LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2007/2/23  吾妻橋 アサヒ・アートスクエア

  〜『幽閉者』公開+サントラCD『大友良英/幽閉者』発売記念LIVE〜
出演:『大友良英/幽閉者』発売記念LIVE
 (大友良英:g,tt,perc、秋山徹次:g、飴屋法水:物音、ジム・オルーク:g,synth、
  Sachiko M:sinewaves、ロードリ−・デイヴィス:harp、
  ZAK:Live PA、生西康典×掛川康典:映像)

 足立正生が監督の映画『幽閉者』の公開並びにサントラのレコ発ライブ。会場はぎっしり埋まった。オープニングアクトで足立正生と大友良英のトークショー。30分ほど話した後、ライブが始まった。
  
 今回はステージ中央に数十人分の客席スペースを作り、6人のミュージシャンが囲む。ステージに向かって手前左手から、大友、デイヴィス、飴屋、Sachiko M、秋山、オルークの順。その両翼に客席が作られた。大半の客は各ミュージシャンの背中越しに演奏を眺めるかっこう。

 各ミュージシャンの上には正方形の全面から音が出る小型のスピーカーをセッティング、さらに両翼の客席スペース奥にも大型スピーカーが置かれた。
 なおステージ正面には大きなスクリーンが吊るされ、演奏に沿って『幽閉者』のアウトテイク(?)映像も映す趣向。

 全般的に静かなノイズが淡々と続く。70分間一本勝負の即興だった。
 まずオルークがアコギで"幽閉者テーマ"を奏でる。大友は弓でシンバルのふちをゆっくりとこすった。秋山がエレキで静かにドローンを鳴らし、デイヴィスもハープの弦を弓でこする。
 Sachiko Mがいつしかサイン・ウェイブを重ねた。飴屋は茶碗や箱の上に硬貨をいくつも落とす。
 映像はランダムに切り替わる。ざらざらの壁面みたいな映像に重なり、俳優が動く。ストーリー性は無く、環境ビデオのようだ。

 ミュージシャンはほぼスクリーンへ無関心。たまに大友がじっと見てたくらい。あえて映像との乖離をめざしたか。
 大友は前半でパーカッション中心。大太鼓をそっと叩いたり、シンバルを弓でこするノイズを多用した。
 オルークがギターを下ろし、アナログ・シンセへ手を伸ばす。ここまでが10分ほど。
 以降はどんどん抽象度が高まった。

 特に中心となるミュージシャンを立てず、混沌のまま進む。飴屋が降らす硬貨の音は、ZAKが増幅し、リバーブをたんまりまぶして客席後方から漂わせた。
 秋山は幾度かギターを変え、さまざまなツールで弦をこする。
 デイヴィスとSachiko Mはメリハリをつけ、あえて音を出さない部分も。Sachiko Mが機材を操作する際のクリック・ノイズがそっと響いた。

 中盤で画面の男が、牢獄(?)の扉を大きく開ける。そのとき、秋山のギター・ノイズがきれいにはまった。
 トークショーによれば足立監督も大友も、音楽と映像の不協和を狙ったという。しかし、この瞬間の親和度はきれいに切なく合致した。

 45分くらいたつと、映像は消える。暗がりにスポットライトのみがミュージシャンを薄暗く照らした。派手な動きは何も無い。ただただ、音が続いた。
 大友は場面によりギターを持ち、静かにフィードバックを響かす。後半はターンテーブルをメインに演奏か。対角線上に座って聴いてたため、細かな箇所はよく見えず。

 フィードバック・ノイズですらも轟かない。空白の奥にドローンが連なり、ときにリバーブをまぶした音が後ろから迫る。前方での動きが後方から追いかけ、酩酊感をあおった。
 Sachiko Mはときに音を止め、身じろぎもせず機材を見つめる。飴屋はりんごをかじる音、さらにミキサーで回転させるノイズをかぶせた。
 全員がノービート。しかしミキサーの音が最初は7拍子、攪拌に伴う加速で6拍子から5拍子へ変化するかのごとく聴いていた。

 途中で大友がギターに持ち替え、メロディの断片を弾いた気も。休み無き電子音のノイズが、ギターのメロディを貪欲に吸収した。
 オルークはテーブルへ小さな金属ボウルをいくつも並べ、それぞれのふちを軽くぶつけて高い響きを導いた。

 秋山はスライドやフレーズの断片をかすかに提示。オルークがハーモニカをくわえて、シンセで加工した。
 幾度か高まりが産まれる。しかし炸裂はしない。いつしか波が静まり、ノイズのたゆたいに戻る。デイヴィスはほとんど目立たず。ハープの弦へクリップをいくつもはさみ、弓で弦をこすった、
 次第に誰がどの音を出してるか、わからなくなってきた。大友がターンテーブルをいじるそぶり。電子音の繰り返しが前や背後から降りかかる。

 ついに、最後の高まりへ到達した。ピンスポットがますます暗くなり、手元をかすかに照らす。うねりがひとつになり、静かにフェイド・アウト。Sachiko Mはつまみへ手を添え続ける。音が消えたところで、指を離した。
 
 無音。観客は息を潜めて、次の展開を待つ。
 大友がくるりと辺りを見回し、立ち上がって終演を告げた。 
 大きな拍手の中、大友によるメンバー紹介。アンコールは無く、さっくりとライブは終わった。
 轟音と静寂の交錯を予想したが、張り詰めた小音ノイズだけで貫かれるストイックな演奏だった。

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