LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/12/24  新宿 Pit-Inn

出演:ONJQ(Otomo yoshihide's New Jazz Quartet)
 (大友良英:g、津上研太:as,ss、水谷浩章:b、芳垣安洋;ds,tp
  with 伊東篤宏:Optron)

 "ライブ・イン・リスボン"のレコ発も兼ねたライブ。4人編成での演奏は初めてという。立ち見ぎっしりで超満員。椅子席は少なめで、横のスペースに積み上げる。
 その上にJBの人形とクリスマス・ツリー、ライトの飾り。ところが電源を抜かれ、無造作に置かれたのみ。せっかくのイブだが、なんだか寂しい限り。この大盛況だと、ライトアップどころじゃないか。

 「彼氏に連れてこられた人、ごめんなさい。・・・とっとと振って下さい。」
 冒頭に苦笑しながら、大友良英が挨拶。抽象的な雰囲気で演奏が始まった。
 今回は上手へ津上研太が立つ。正面ではなく、横を向いてマイクがセッティング。大友が下手へ座り、向かい合う格好。そのため水谷浩章や芳垣安洋の弾く様子が良く見えた。
 あえて津上や大友をフロントに置かず、アンサンブル全体を見せる演出をとった。

<セットリスト>*大友良英のブログを参照しました。
1.Flutter
2.ゆるやかな拘束(新曲)
3.Pholydrice(新曲)
4.Serene
(休憩)
5.Song for Che〜Reducing Agent(with OPTRON)
6.Lost in the Rain〜Tails Out
7.Straight Up and Down
8.Lonly Woman
(アンコール)
9.Gazzelloni (with OPTRON)

 (1)から芳垣のドラムに惹かれた。猛烈なスピードでライド・シンバルをランダムに連打。高速ビートが刻まれる。
 ウッドベースを抱えた水谷が、弦をゆったりと弾く。一定のテンポは明確にわかるが、小節感が希薄。最初こそ水谷が拍のイメージを提示したが、やがてベースも混沌へ進んだ。
 ギターもサックスもアドリブでは自由に動くため、漠然としたビートのみが疾走する。
 乱発するパルスのごとくシンバルが叩かれ、スピーディに展開。初手から素晴らしくスリリングな音像だった。いきなり20分くらい演奏してたと思う。
 
 サックスはアルトからソプラノへ。フラジオだけでなく発振機のような音色も響く。大友は途中でU型磁石をピックアップへ押し付け、ハウリングを引き出した。
 さらに別の場面ではフィードバックも多用。透明でダンディでデカダンなノイズにまみれる、独特のジャズが奏でられた。

 大友はピックからスライドバーに替え、ネックをこする。
 最後はドラムとベースのデュオ。ベースがどんどん高まり、ドラムはストイックにシンバルを打ち鳴らした。

 続く2曲はライブのために書き下ろしの新曲。
「"ゆるやかな"と"こうそく"はそぐいませんが・・・。高速でも校則でもなく、拘束です」
 そんな前置きで演奏された。ウェイン・ショーターをイメージしたという。切なげな旋律がソプラノ・サックスで奏でられた。ドラムがマレットからブラシ、スティックへと場面ごとに変わったのはこの曲だったろうか。

 ウッド・ベースのソロが始まる。ドラムが鋭くバッキング。低音のメロディはふわりと揺らいだ。
 ときおり、ぱくっとハイハットが口を開く。芳垣はブラシをスネアの打面へ押し付け、別の手で毛の部分を持ち上げ、打面へバラバラと落とした。

 "ポリゲリッケ"はエリック・ドルフィーのアルファベットをアナグラムにしたそう。
 9拍子のリフをベースが執拗に繰り返し、津上のキューで次の場面へ移る。
 大友の磁石による、へヴィなソロがたっぷり聴けたのはここか。

 芳垣はトランペットを持ち、サックスに絡むラインを吹く。ミュートをつけ、吹きながら叩く。
 寂しげなメロディのアクセントに、バスドラがきれいに鳴った。
 水谷はオープン弦でアルコをゆっくりと動かす。
 ちなみにこの曲、今夜は構成が思うように行かなかったようす。演奏中も奏者が目線で苦笑しあってた。 
 
 前半最後は"Serene"。水谷がベースへ細い棒を何本もはさむ。大友のフィードバック。津上は循環呼吸でソプラノを軋ませた。
 芳垣はマレットの残像も豊かに、シンバルのロールを繰り返す。
 一本、また一本。弾きながら水谷はベースへはさんだ棒を抜いてゆく。
 津上を見ながら、アルコがゆっくり動いた。
 そしてベースから、最後の棒一本が抜かれる。
 芳垣のロールが高まり、テーマへ雪崩れた。

 アドリブは津上と大友が交錯する。ソロ回しでなく、互いのフレーズを絡ませるように。ベースがソロを取るときもあったが、ギターやサックスが前面に出ると、すっと一歩下がったプレイへ滑らかに変わった。
 それでいて、ベースはとびきりのグルーヴをがっちりと出す。
 ソロの合間に津上は横の椅子へ腰掛けて、タバコをくゆらせた。

 エンディングも高音フィードバック大会。大友はギターを抱え込み、響く超高音へ耳を澄ます。
 津上はAをいつまでもか細く吹き、さながらチューニングの様相を呈した。

 客席後方からライトが照らし、客席が青白く染まる。
 シンバル・ロールが幾度もパターンを変えて続く。ベースは弦を弾かず、ロングトーンが続いた。
 ときおり体を曲げてアンプをいじっていたので、これもフィードバックの一種か。それともエフェクターかな?
 十二分に時間を使い、とことん高まって・・・ドラムがはじけた。

