LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/12/31  西荻窪 アケタの店

出演:年末恒例「アケタの店」オールナイトJAM
 (座長:翠川敬基:vc、
  チコ本田:vo、宮野裕司:as、高橋知己:ts、後藤篤:tb、藤川義明:as、
  清水くるみ:p、小太刀のばら:p、秋山一将:g、山崎弘一:b、
  本田珠也:ds、津村和彦:g、野崎正紀:ds、原田依幸:p、太田惠資;vln)

 副題は「今よい藤川、翠川が率いたイースタシア・オケと杉並Zクラブの良夢と悪夢、よみがえるか?」。第一部の座長は翠川がつとめる。深夜ジャムは初出演らしい。意外。
 アケタの店恒例、深夜セッション。何度か聴いたが、なじみのミュージシャンが入れ替わり立ち代り、肩の力を抜いたジャムをやるひとときって印象ある。
 そこへ音楽の追求に厳しい翠川が、どういう音像を持ち込むかがすごく興味あった。

 当日まで年越しジャムがどんな様子かご存じない様子。当日にも「必ず喧嘩ある」と説明され困惑してたみたい。とはいえ朝から飲んでらしたとかで、満面の笑顔でライブが始まった。
 さて、まず簡単なセットリストから。記憶便りなのでミュージシャンの参加曲は一部違いや漏れあるかも。
 
<セットリスト>(不完全)
(原田依幸:p)
1.ピアノ・ソロ
(翠川敬基:vc、高橋知己:ts、小太刀のばら:p、秋山一将:g、山崎弘一:b、津村和彦:g、野崎正紀:ds)
2.ヴァレンシア
3.ワルツ・ステップ
4.ガンボ・スープ
(チコ本田:vo、翠川敬基:vc、宮野裕司:as、高橋知己:ts、小太刀のばら:p、秋山一将:g、山崎弘一:b、野崎正紀:ds)
5.バット・ナット・フォー・ミー
6.レット・イット・ビー・ミー
7.マーシー・マーシー・マーシー
(休憩)
(チコ本田:vo、高橋知己:ts、清水くるみ:p、秋山一将:g、山崎弘一:b、本田珠也:ds)8.?
9.ジョージア・オン・マイ・マインド
(太田惠資;vln、清水くるみ:p、宮野裕司:as、山崎弘一:b、本田珠也:ds)
10.即興〜 ?
(宮野裕司:as、高橋知己:ts、後藤篤:tb、藤川義明:as、小太刀のばら:p、山崎弘一:b、野崎正紀:ds)
11.?

「まず10分だけ弾かせて」
 翠川がきっちりしきろうとステージへ向かったとたん、下駄姿の原田依幸が登場。そのままピアノへ座り、豪腕で鳴らし始めた。

(原田依幸:p)
1.ピアノ・ソロ(原田依幸:p)

 怒涛のフリー。CDは持ってるが、ライブ初体験。CDで感じたストイックさのみならず、ライブだと生命力もびんびんくる。
 リズムはフリー、乱打。猛烈なクラスターが炸裂した。合間にきれいな和音も挿入。アフリカンな勢いとフリーの透明さが混在し、いきなり聴き応えあった。
 
 決め事は何も無さそう。顔をしかめ、下駄でペダルを踏みつつ高速フレーズがばら撒かれ続ける。終盤でコードが鮮烈に飛び交い、昇華するシーンが素晴らしかった。
 力任せで終わらず、緩急を効かせた構成でメリハリつける。しかし弾いてる姿勢は闇雲にのめりこみ。
 宣言どおり10分ほど弾いて、すっと立ち上がった。そのまま姿を消す。無造作なジャムっぷりがいかにもでいいなあ。

 あまりの豪打さに、ピアノ線を1本ぶち切ったらしい。休憩時間となり、途中で明田川が調律のみならず、張替えもしていた。

(翠川敬基:vc、高橋知己:ts、小太刀のばら:p、秋山一将:g、山崎弘一:b、津村和彦:g、野崎正紀:ds)
2.ヴァレンシア
3.ワルツ・ステップ
4.ガンボ・スープ
 挨拶のあとに曲の背景として富樫雅彦の名を紹介。そんな翠川の丁寧なMCで"ヴァレンシア"から幕開け。やはりきっちり譜面を準備をする律儀な姿勢が嬉しい。
 譜面をどっさり片手に、メンバーへその場で配った。
 曲構成を説明するが。緻密なニュアンスを伝える一方で、「フリーだから。自由だから」と、強調する言葉が聴こえて、興味深かった。
 演奏はなかったが、"ドラム・モーション"も用意したみたい。

