボンのアプローチが素晴らしい。間近で聴けたポンタのドラムも興味深かった。
 壮絶で濃密、混沌な即興が刺激的なライブだった。

目次に戻る

表紙に戻る