LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2006/12/29 大泉学園 in-F
出演:黒田京子トリオ
(黒田京子:p,acc,vo、翠川敬基:vc、太田惠資:vln,vo)
黒田京子トリオの月例ライブ。リーダーを立てぬフラットな立場のユニットだったが、数回前のライブで正式に黒田京子がバンマスになったらしい。
年末なためか、観客ぎっしりの大盛況。だが翠川敬基が楽屋から20時を過ぎても戻らず、黒田が迎えに。
ところがその直後に御大の登場。即座に太田惠資が黒田の携帯へ電話。今度は黒田が出ない・・・と、開演前に一騒動。
それを踏まえた太田が、にやりと笑いながら一曲目を紹介した。
「チャールズ・アイヴスをモチーフにした、"非調和性"という黒田さんの曲です。われわれのバンドにふさわしいタイトルですな」
<セットリスト>(不完全)
1.非調和性
2.Spirits of the
lake
3.白い薔薇
(休憩)
4.ギョウザの夢(?)
5.Gumbo
soup
6.Seul-B
7.ホルトノキ
8.Check
I
(アンコール)
9.Spleen
ライブに備えリハを実施。太田は遅刻したという。
「前半は黒田さんのコーナー。後半は翠川さんのコーナー。ぼくのは、ありません・・・演奏でがんばります」
苦笑した太田が、バイオリンをそっと構える。翠川は独特の小音ボウイング。黒田はアコーディオンを下げる。なぜか壁を向き、背を見せた。寂しげなメロディ強調のためか。
細い旋律が次第に力強く、ラインが重なる。3者のメロディが行き交い、絡まった。
バイオリンとチェロの対話が高まったころあいで、黒田はアコーディオンをそっと下ろす。鍵盤へ柔らかく指を置いた。
今日も黒田のタッチはふくよかに響く。腕をときおり優雅に舞わせて。
チェロは生音、バイオリンもごくわずかマイクで拾うのみ。アコースティックなアンサンブルがきれいにまとまった。
即興はいつしかひとつの方向性へ収斂する。最初はあえて拡散を狙ったか。けれどもエンディングではまるで全てが譜面のように、美しく着地した。
"Spirits of the lake"は黒田の作。ロマンティックな名曲だった。前から演奏してるのかな?個人的には初めて聴くかも。二弦がつむぐ和音の響きが沁みた。
ピアノの和音が優しくアンサンブルを支える。淡々とリズムをキープし、弦の合間を縫って、軽やかにアドリブが転がった。
翠川はフラジオを取り混ぜながらも、アドリブで目立つ志向をめざさない。ぽおんと二人に主導権を任す。とはいえ、かっちりと個性あるチェロは常に存在感を示した。
この曲では黒田がバッキング的な役割を担ったため、バイオリンのアドリブが光る。
クロスフェイドのように入れ替わった、ピアノのソロも良かった。
黒田の曲"白い薔薇"はナチに抵抗した学生へ捧げられたもの。黒田京子トリオでは幾度も演奏されている。黒田によるドイツ語の歌詞も今夜は披露。ピアノを弾きながら、歌われた。
ところが太田が曲の背景をあえてずらしたか、コミカルに持って行く。中盤から語りに入った。
イヌ好きな妻を持った男の悲哀を切々とうなりだし、翠川は苦笑。黒田は弾きやめ、つっぷして肩を震わせていた。
「・・・あんまり言うのやめましょう。しっぺ返しがくる」
太田は笑いながら演奏へ戻った。
"白い薔薇"は、ダイナミックな構成の旋律が聴きもの。弦はユニゾンから上下に別れ、ピアノが力強く押す。
最後はがっしりと決まった。ほんとうはもう一曲準備してたようだが、ここで休憩。約45分の演奏だった。
短い休憩を挟み、後半セットは黒田の前触れから。
「まずは中国。そしてアフリカ。アメリカへ行きます」
いきなり高音部でちゃらららっ、と中華なフレーズを軽やかに。
すかさずバイオリンが中国風味なメロディを奏でる。何でも出来るな、この人は。
チェロは上下に動き、ときおりメロディを注ぐ。いったんソロへいきかけても、すぐに引いてしまうのが残念。もっとソロも聴きたい。
テーマはまず黒田。そしてサビでは太田も加わる。調味料の言葉がぽんぽん飛び出す、コミカルな歌詞だった。
2コーラス目では太田が構成をつかんだか、思いっきり強くがなって笑いを呼んだ。
あっさり終わって、すぐ次の曲に。タイトル紹介は無し。
林光の曲だという。譜面でちらりと「ギョウザ」と見えたので、検索すると「ギョウザの夢」がヒットした。タイトルは言わなかったが、これかな?