 後半セットはまず、ゲストの伊東篤宏が加わった演奏。
 照明が落とされるが、すぐさま蛍光灯が明滅した。
 ノイズ成分や音量は控えめ。大友のギターと、どっちがどのノイズか区別つかないときも。
 眩い光を、蛍光灯を持った伊東は無造作に操る。ときおり肩に乗せて足元のエフェクターをいじった。
 配線を変えていたので、もしかしたら操作が思うように行かなかったのかも。
 
 いずれにせよ暗闇に近いステージは、オプトロンの炸裂で白く染まる。水谷は目をやられるのを避けるためか、途中から光源へ完全に体をそむけ、ドラムを見ながら演奏。 
 大友は最初、ギターをひざに乗せたままオプトロンを凝視する。ところが途中で目を押さえる。
 伊東だけが飄々と蛍光灯を見つめ、ノイズを操った。

 曲の最後はオプトロンとドラムとのデュオ。スティックがめまぐるしく動き、芳垣はひとときも休まず小節感が希薄なビートを提示し続ける。
 ノイズを撒きながら、輝きを振りまくオプトロン。
 水谷はウッドベースへ突っ伏して光を避け、大友も手で目を覆いっぱなし。サングラスをつけた津上は、ステージ袖で涼しい顔。
 かまわずに伊東と芳垣だけが激しく疾走した。
 互いにしばしバトルが続き、エンディングへ雪崩れた。
 
 「アレンジをがらりと変えた」と説明し、"Lost in the Rain〜Tails Out"のメドレー。
 伊東は去り、あとのステージはONJQだけで演奏された。
 ベースがうねり、ドラムが淡々と叩く。ギターやサックスも違うタイム感で吹いた。ポリリズミックな空気を醸したのが、この曲だったか。

 とにかくエンディング、芳垣のブラシ・ワークが強烈な印象で残った。
 津上が、大友が演奏をやめる。しばらくして水谷も。
 しかし芳垣だけが、同一のテンポにて叩き続ける。ほかの楽器が手を止めても、まったく意に介さない。
 数分ほど、ずっとブラシがスネアの打面をこすり続ける。皮の表面を金属質にブラシが動き・・・ふっと停止した。

 "Out to lunch"から"Straight Up and Down"を。
「アレンジをかえて演奏します」
 テーマの譜割がちょっと性急なアレンジだった。なによりもドラムのリズム・チェンジが過激に動く。
 テンポは変わらず、演奏中に無作為にリズム・パターンが変化した。
 アンサンブルは崩れない。リズムだけががらがら表情を変え、曲の土台を揺さぶった。
 それでも破綻しないのは、ベースが強靭なため。さらにギターもサックスも、動じずにアドリブを淡々と奏でた。
 どのあたりまでこのアレンジは、打合せだろう。即興と構成が一体だった。

 2ndセット最後が"Lonly Woman"。
 イントロはベースの無伴奏ソロ。体を揺らしながら、水谷が楽しそうにアドリブを取る。やがて、芳垣がそっと加わった。
 ギターのフィードバックと、U字磁石によるハウリングがとことん高まる。ピック弾きしながらも、途中で口にくわえる大友。
 磁石をピックアップのあちこちへ押し付け、左手はピックアップぎりぎりを矢継ぎ早に押さえた。
 サックスが軋み、アドリブへ。ギターと絡む。ベースがぐいぐいとグルーヴした。
 幾度もテーマが提示され、さらに即興に進む。かなり長尺でたっぷりとサウンドを構築した。

 アンコールの大きな拍手。
「時間が遅くなってごめんなさい。最後は・・・オリジナルに忠実な演奏を一曲」
「いや、ドルフィーにオプトロンは入ってませんって」
「あれ、そうだっけ。2〜3曲は入ってると思ってたよ」

 そんなコミカルな前置きで"Gazzelloni"を、伊東も加わって演奏された。てっきり"Eureka"を演奏すると思ってた。翌日にアップされた大友のブログによれば、『歌というフロント的な中心点を作りたくなかった』とある。あえてはずしたようだ。

 "Gazzelloni"では幾度も、スネアの連打が空気を切り裂く。大友はストロークがメインか。
 いっとき、手の残像がうごめくほど激しく、弦をかきむしった。
 オプトロンの明滅がステージを照らす。ぶちぶちと空気を震わすノイズ。
 音量控えめで、アンサンブルへ素直に馴染んだ。全員がアップテンポで突き進む。
 津上はベルをマイクぎりぎりに近づけ、低音成分を振り撒いた。

 しめて2時間半にわたろうかという、充実したライブ。この編成は、夏ごろまで活動に間が開くらしい。
「面白かったから、またやるかもしれません」
 MCで大友が寸評する。

 明らかに文脈はジャズでありながら、ビートや耳障りは明らかにジャズより展開した新しい何か。
 大編成での響きも格別だが、コンボでのスリルもすごい。特に今夜はドラムとベースの自由度へ夢中になった。
 過去を踏まえた上で新たなジャズ観を見据え、周波数の演奏で独特のジャズを実体化させる。大友の底力を魅せた、充実のライブだった。

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