LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2007/1/3   大泉学園  in-F

出演:吉見+鬼怒
 (吉見征樹:tabla,per,g,etc.、鬼怒無月:g)

 in-Fの2007年口開けライブ。満員の盛況だった。
 吉見はこの日が誕生日だそう。開口一番、鬼怒から誕生日を祝われ、にっこり。
「思ったよりいいやつだったんやなー」
 
 仕切りは吉見みたい。とはいえほとんど即興、と宣言。最終セッション以外は展開も鬼怒にゆずり、サウンドの雰囲気をつかんで演奏へ加わった。

<セットリスト>(不完全)
1.即興#1
2.即興#2
3. ? 
4.即興#3
(休憩)
5.72.1
6.即興#4
7.即興#5
8.即興#6
(アンコール)
9.エレナ

 (1)はまず鬼怒がアコギで展開。速く穏やかなメロディがあっという間に広がった。吉見はじっと見つめ、静かに横へつるした鈴を震わす。
 やがて、タブラを静かに鳴らした。
 鬼怒が奔放に即興を膨らませ、吉見がリズムを強靭に響かすイメージ。ソロ回しや攻守交替は無い。ギターとタブラはひとつのアンサンブルとして進行した。

 座ってる位置の関係で鬼怒の指は良く見えなかったが、シャープにくっきりとピックを使う。
 吉見は通常のタブラ奏法、左手のベンドが控えめに見えた。右手は鋭く打面を泳ぎ、時に両手で大きいほうを連打する。4拍子が基調か。鬼怒の果てしないフレーズに伴い、びんびん響いた。
 この曲に限らず特にアイコンタクトを交わず、きれいに着地する息の合い方がさすが。

 (2)は鬼怒がエレキへ持ちかえる。この日はアコギを多用したため、結果的に貴重なひとときとなった。ブルージーなフレーズを重たく弾き、みるみる旋律が速まる。
 ワウをまず使い、ディレイかサンプリングでパターンを多層化させる。ひとつで無く、複数のパターンを使って。
 鬼怒のライブはずいぶん久しぶりに聴くため、アプローチが新鮮だった。以前はリフ程度で、ここまで多層なループを使わなかったような。
 吉見は特にエレキに変わったことでアプローチは変えない。飄々とタブラを操った。

 冒頭に"Happy birthday"をタブラでやったのは、確かここ。鬼怒からからかわれたせいだっけ?
「居心地悪い誕生日やなー」
 と、ぼやいていた。

 (3)から吉見の多彩さが前面に出た演奏となった。まず横に置いたアコギを取り出す。吉見のギター演奏は初めて見た。
 ギルドの高いアコギらしく、鬼怒が感嘆する。吉見が大げさに説明。
「(鬼怒の)ギター10本分くらいの値段かも」
「それはいいすぎでしょ。自分のも高いから」
「・・・2本くらい」

 無造作に鬼怒へ演奏を促す。アコギへ持ち替え、めまぐるしいメロディの曲を弾き出した。どうやら、鬼怒のオリジナル曲らしい。タイトルは不明。
 吉見はアコギのかき鳴らしで加わる。コード二つを延々と繰り返すパターン。曲そのものは鮮烈で面白かった。

 アコギのボディをタブラ風に叩かないかな、と期待したが、至極まっとうなストローク。ソロやアドリブもなく、ただコード弾きのみ。
 ぼろが出ないうちにしまおう、と、あっさりギターを横へ置いてしまった。

 (4)では吉見が小さなタンバリン風の楽器のみ。すさまじかった。
 叩く力や箇所、左手で音程を操作しているのか。叩き方は同一ながら音量のみならず音程までぐいぐい変わる。
 低音成分が豊富で、マイクを通した音がスピーカーからノイズになるほど太く響いた。
 鬼怒はアコギで。たしかギターの即興が4拍子だけでなく、3拍子や6拍子へ微妙に変わった。吉見は涼しい顔でごく滑らかに拍子へ対応。同一テンポでパターンを自在に変えた。

