LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2007/3/11  吾妻橋 アサヒ・アートスクエア

出演:SALLE GAVEAU
(鬼怒無月:g、喜多直毅:vln、佐藤芳明:acc、鳥越啓介:b、林正樹:p)

 サル・ガヴォとしてのライブは、初めて聴く。林が加わる前、"Play Post Tango & More"名義で03年の12月に聴いたっきり。
 客席はきれいに埋まった。無造作にメンバーが舞台へ上がっていく。いきなり一曲目が始まった。
 暗めのライティングに、スポットライトでメンバーと譜面を照らす。背後の壁では光のリボン・アートがゆっくり動いた。

 1曲目は新曲でタイトルは未定。ハードなプログレ風の感触で、初期ボンフルを連想した。
 低音がびんびん響く。ベースの音が腹の奥で蠢いた。
 全員が譜面台をきっちり目の前に置いた。バンドの音楽性アドリブのソロはあるが、構成はほとんど決まっているかのよう。高速フレーズで全員がユニゾンをびしばし決め、タイトなアンサンブルを見せ付ける。

 1曲目でベースがくっきりとリフをおき、ギター、バイオリンがソロを取る。
 喜多が激しいボウイング。あっという間に弓の毛が、一本、また一本ほつれる。
 体をきびきびそらし弾きまくるうち、弓の毛はざんばらに。白いライトで照らされた糸がふわり、宙を舞った。

<セットリスト>
1.無題(新曲)
2.Art Deco
3.Nullset
4.Seven Steps to "Post Tango"
5.Parade
(休憩)
6.ティンド
7.Alloy
8.Pointed Red
9.Arcos   
10.Crater
(アンコール)
11.Calcutta

 一曲終わってさっそく喜多が弓を交換しに、いったんステージから去る。ちょうどそのタイミングで鬼怒のメンバー紹介。ステージにいない喜多へ苦笑した。
 続いてアルバムに未収録ながら、以前からのレパートリー"アール・デコ"へ。キーボードやベースのリフはありながら、どこかムードが抽象的。
 この曲に限らず、喜多や鬼怒が弦の高音ぎりぎりを使った鳥のさえずりみたいな音を多用する。タンゴの文脈だろうか。鬼怒はときにボトル・ネックやエフェクターも使い、さまざまなアクセントをつけた。

 コンパクトな曲、"Nullset"へ。Warehouseを連想する曲想。
 各人のソロはかならず回るわけではなく、曲ごとにアドリブ役が決まっていたかのよう。
 なんだか今日はメンバーの雰囲気が重たい。MCは控え、さくさく演奏した。一曲が即興で展開はせず、構築感を常に漂わす。
 熱く疾走した"Seven Steps to "Post Tango"が1stセットでは圧巻だった。へヴィな雰囲気を豪腕なソロがどんどん披露され、沸き立つパワーを見せた。
 鬼怒のアドリブは速弾きで駆け抜けた。

 1stセット最後は"Parade"。"Play Post Tango & More"時代からのレパートリーだが、元はボンフルで以前に演奏してたと、初めて知った。
 サル・ガヴォのアレンジは重心軽く、涼やかにリフを連ねた。佐藤が前面に出たのがここだったろうか。
 1stセットでは無造作な面持ちで激しく弾き倒す喜多と、がっしりとギターをかきむしる鬼怒の印象が強い。

 林はアドリブが短め、むしろエレピでリフを奏でる姿が目に残った。鳥越はぼくの席から姿が見づらい場所で弾いていた。
 1曲目の重厚なボウイングから指弾きへ。速いフレーズ使いではじく弦は、PAで野太く増幅された。

 休憩後は「タンゴ+インド」がコンセプトな佐藤の曲。彼は足元にラジカセみたいな機械を置いて、シタールのフレーズをループさせた。
 イントロでは喜多が林と視線を交わし、鋭く一弾きを幾度も繰り返した。熱っぽいソロを佐藤、喜多、鬼怒が繰り広げる。

 ちょっと長めのMC。散々探してたゲイリー・バートンの話を、観客へ向かって熱っぽく語る。
「彼はジャズ史に残ってませんが。**と**をくっつけるってセンスが好きなんです。こんなもの、くっつけなくていいだろっていうのが。タンゴとインドとか」
「・・・ぼくのこと、嫌いですか?」
 佐藤へ向かって喋る鬼怒へ、苦笑して尋ねた。

「いやいや。近親憎悪っていうやつ」
 フォローになってない。
「ぼくは佐藤くんのこと、好きですよ」
 強引のMCを打ち切り演奏を始める鬼怒へますます苦笑の佐藤に、客席から笑いが飛んだ。

 後半はPAの響きが少し変わり、低域が少々引っ込められた。丸くまとまり、中域が膨らむ感じ。
 ピックアップが拾ってしまうのか、唐突にばりばりとノイズが響く箇所も幾度かあったのが残念。
 
 猛烈なテンポで"アローイ"がぶちかまされた。後半はぐっとテンションが上がり、ソロも長めに拡大されるだけでなく、交換の構成も効果的に。
 "Pointed Red"はまずバイオリンとエレキ・ギターがバトルを繰り広げ、次にアコーディオンとエレピの鍵盤隊へ受け継がれる。16小節から8小節、4小節とフレーズが短くなり、チェイスした。

 濃厚なウッド・ベースの無伴奏ソロが"Arcos"の冒頭に置かれた。バロック風の旋律がヨーロッパ調に世界観を拡大し、ほんのりジャズ風味も施された。
 最後はドラマティックに"Craterを"。しだいにテンポが上がり、エンディングはユニゾンががっちり決まった。
 
 メンバーがステージを去る。最後に残った鬼怒がギターを椅子に置き、ステージを去ろうと数歩。
 そのまま、くるりと席へ戻ってしまう。
「アンコールやります。もう一度出てくるのって、苦手なんですよ」

 林の曲で"カルカッタ"を。ここまでの重厚さを払拭させる、ラテン・タッチの軽快な旋律が響いた。
 一気にムードが華やかに。ステージもぐっと明るくなった。
 笑顔を絶やさぬ林が鍵盤を叩き続ける。アドリブも短めながら喜多や鬼怒が弾いたかな。
 各セット1時間。びっちりとサル・ガヴォの世界を提示した。

 アルバム発売直後なためか、ほぼ全曲を演奏。その上で新曲も織り交ぜる構成だった。
 In-Fで聴いた以前のユニット"Play Post Tango & More"時代は、もっと軽やかなイメージあった。サル・ガヴォではかっちりとバンド志向な、チェンバー・プログレ的のアプローチを強く感じた。
 鬼怒が自分より若い世代の気鋭ミュージシャンを集めたこのバンド、今後の展開も興味深い。

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