なお05年11月26日に静岡ハリストス正教会内で行われたイベントでも、この曲は歌われたと見つけた。
ちなみに、そのときのピアノは黒田京子とあった。
"アフリカ"と紹介されたのは翠川の曲"ガンボ・スープ"。太田がMCしてるときに、翠川はチェロのボディをごしごしこすって音を出す。なし崩しに演奏へ雪崩れた。
イントロは太田が、ホーメイでうなる。黒田は小さなタンバリンを振ってリズムをとった。
「オクラ〜」とホーメイで響かす太田を、「ナット〜」と翠川が混ぜ返した。
黒田がピアノへ向かい、アンサンブルへ。力強い演奏だった。
中間部でバイオリンがくっきりとしたリフを弾く。イエスの"ロンリー・ハート"かな。観客のかすかな笑い声が聴こえたか、太田もにやりと笑う。
そのまま幾度も、そのリフを繰り返していた。曲に見事にはまってたな。
"Seul-B"はチェロの荘厳な、無伴奏独奏がイントロ。
下から漏れるカラオケが聴こえるほどの小さな音量で、翠川はしみじみとチェロを奏でた。
いったんブレイク。指弾きでブルーズへ。すぐに太田がどっぷり黒いフレーズでブルーズに乗る。ファンキーに盛り上がる。
黒田は聴きながら首を捻り、アプローチを考えてる面持ち。やがてブルーズに加わった。とたん、音に深みが出てジャズのブルーズになったのが興味深い。
極太のグルーヴで迫る。この3人がめったに選ばぬサウンドだが、こういうの大好き。わくわくしながら聴いていた。
ふっと音が切れる。
翠川が静かに重々しくソロでテーマを奏でた。間を置かず、全てが決まっていたように。いつもながら、場面展開のメリハリがすさまじい。これが全部、即興なんだから。
アドリブはふたたびジャジーな4ビートに展開した。
ソロ回しは無く、フレーズ毎に役割が切り替わる。太田が押すと翠川が弾き、するりと黒田のアドリブへ展開。
このトリオならではの瞬発力と構成力が豊潤に展開した。
エンディングは重厚なテーマの雰囲気へ戻る。最後は一音、チェロがそっと弦をはじいた。
続く"ホルトノキ"は黒田の曲。1stセットで演奏しそびれたため挿入された。
「難しいんだよー、これ。弾きたくないなあ。いじわるだなあ」
「それ以上に意地悪してるかも、じゃないですか」
黒田へぼやいてみせる翠川へ、太田が茶々を入れる。
アッチェレランドも早めに、と黒田の指示。スピーディな展開だった。昨夜の小森/黒田デュオでも聴いたため、編成違いによる異なるアレンジが興味深い。今夜は弦が二声ゆえのふくよかな響きが心地よかった。
即興が交わされたあと、テーマへ戻る。途中のアッチェ部分でバイオリンのピチカートが落ち、ピアノがインテンポで支える。
おもむろに弦が加わり、豪快にエンディングへ着地した。
最後は翠川の"Check
I"を短めに。冒頭は妙に不協和音で不安定に迫る。たぶん、チェロがキーをずらし弾いたんじゃなかろうか。ピアノとバイオリンはきっちり聴こえた。
バイオリンもフレーズの合間でテンションへ飛び、危なげなムードを加速さす。
スリリングな曲へさらに緊張を加える、鋭い演奏だった。
アンコールの拍手がやまない。メンバーはステージから降りず、そのままアンコールへ突入した。
「これやろう」
譜面をいきなり翠川が提示する。予想外な太田はあわてて譜面をくる。黒田はすぐに譜面を台においていた。
「酒飲んでると思ってたら、こういうことをするんだから・・・油断なりませんな」
なかなか見つからぬ譜面を探しながら、太田がぼやいてみせた。
これでいいかしら、と黒田が腕をゆったり振って3拍子。翠川とちょっとやりとりして、ガリアーノの"Spleen"が奏でられた。
ハイテンションで飛び交わし、めまぐるしいやりとりで醸しだした空気を、柔らかくなだめるように。
そっと音楽がつむがれた。
きれいで刺激的な即興が自然に展開。さらに緊張も常に漂う。今夜も充実したサウンドに浸れ、幸せな一夜だった。次のCDが出ないかな。生演奏の空気こみでこそ、味わえる良さもある。でもライブを聴くたびにもっともっと味わいたいと、欲張りになってしまう。贅沢すぎか。
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