LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2007/2/25   表参道 月光茶房

   〜【月光茶房の音会 (第一回)/如月の二人】〜
出演:小森+蜂谷
 (小森慶子:cl,b-cl,per、蜂谷真紀:vo,voice,per、吉田隆一:produce)

 喫茶店、月光茶房で初ライブ。カウンターのみの店で、もともとキャパは10人ほど。補助椅子やカウンターの中にまで席を準備し18人を招く、サロンみたいな雰囲気のひととき。
 冬の明るい日差しに恵まれた昼下がり。階段を下りて店内へ向かう。すでに観客でぎっしりだった。

 生音主体と予想したが、8chミキサーにスピーカー2本。小森慶子は足元にマルチ・エフェクターを準備し、蜂谷真紀はカオス・パッドも使うマイク2本仕込み。エレクトリックな要素を取り入れたセッティングだった。
 譜面台は吉田隆一が持ち込んだらしい。二本あったが、蜂谷は小森の譜面を覗き込むかっこう。一本は真っ赤な譜面台。ステージ・スペース壁の赤い色と、とてもマッチしていた。

 定刻になり、吉田の前説。おもむろにライブの幕が開く。
 バスクラを構えた小森がステージでリフを吹く。それと反対、入り口に立つ蜂谷は、パーカッションを鳴らしつつ、朗々と声をフリーに響かせた。
 マイクでかすかに拾っているのか、ふわりと残響が漂う。コンクリート打ちっぱなしな内装へ、音がしみこんだ。

 ひとしきり店内の両端で二人は音を交し合う。やがて蜂谷が、客席スペースを抜けてステージへ向かった。歌いながら。
 まずは小森作曲のリフを基本にしたインプロ。小森は足へ巻いたシェイカーをアクセントに、ヒールで床を打つ。
 互いの音が絡んだ。
 
 このライブは全てオリジナル曲を持ち寄った。2曲め以降は、小森は普通のクラリネットを持つ。
 2曲目は蜂谷のオリジナル。"アマゾンの奥地で滝に打たれる全裸の女性が、回転しているイメージ"と言った曲だったろうか。
 まず二人がンビーラを持つ。マイクに向かって捧げ持ち、前後左右に動かして響きを調整しながら奏でた。リバーブがうっすらかかる。

 しばしのパーカッション・デュオから、蜂谷のボイスへ。
 パーカッションのループを聴きながら、小森はパンデイロをときおり叩く。蜂谷が即興言語で展開した。
 小森はクラリネットに持ちかえる。足元のエフェクターを、細かく切り替えていたようす。ディレイやループ、リバーブを駆使して多重音を響かせた。
 クラリネットの低音やリフをループへ、さらにメロディをかぶせて分厚い響きを作る。ボイスはカオス・パッドで変化し、濃密な空間が聴き応えあった。

 蜂谷の色合いが比較的出た印象あり。ストーリー性ある世界観を拡大させる。小森はオブリやリフを基礎に置いた。アドリブでがんがんバトルや、ソロ回しは無い。
 互いに寄り添い、イメージを膨らませあう。おっとりと心地よい音景を産んだ。

 3曲目が蜂谷のオリジナル"三銃士"だったろうか。日本語も取り混ぜ、演劇要素も盛り込む。あちこち指差すボイスのしぐさへ、クラリネットは音や視線も含めて合わせる。
 かっしりと音像が展開した。蜂谷のボイスは時にコミカル、時にリリカルに響く。

 1stセット最後が小森のオリジナル。歌詞を元にメロディを載せたそう。今日が初演といったかも。
 イントロからロマンティックなメロディへ。声色をときに変化させ、蜂谷が体を大きく動かしながら歌う。大陸の広がり。クラリネットがシンプルなオブリでしっかりと支えた。

 後半セットは蜂谷のオリジナルから。"密林探検少女ピタ"だったかな。メモを取らなかったため、曲名はあやふや。
 骨太なクラリネットのリフへ、ボイスが絡んだ。中国語っぽい即興言語で歌ったのがここかも。

 そして静謐に広がる"臥遊"。小森のオリジナル。
 何度かライブで聴いたが、曲の元ストーリーは初めて知った。絵を鑑賞すると同時に、絵の世界へ入り、観覧するイメージがこめられているそう。

 蜂谷が静かに鈴を打ち鳴らす。背後からも鈴の音。振り返ると、吉田も同じタイプの鈴を鳴らしてた。席からは見えなかったが、月光茶房のマスターも鳴らしていたそう。
 ふうわりと、小森がテーマをクラリネットで。
 中盤のアドリブも穏やかな変奏。リバーブで薄く増幅された鈴の音が響く合間を、クラリネットが漂った。
 最後にふたたび、店内の前後から鈴の音で包み込まれた。圧巻だった。

 次が小森の書き下ろし曲かな。カオス・パッドやエフェクターで操作されたボイスやクラリネットが絡み合う。
 前半の一人多重とはまた違い、隙間を生かした音世界だった気がする。

 クライマックスが蜂谷のオリジナル曲。"荒星"がテーマだったろうか。彼女へ捧げられた俳句を元という。
 喉を大きく開けたボイスが、マイクで膨らむ。歌いながらときおり譜面を指差し、クラリネットへフレーズの移りを示す。
 薄暗がりのスポットライトが映える。

 最後に蜂谷が、マイクスタンドへ腕を絡ませた光景が鮮烈だった。まるで、窓から外の世界を覗き込むようなしぐさで。
 
 拍手に応え、アンコールへ。譜面を楽屋スペースに置いたままらしく、軽い打合せのあとで、即興にて幕となった。
 小森はパンデイロを持つ。蜂谷はアフリカっぽいフレーズを即興で繰り出す。いつしかくっきりしたメロディに収斂した。
 かがみこんだ小森が、クラリネットへ持ち替えて立ち上がる。アドリブが、ふっくらと広がった。今日のライブではあまり見せなかった、フレーズの大きな動きが心地よい。

 蜂谷がそのパンデイロを持って、叩きながら歌う。
 やがて小森はリフをそっと繰り返し、柔らかくコーダへ導いた。

 ゆったりと寛げるひととき。座り心地いい椅子に腰掛けて、音楽を楽しむ素敵なひとときだった。
 2ヶ月に一回のペースで、ここではライブを行うようだ。既に次のライブも決定済み。楽しみ。

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