LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2007/1/7   入谷 なってるハウス

出演:渋さチビズ七草バージョン
 (立花秀輝:as、小森慶子:ss,as、不破大輔:b、倉持整:ds)

 ゲストの可能性が告知されたが、最終的には4人編成の渋さチビーズとなった。ドラムが倉持なのが新鮮なところ。ほぼ満席の客席。
 メンバー紹介のあと、いきなり不破が"行方知れズ"のリフを出す。フリーと曲が一体化したチビーズでは、珍しくくっきりとした幕開けに。

<セットリスト>
1.行方知れズ〜?〜行方知れズ
(休憩)
2.股旅
3.Dust Song
4.ナーダム
5.仙頭

 フロントの二人がゆったりとテーマを奏でる。おもむろに小森のアルト・ソロへ。思い切り口を閉めて、小森がメロディアスなアドリブを。
 フラジオを多用し、高音をきれいに響かせる。滑らかなフラジオが爽快に響いた。右足を軸に左足を揺らせ、体が踊る。

 ひとしきりアドリブを吹いたあと、立花のソロへ。負けじと立花も超高音を軋ませる。ぐいぐいと超音波並みにハイトーンを連発、空気を引き締めた。
 さらにふくらはぎでベルをミュートする荒業も、ちらりと披露。メガネを幾度もずりあげつつ、大きく体を揺らせたアドリブ。メロディはいつしかほとんど消え、しゃにむにサックスが悲鳴を上げた。

 小森はピアノの椅子へ腰掛け、リードをくわえる。立花のアドリブを聴きながら、軽く鍵盤へ指を乗せた。
 ベースはぐんぐんグルーヴへ浸かる。ドラムがシャープに続ける刻み。ハイハットが規則的にぱくぱくと動く。

 しばらく立花ソロが続き、不破がふっと視線を投げた。
 小森はピアノの上においたリガチャーへ手を伸ばし、くわえたリードを装着。しかし吹き始めず、立花を見つめる。がむしゃらな立花のアドリブが、かなり長尺で続いた。

 いつのまにかソプラノへ持ち替え、立花へカウンターでぶつける。
 ここでいったん、別の曲に。新曲かな。聞覚えあるメロディだが、曲名思い出せず。
 不破はふっと弦を押さえた。ハイハットを叩きかけた倉持も、きゅうっと指を止めた。
 二人は静かにフロント2管を見つめる。無伴奏で高音の応酬となった。

 しばしの2管即興。ふっと不破が弦へ指を乗せる。爪弾くように小さな音でアドリブを。倉持がハイハットの小叩きで加わる。
 パルスのようなベースのビートが、ひとつのパターンに収斂した。

 ぐっと指をスライドさせ、音を押し上げる。二つの弦をまとめてはじく。
 捧げるような姿勢でウッドベースの低音部をはじき、素早く起き上がって弦二本の押し上げ。このパターンをぐいぐいリピート。
 ドラムはライドとタムのリムを同時に小刻み。

 フロント二人は吹き止め、ドラムとベースのパターンを見つめる。小森がアルトに持ち替え、ステージ脇で吹く。
 ゆったりしたアンブッシアで、軽やかなメロディをつむいだ。テーマへ入らず、そのまま下がる。
 立花がステージでフリーキーに吹きまくった。

 ドラムのソロへ。小森は腕を軽く組み、片足をステージに乗せる。
 その姿勢で吹き始めた。アドリブが展開するが、なかなか体は舞台ににあがらない。
 展開への盛り上がりそのものをステージに乗せる身体でも表現してるかのよう。
 ついに舞台へ全身が上る。今度はきつく唇を締め、ハードに吹きまくった。

 対角の立花へ、吹きながら迫る。お返しに立花も吹きながら襲い掛かり、あわてて小森が逆へ逃げた。
 そして二人は舞台へスピーディに"行方知れズ"の後半テーマをフェイクを混ぜつつ提示。
 この曲に限らないが、とにかく倉持のシャープなフィルが小気味良い。愚直にビートへ向かい合い、軽やかにおかずであおる。
 最終部分はテーマとフリーをブロックごとに引き分ける構成。
 アンサンブルがかっちりハマって、がっちり幕を下ろした。約1時間、ぶっ続け。