 後半セット。(5)は再び吉見がアコギを持った。オリジナル"72.1"を演奏。
 鬼怒が「吉見は以前ギタリスト。ギター一本担いで、NYへ殴りこんだ」と紹介。初めて知った。
「話せば長いんや」と苦笑する吉見。今夜はMCがそこそこ長めにいくつか織り込まれたが、この説明は特に無し。思いつくまま雑談風の喋りで終わった。曲名のいわれも「話せば長いんや」で終わり。

 吉見のアコギが、コード弾き中心で弾くパターン。譜面無しで弾いた様子の鬼怒が、あっというまに独自の世界へ引きずりこむテクニックに舌を巻いた。
 まず吉見のイントロへ耳を傾ける。数度聴いただけでリフをコピーし音階を変えてあわせる。見る見るメロディがフェイクされ、アドリブへ突入した。

 (6)はタブラとアコギの即興。キーはD、と決めてタブラを吉見が交換する。硬質なビートで広がる。ここでもほとんど、ベンドをしなかった印象あり。細かな右指でのバラまきを軸に、性急にリズムをあおった。
 鬼怒はどの曲でも刺激的なインプロを効かせる。左手のみのタッピングでアコギを鈍く鳴らせたのはここだったか。低音はピック、高音を指弾きで同時進行させ、くっきりとメリハリついたギターを弾いた。

 もういちどエレキギターへもちえたのが(7)。
「キーはDのままでいいかな」
 吉見が確認、ゆったりしたロックなフレーズを鬼怒が弾きはじめる。しばらく見ていた吉見は、傍らからしわくちゃなビニール袋を取り出した。

 かさりこそり。静かに鳴らす。ひとときのアクセントでなく、かなり長めにビニール袋をつかった。
 続いてが、おそらく民族楽器。筒状のボディの中央から一本の糸、撥で震わせる。弦楽器でなく、パーカッション的な弾き方。若干の音程変化はあり。
 鬼怒は足元で音色を切り替えつつ、次第にテンポが速くなる。吉見のもつ撥のはじきが素早くなった。

 演奏はかっちりして興味深いが、キーがどれでも関係なさそうな楽器をあえて使う、吉見のアプローチが面白かった。
 ちなみに終盤ではタブラへ持ち替え。キー確認の必然性を見せた。今度はベンドを多めと思う。

 最後の(8)は吉見のイントロから。アカペラで口タブラをはじめ、手が次第に加わる。アコギの鬼怒は様子を伺いながら、カウンターでフレーズをぶつける。
 互いにスピードが上がり、本調子で音楽が転がり始めた。ギターのフレーズは繊細かつスピーディで、とにかく心地よい。タブラはどんな進行であっても、かっちり支えた。
 鋭いフレーズの応酬で、吉見は額に汗を滲ませた。
 
 最後の拍手は大きく、そのままアンコールに。
「アンコールしたことを後悔させましょうかね」
 吉見が笑いながら、アコギへ手を伸ばした。彼のオリジナル、"エレナ"を。
 これは譜面が手元にあったようす。吉見が曲想を冒頭に語った。
「赤道・・・カリブじゃないけど、そのへん。一人のとにかく美人とであった男、いや、おれは出会ってはいないけれど、とにかく出会えたらいいなあというイメージを基に作った曲」
 そんなニュアンスを、かなり長々と話した。最初は真剣に耳を傾けてた鬼怒だが、奔放な吉見の話に困惑し苦笑し、最後は呆れてるように見えた。

 カポをはめたアコギを吉見がかき鳴らし、メロディやアドリブを鬼怒が奏でる。吉見のアドリブは無かったが、今度は頻繁にコードを変えた。
 次々にコードを変えては鬼怒を見て、にんまりと笑顔を投げる。もしかしたら、即興でぶつけていたのかも。

 それぞれ約1時間のセッション。激しいフリーな応酬は無い。汗まみれになっての派手なバトルとは方向性が違った。
 しかしそれぞれの演奏がタイト。テンポやフレーズを聴いて寛ぎつつも、スリリングさを常に意識したライブだった。
 ギターとタブラのみのシンプルなアンサンブルゆえの、快調で創造的な音楽をたっぷり味わえた。吉見のギター演奏が聴けたのも、思わぬ僥倖。

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