LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2007/1/10   西荻窪 アケタの店

出演:明田川荘之+藤川義明+翠川敬基
 (明田川荘之:p,オカリーナ、藤川義明:as,ss,fl,etc.、翠川敬基:vc)

 明田川荘之と翠川敬基のセッションはこれまで何度か聞いてきた。明田川と藤川では聴きそびれてたが、初めてじゃないはず。

 しかし高校の同級生という翠川と藤川。ナウ・ミュージック・アンサンブルや杉並Zクラブ、イースタシア・オーケストラ、FMTなどさまざまなユニットで競演してきた。
 その二人がコンビ体制で明田川と組んだら、フリーとメロディが交錯するアンサンブルが産まれるんじゃ、と楽しみに行った。
 「今日はトリオだったっけ・・・?」
 実際は、最後につぶやいた藤川の言葉が象徴してると思う。途中で喧嘩まで。すさまじく奔放で、爆発したステージだった。

 仕事が押して20時ぎりぎりに到着。始まってるかと覚悟したが、ごくのんびりと談笑してるとこ。20分位たって、おもむろにライブが始まった。
 まず明田川の良く演奏するスタンダード、"アイ・クローズド・マイ・アイズ"より。
 藤川が観客へ背を向け、準備運動のようにアルトを吹き鳴らした。ピアノも軽く音を乗せる。
 「えらく賑やかなチューニングだな〜」
 翠川がおもむろにステージへ上った。

 コード譜を見て「やったことあるかな?」と首を捻る翠川。「やったことあるって」明田川がそっと告げた。
 イントロはピアノ。しばらく譜面を見ていた翠川は、コード物の形を取ったフリーな演奏を。ベース・ラインをたどってるようで、どうもアンサンブルの響きが奇妙だ。わざとキーを変えたのかな。指弾きだったと思う。

 ばさり。譜面が台から落ち、演奏をとめて拾う翠川。無論、ピアノは弾き続ける。
 幾度乗せても、同じようにずり落ちる譜面へ、翠川は奇声をあげた。
 見かねて藤川が自分の譜面を手渡す 
 ピアノのアドリブが続く。目を閉じて二人の演奏へ聞き入る藤川。アルトをぶら下げたまま、カーブド・ソプラノを持ち上げた。さらにフルートも。
 フルートをアルトのベルに突っ込み、おもむろにソプラノでソロを取った。

 アドリブはまっすぐにアンサンブルを蹴散らす。メロディをくっきり、さらにフリーへシフト。アルトへ持ちかえると、フルートをつっこんだまま吹く。
 次にフルート。長尺で思い切りメロディを操った。

 翠川のソロが余りにフリーキーで、そのまま珍しくこの曲でどしゃめしゃのフリーへ。明田川はがんがん鍵盤を叩き、藤川はアルトとソプラノ二本吹きも。
 羽目をはずした翠川の頭を、ぽかーんと藤川がはたいたのもここか。
 コードの部分では気軽な表情だった翠川が、フリーなとたん真剣な面持ちで目を閉じ、耳をすませながら弾いてたのが興味深かった。

 1曲目だけで20分ほどの長尺。途中で別のスタンダードへ移った場面もあったはず。

<セットリスト>(不完全)
1・アイ・クローズド・マイ・アイズ
2.シチリア・マフィア・ブルース
3.バッハ・アケタ・現代
4.シチリアーノ
(休憩)
5.インバ〜?〜亀山ブルーズ(?)〜?〜アルプ
6.エミー〜ヘルニア・ブルーズ〜即興

 2曲目はオカリナのブルーズから。イントロでオカリナがアドリブを取り、翠川は奔放なフレーズでぽんぽん合いの手を入れる。
 絶えかねた藤川が「・・・まじめにやれよ」と、翠川へささやく。それをきっかけに、二人が喧嘩をはじめてしまう。翠川は完全に弾きやめ、すっくと立ち上がった。

 翠川が藤川の頬を平手打ち。かろうじてピアノが続いてたが、とうとう先細りに。音がやみそうな瞬間、
「おお、痛え」
 藤川がつぶやき、アルト・サックスを吹き始めた。緊迫した瞬間にどうなるかと、はらはら。
 リコーダーを吹き、さらに鼻へティッシュをつめる。もうひとつの鼻の穴へ横鼻笛をつっこみ、二本吹きを見せたのもここか。

 曲が終わったあと、藤川が翠川へ文句をつける。
「おれはな、52年生きてきて親にすら顔を殴られたこと無いんだからな」
「・・・58だろ、おれと同じなんだから」
 笑いながら冷静に翠川がつっこんだ。