 初見で津村和彦が"ヴァレンシア"のテーマを弾く。やはりぎこちなさが残るのは否めない。軋むように雪崩れた。
 テーマがひとしきり進み、翠川が弦を一かき。ふわっとオブリを重ねた。今夜は店のPAを通したかな?きれいな響きだった。チェロが入ったとたん、音にふくよかさを増す。

 ソロ回しの定番は無く、津村がアドリブを弾き続けた。
 アドリブでは粒立ちの良いフレーズが、脈々と溢れて爽快。山崎のベースも音は小さいが着実に低音を震わす。
 野崎は最初こそ戸惑い顔だが、ブラシでそっとリズムを重ねた。ノービートな展開から、次第にリズムがくっきりと。途中でかなりアップテンポに押したと思う。黒田京子トリオで慣れた耳には、違和感が楽しい。

 翠川は耳を閉じて超高音やフラジオ。テーマへ戻ると津村とアイ・コンタクトする。体をゆすって、ルバートたっぷりのテーマのタイミングを合わせた。
 いくぶんくつろぎを増したテーマの裏で、翠川は豊かにチェロを響かす。

 続いて"ワルツ・ステップ"。テンポを小太刀のばらへ提示する翠川。
 イン・テンポのきっちりしたアレンジだが、やはり音像はリラックス。途中で翠川は楽器を下ろしてしまい、コップ片手に観客状態で聴いていた。
 秋山一将が唐突にエレキギターを持って現れる。津村とアンプを分け合った。
 津村のアドリブはモダン・ジャズに、秋山だとブルーズ・ロック風に印象が変わるのが面白かった。
 秋山はほとんど人差し指と中指二本だけを使う。力をこめたフレーズを展開した。

 途中で一瞬、高橋知己がソロを取った。翠川が唐突に合図し、ソロを回す。一渡り吹いて客席にもどった。
 ある瞬間では客席に座ったまま吹き、前席で聞いてたぼくはサラウンド状態で心地よかった。

 最後は翠川の曲で"ガンボ・スープ"。「簡単なのがいいよな」と"オホン"を渡しかけるが、「難しいか」と自らボツに。
 小太刀と山崎にリフのみ提示し、翠川は客席後方へ。
 "ガンボ・スープ"も途中で3拍子(?)が入る凝った展開。3拍子をかまわずに弾くミュージシャンもいたようで、冒頭のテーマは正直どしゃどしゃだった。
「これでいいの?」と弾き終わったとたん、津村が尋ねるほど。

 アドリブのとたん、サウンドが持ち直す。
 津村のギターが早弾きで果てしなく駆け抜ける。
 テーマとはまったく違った世界でグルーヴィに盛り上がった。リハをちょっとやったら別の楽しさが生まれたかも。アドリブが長めで、3曲ながら盛りだくさんだった。

(チコ本田:vo、翠川敬基:vc、宮野裕司:as、高橋知己:ts、小太刀のばら:p、津村和彦:g、秋山一将:g、山崎弘一:b、野崎正紀:ds)
5.バット・ナット・フォー・ミー
6.レット・イット・ビー・ミー
7.マーシー・マーシー・マーシー
 チコ本田が登場。「チェロ弾いちゃおっかな〜」と、翠川が楽器へ戻った。二人は初競演なようすだった。
 まずスタンダードから。チコ本田は初めて聴く。かくしゃくとした面持ちで、最初はマイク・スタンドを杖代わりにしたが、ステージ進むにつれ活き活きだった。
 腕を振り下ろし、バンドへブレイクを指示する。
 ちなみに翠川は歌を尊重するそぶりで、譜面をにらみ数音を挿入する程度。さほどソロやオブリをいれず。もっぱら津村がオブリは絶妙のタイミングで弾いた。
 
