LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2007/3/4   西荻窪 アケタの店

出演:明田川荘之+明田川歩
 (明田川荘之:p、オカリーナ、明田川歩:vo)

 アケタの店、昼の部で明田川荘之の実娘、歩とのデュオ・ライブ。この組み合わせは5回ほどあるらしい。聞くのは初めて。
 歩の知り合いらしい観客が幾人も訪れ、アットホームな雰囲気で幕を開けた。
 
 まずは明田川のピアノ・ソロでスタンダードの"アローン・トゥギャザー"から。この始まりは意外。
 ラフなタッチでピアノが響く。テンポがラッシュし、ごつく響いた。ホンキートンクな鳴りをかまわず叩く。一音、明らかに弦がビビる。狙った効果ではなかろうが、ハイハットみたいで面白かったな。

<セットリスト>
1.アローン・トゥギャザー(p solo)
2.オーヨー百沢
(中断)
3.オーヨー百沢
4.アイ・ライク・梅さん
5.レフト・アローン
6.サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート
7.セント・トーマス(オカリーナ solo)
8.ブラックホール・ダンシング(p solo)
 (休憩)
9.アイ・クローズド・マイ・アイズ(p solo)
10.クルエルデイズ・オブ・ライフ
11.ヘルニア・ブルーズ
12.アルプ
13.オール・オブ・ミー
14.ストレンジ・メロー(?)(p solo)〜ヘルニア・ブルーズ
15.村時雨(オカリーナ solo)
 (アンコール)
16.オール・オブ・ミー

 2曲目からボーカルが加わった。鼻のあたりが父親によく似ている。イントロを弾くピアノへ向いて、中指でそっとリズムを取る。おもむろに歌いだした。
 ボーカルのタッチはあまり声を張らず、R&Bっぽいムードも漂わす。明田川のオリジナルだが、歌詞も本人かな。
 どんなアンサンブルか先入観なしに聴いた。スキャットは無く、まっとうにメロディ・ラインをなぞる。フェイクもほぼ無し。ピアノもさほどテンポを揺らさない。アドリブが挿入されるが、ピアノ・ソロも短め。

 1曲終わったところで、マイクの調子が悪いと中断。この日はスタッフがおらず、荘之みずからミキサーをいじる。うまくいかない。いったん客電をつけて、本格的にいじりだした。
 途中でギター・アンプで出そうしたところで、なんとかマイクが復帰。薄くリバーブをかけた。何の音なのか、スピーカーからハムノイズが洩れ続けた。

 気を取り直して"オーヨー百沢"を再び。短めながら、ピアノ・ソロもしっかり入った。
 続く"アイ・ライク・梅さん"は梅津数時に捧げられた荘之のオリジナル。子供のころに歩はこの曲と、"ヘルニア・ブルーズ"を散々聞いて育ったとか。
 コミカルな歌詞だが、顔に笑みを浮かべつつも、まっとうに歩は歌った。

 あまりピアノのソロが長くない。ステージはさくさく進む。
 "レフト・アローン"から"サニー・サイド〜"へ。こういうジャズのスタンダードが歩の好みかな。若干、フェイクが混じる。
 "サニー・サイド〜"ではいきなりイントロで中断。キーが違ったらしい。異なるキーの話は、この後のMCでも話題になった。
 そのせいか、珍しくピアノの前にはぎっしり譜面が並んでた。

 1stセットはここでボーカルがいったん下がり、荘之のソロへ。オカリーナを幾本か使いわけ、軽やかに"セント・トーマス"を。
「肘打ちなんかをするもんだから、今まで何軒も演奏場所を首になったんですよ」
 苦笑しながら、いきなりクラスターから始まる"ブラックホール・ダンシング"。
 フリーな打ち鳴らしからテーマが現れ、すぐさま猛烈な即興へ雪崩れた。肘打ちだけでなく、かかと落としも炸裂。

 深夜の部ではよくオープニングを飾る、"アイ・クローズド・マイ・アイズ"をピアノソロで幕開けした。ころころと音が弾み、一気にくつろいだ面持ちへ。
 ボーカルが加わった"クルエルデイズ・オブ・ライフ"ではBメロのハイトーンをボーカルが歌った。
 
 文語調の歌詞も、荘之のペンか。畳み込む言葉が、高らかに響く。この曲は通常キーがF。全音下げたE♭で演奏され、ちょっとサウンドのイメージが甘い。鮮烈な曲調にセンチメンタルさが加味された。
 ピアノ・ソロではぐいぐいとフレーズを力押し。聴き応えあった。

 愉快に"ヘルニア・ブルーズ"を。フレーズの合間に"いててて"と荘之は言葉を挟む。さびでは親子デュオも。
 つづく"アルプ"でこれまで思い込んでた曲想ががらりかわった。
 
 もともとこの曲はロマンティックなイメージ。柔らかいメロディのスローだから。しかし「ヤギにけられた」とユーモラスなリフレインで、がらりコミカルに。
 もともとこういう歌詞つきかなあ。なんとも戸惑ってしまった。
 最後のベルを振るしぐさも、ヤギの首にさがった鐘を想像。これまでアフリカンな光景を頭に浮かべてたんだが。

 ボーカル入りでは"オール・オブ・ミー"でキメた。
 これまでスタンドに立てたマイクを歩は手に持ち、熱唱する。エンディングでは歌い上げ、いきいきとしめくくった。
 ピアノに座ったままの荘之はオリジナル曲を弾く。
 聞き覚えあるスピーディで力強い曲だが、タイトルがいまひとつ記憶に自信ない。
 クラスターから肘打ち、ぎしぎしいすをきしませ、鍵盤を叩きのめす。しまいにピアノのいすをふりあげ、鍵盤をぶん殴るそぶりまで。
 
 いったん終わると見せかけて、曲が"ヘルニア・ブルーズ"に戻る。苦笑しながら歩がステージに戻り、さっくりと曲を終わらせた。最後は尻を鍵盤に乗せる。
「こういう風に終わらせるものなんだよ」
 荘之がうそぶいた。

 ステージ中央へ、荘之が立つ。テープでアコギが流され、あわせて"村時雨"を吹いた。日本情緒あふれる曲だが、オリジナルかな?
 中盤で弦のオーケストラがぶわっと広がり、雄大に展開した。

 ここまでで40分強。短めなせいか「アカペラでなんかやってよ。"砂山"とか」と、荘之が歩を促す。それをかわして、"オール・オブ・ミー"の再演を選んだ。
 シンフォニックなイントロでスロー気味に。アレンジを変えたピアノに乗って、軽やかにボーカルをとった。

 がっぷり親子がフリーに組み合わず、至極オーソドックスなボーカル・スタイル。選曲や進行も父が行ったため、娘の印象がさほど前へ出なかったのが残念。
 なにか彼女も楽器を持つか、スキャットでぐいぐい切り込むか。
 遠慮なく明田川荘之に立ち向かったステージも見てみたい。もしくは明田川+三上寛のデュオに彼女が加わるとか。
 歌伴でもかまわずに独特のタッチで弾き倒すピアノを食うほど、ボーカルの存在感あるライブへの興味も起こったひとときだった。

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