 次もオカリナのソロから。
「"Fのブルーズ"ね」
「"Bのブルーズ"だってさ」
 明田川の説明に、藤川が混ぜ返して翠川へ告げる。
 苦笑する明田川。アドリブを始める。二人は聴きに入る。途中で翠川が「・・・すげえな」とつぶやいた。

 チェロは指弾きで淡々とベース・ラインをつむぐ。一気にソプラノ・サックスが前へ出た。明田川はすでにソロ・ピアノの体勢。さっきの喧嘩に怒ったかのごとく、がんがん弾きまくる。
 それぞれがてんでに疾走。この方向性だと音量的に、チェロがつらい。とうとう床へチェロを置き、手持ち無沙汰な風情。つと藤川の笛を持って、遊び吹き。すぐに横へ置いてしまう。
 コップを片手に二人をしばし眺めたあと、おもむろにチェロを手に取った。

 ソプラノのアドリブは休まずに続く。フラジオを連発し、空気を切り裂いた。
 ピアノと掛け合うでもなく、ストイックに自分の音楽をいつまでも提示した。
 なぜか"マイ・フェイバリット・シングス"の断片をちらりと吹いたのもここ。

 すでにステージは1時間ほど。ここで一度、休憩。

 後半セット前にステージで、明田川がミュージシャンに曲順を説明する。
「1曲目は"インバ"、続いて"アルプ"。時間あったら"エミー"ね」
「1曲目が"枯葉"、2曲目が"・・・"」
 と、混ぜ返す藤川。わかったわかった、と翠川は苦笑した。

 緊迫した雰囲気がちょっと残ったまま、ステージは幕をあけた。"インバ"では翠川が気乗り薄な表情で、淡々とベース・ラインを刻む。
 アドリブではアルコでふっくらとメロディをつむいだが、それ以外ではおとなしい表情だった。

 明田川はアドリブでこそ音数を抑えるが、まだソロ・ピアノな弾きかた。
 がんがん激しいテンションで演奏を引っ張る。
「・・・おい、何とかしてこいよ」
「どうにもできないよ」
 張り詰めたムードで弾きまくる明田川を見て、翠川と藤川がささやきあう。

 次に藤川がソロで切り込んだ。マイペースにアドリブをどんどん。ピアノ・ソロのあと、アルトやソプラノ、フルートを次々持ち替えて、果てしないソロへ向かった。
 テーマが解体され、一本気なフレーズがかっちりと構築。爽快だった。
 ときには鼻笛を吹きながら、ドイツ語風に吼える。これはフルートを吹きながら、アルトを吹きながらとバリエーションもステージのそこかしこで聴かせた。
 
 曲すらもフリーに展開。明田川がいたずらっぽく、違う曲へ。すかさずアルトが加わって、するりと転換した。
 さらに明田川のオリジナルへも。"亀山ブルーズ"だったかな。"山崎ブルーズ"かもしれない。どしゃめしゃな雰囲気が、激しくなった。
 もう一曲、次の曲に行ったところで。たまりかねた翠川が、"アルプ"のテーマを朗々と。
 それをきっかけに、やっと曲が移った。

 "アルプ"が終わったとき、すでに時間は22時半くらい。
「次は古沢良治郎の曲で"エミー"です」
 明田川の曲紹介に、「まだやるの?!」と悲鳴を上げる藤川。
「12時までやります」と明田川がにやり笑った。

 "エミー"も美しいメロディな曲。ピアノのソロから、藤川をつないで翠川へ。
 ここでのアドリブが、翠川の今夜のベストだった。弓を大きく動かし、胸を張ってスケール大きなフレーズをチェロが展開する。さほど尺は長くなかったのが惜しい。

 3人の好き放題はまだまだ続く。藤川は鼻笛とアルト、ソプラノの3本吹きの荒業も。

 予告なしに明田川は"ヘルニア・ブルーズ"へ。歌い始めたが、ソプラノのアドリブでかき消され、苦笑してピアノのみへ戻った。
 がんがんにフリーへ突き進む。混沌の中で、おもむろに譜面を取る翠川。"アルプ"のテーマを、知らん顔で奏でるさまに吹き出した。

 ピアノのクラスターが炸裂する。ついにアンサンブルが終わりに向かった。
 ところが、アルト・サックスは終わることを許さない。いつまでもアドリブを続ける。
 明田川と翠川のコーダ、そしてもう一度コーダ。やめぬ藤川に合わせ、幾度も終わりを促した。
 終わったのは23時ごろ。始まった時間が遅かったとはいえ、なんとも壮絶なステージ。もうちょい和やかな雰囲気での、ふくよかなアンサンブルを次回は期待したい。次回があるのか、わかんないが。

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