「フリーにやろう」
 後半セットはと、不破の提案から。まず不破がそっとベースを弾く。ランダムなハイハット・ワークでドラムが追いかけた。
 ソプラノをもった小森が明確なフレーズをアドリブから滑り込ます。リズム隊のテンポが速まり、テーマへ雪崩れた。
 サックス2管は互いにオクターブを変え、旋律を崩しあいって多重構造を産む。

 アドリブは立花が大活躍。メロディアスなフレーズを激しいボディアクションとともに連発した。
 フリーキーさを織りこみつつ、力のこもった即興を長尺で続ける。
 小森が脇で、小さくピアノを叩いて音をくわえた。
 ソロが交代すると今度は彼女がフリーキー中心の固いアドリブへ。

 ブレイクすると不破のベース・ソロに。
 柔らかく弦をはじき、指板を手が駆け抜ける。高速フレーズがばら撒かれた。
 ホーン隊のテーマから着地して、大きな拍手が飛んだ。

「"Dust Song"をやろう。大丈夫だよね?」
 不破がメンバーへ尋ねる。倉持がおぼつかなげな様子をわずか見せるが、テーマが始まるとがっしりアンサンブルが成立した。
 新曲は曲名とメロディが一致しなかったが、この郷愁をほんのり漂わすのが"Dust Song"だったのか。

 立花のアドリブがいったん、何かのメロディを引用したらしい。
「そうきましたか」
 弾きやめて、不破が大笑いした。
 完全なブレイクから、ベースのソロへ。めちゃくちゃ速いベース・ソロが、ひたすら続く。あっというまにテンションを取り戻した。
 ホーンのソロ回しが幾度か続き、テーマ。ここでも二人が自由にフレーズを崩す響きが心地よかった。

 そして、"ナーダム"。圧巻だった。
 ベースのフリーからゆったり始まり、小森のサックスがアドリブからテーマを導く。
 倉持のドラムが一気に押し、威勢よく駆け抜けた。

 管のアドリブを経て、とても長いドラム・ソロが始まる。
 あっという間にテンポが落ちて、倉持は独自のテンポで叩いた。最初は大きく激しくタム回し。やがてビートが消え、シンバルを丁寧にスティックが触る。
 最初はあわせてた不破も、ベースを抱えてドラムを見つめた。
 一粒、また一粒。倉持のあごから汗が滴る。ドラムセットの足元に、汗染みがいくつもで着ていた。

 ストイックにドラムを叩くスローなソロ。不破がベースを持ち直す。
 弦をはじいた瞬間、小森も同時にメロディ。バッチリはまって、不破が笑みを浮かべた。
 ぐっと遅いテンポの"ナーダム"。テーマのキーを変え、短調に。ステージへ上った小森は、"サティスファクション"をマイナーでコミカルに吹いた。
 倉持がバスドラを、ハイハットを、ライドシンバルを、セットを片端から引き寄せた。
 立花も加わり、"ナーダム"へ戻る。
 メロディが一回りする頃には、ドラムとベースのテンポが、すっかり速く戻ってた。

 倉持がフロア・タムを連打。旋律を互いにサックスが変奏し合い、ドラムとベースがグルーヴをたんまり。
 4人のアンサンブルががっちり成立した。
 聴いててアドレナリンがどばどば出てくる。浮遊感に包まれる。べらぼうに気持ちいい。
 幾度もこの曲を聴いたが、とりわけ素晴らしかった。

 最後はぐっとテンポを落として。コーダで小森は客席に軽く背を向け、左肩を落としてオープンで音をか細く響かせた。
 姿そのものが、絵になっていた。
 終わるなり、小森はピアノに腰を下ろして顔をうつむける。感極まったかのように。

 不破のメンバー紹介。"仙頭"に雪崩れる。2管がぐいぐい疾走した。
 後半セットは80分くらいやっていた。

 4人編成チビーズだが、スティックだけでしゃにむに突っ走る倉持のビートがアンサンブルをシンプルに引き締めた。
 さらに全員のアドリブが今日はたっぷり。長尺なだけでなく、無伴奏やアンサンブルのメリハリをつけることで、各人のソロを引き立てる。とびきりの渋さチビーズを聴けた。

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