 続いて"レット・イット・ビー・ミー"。エヴァリー・ブラザーズのバージョンで親しんだため、ブルーズ・ロックな展開に戸惑う。秋山がかっちりとソロをとったか。
 ベースやピアノのソロもこのあたりから、滑らかに挿入された気がする。
 キャノンボールの"マーシー・マーシー・マーシー"。歌詞はバッキンガムスのものと違うようだ。サビの譜割をダレさせ、延々と引っ張るパターンで濃厚に迫る。
 ここでいったん休憩。
 
(チコ本田:vo、高橋知己:ts、清水くるみ:p、秋山一将:g、山崎弘一:b、本田珠也:ds)8.?
9.ジョージア・オン・マイ・マインド
 次の仕事がある津村が消え、「もう弾かないもんね〜」と、翠川も楽器をしまってしまう。
「チコさんの歌が聞きたいな〜」
 秋山のリクエストでチコが再びステージへ戻った。一曲目はブルーズ。たしか"ジョイ・ジョイ♪"と歌詞を連呼する曲。
 翠川は「一曲目にFのブルーズ」って指示だけ残したようだ。肝心の本人が出ないため、
「なら、キーは何でもいいじゃない」
 チコが苦笑。

 ドラムは本田珠也に交代した。いきなりハードに連打。クラッシュを打っては、体で抱きついてミュートするパワフルなしぐさ。
 さらに"ジョージア・オン・マイ・マインド"も。くわえタバコが煙そうに本田が叩く。バスドラの踏みっぷりが勇ましい。8バーズ・チェンジでホーン隊とアドリブを交換しつつ、店内にドラムを轟かせたのはここか。

(太田惠資;vln、清水くるみ:p、宮野裕司:as、山崎弘一:b、本田珠也:ds)
10.即興〜 ?

 「なにやろう・・・即興でもいいでしょうか」
 翠川が座長なためか、太田惠資がいつのまにか店に現れ驚いた。翠川に押されてステージへあがる。
 アコースティック・バイオリンへマイクをあて、いきなり弾き出した。ホーメイも飛び出す。ぶちぶちと弓の毛がほつれて垂れ下がる、かきむしりっぷり。クラシカルな響きから、激しさを増した。

 ひとしきりアドリブを弾いて、宮野へ受け継いだ。目を閉じてビートへ耳を澄ます。
 がっしがしに押す本田をちらりと見て、隙を縫ってアドリブへ突き進む太田。さすがの存在感だった。
「いいぞ〜!」
 と、翠川の声が後方から聴こえる。

 清水の鋭いピアノ・ソロを挟み、メロディをバイオリンが一節。宮野と組んでテーマを提示する。聞き覚えある曲に変わった。タイトルを思い出せず。最後はジャムセッションっぽく、軽やかに着地。
 15分ほどの演奏か。もっと太田の演奏を期待したが、残念ながらここのみ。

(宮野裕司:as、高橋知己:ts、後藤篤:tb、藤川義明:as、小太刀のばら:p、山崎弘一:b、野崎正紀:ds)
11.?
 第二部までまだちょっと時間あり。「もう一曲やってよ」と明田川が希望し、誰が出るか相談が始まる。
 野崎がドラムへ戻り、後藤篤がトロンボーンを持ってステージへ。スライドバーへスプレーをかけながら、宮野らと打ち合わせて始まった。これも聞覚えあるが、曲名浮かばない。

 しっかりとソロ回し。高橋も太いテナーを響かせたと思う。
 途中で藤川義明も姿を見せ、翠川の紹介でステージへ。タイトでまっすぐなアドリブを真正面からぶつけた。颯爽とソロを取り、アルトを持ってステージを降りる。
 アケタの店ジャムらしい、さまざまなミュージシャンによる、長尺で個々のアドリブがたっぷり聴けたジャズだった。

 ベースが一人だけとシンプルな構成がゆえ、共通したビートが聴けた。本田の音がでっかく、ピアノがほとんど目立たなかったのが残念。
 翠川の座長曲は少なめが惜しい。もっと弾いて欲しかったな。
 とはいえ演奏せずとも客席からあおり、さらにエンディングでは合図も送る。さりげなく音楽を仕切っていた。

 そして第二部に向け、明田川がピアノの調律を始める。翠川はチェロのケースを抱え、挨拶すると素早く店を去った。
 いつの間にか大勢の観客が、アケタの店を埋めた。

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