LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/12/19   新宿 Pit-inn

出演:新大久保ジェントルメン
 (グレート金時:as,cl,b-cl,etc.、イゴール:key,per,b-cl,etc.、アブドゥール・ワハハ:vln,per,etc.
  Guest 仙波清彦;per)

 今年の8月ぶりな新大久保ジェントルメンのライブ。うれしいことに、今回も仙波清彦がゲストで参加。
 ステージには仙波の小ぶりなドラム・セット、さらに中央へグレート金時用のポリバケツやバケツを重ねたドラム・セットが置かれる。
 大盛況を想定したが、なぜか観客の数が少ない。当日券では50番台だったのに。開場をしても待ってたのは10人足らず。最終的に30人前後と、えらくさびしい入り。不思議。

 15分ほど押して、客電が落ちる。楽屋からサンタクロース姿の金時が登場。ドアの前に寄りかかり、寂しげにクラリネットを吹いた。
 ほかのメンバーはステージへ上がる。ゆっくりと金時は客席を吹きながら練り歩いた。
 ピアノがぽろんと鳴り、金時がステージに。最初からインプロ基調で演奏が始まった。寂しい客席でのらないのか、なんだかくつろぎモード。

 イゴールがピアノとキーボードをユニゾンで弾きつつ、ときおりピアノの上へ載せた弦楽器を爪弾く。
 アブドゥール・ワハハは素肌にジャケット、胸には薔薇。アコースティック・バイオリンを構え、おもむろに"スプリング・ソナタ"を弾き始めた。
 金時はすぐさまサンタクロースの服を脱ぎだす。ズボンを振り回し、ドラムセットのポリバケツへ叩き付けた。
 横でサンタ姿の仙波が、早速シャープなリズムを刻みだす。ハイハットの細かな打ち鳴らしが、とても小気味よい。

 間の多い混沌としたインプロがしばし続き、盛り上がったところで金時のメンバー紹介。仙波は「暑い!叩いてられない!」とぼやきながら衣装を脱ぎシャツ姿に。
「メリー・クリスマス。ぼくらのように、ロマンティックなクリスマスを」
 サングラスに金髪の金時が、ぐしゃぐしゃなインプロにのせて、静かにつぶやいた。

 イゴールがピアノでさまざまなクリスマス・ソングの変奏曲を。
 金時はトロンボーンを構え、ぶかぶか鳴らす。今夜のワハハはいまいち元気ない。
「くらしっくヲ弾カナイト・・・おおたサンノコトデスガ、代役ヲシナクテハ・・・」
 ぼやきながら、執拗に"スプリング・ソナタ"の冒頭を弾き続ける。

 全編インプロのなのに、ワハハの前には譜面台がしっかり。
 エアコンの風であおられたか、譜面が床に落ちた。
 拾って丁寧に乗せなおす。
 楽器を構えると、また落ちる。
 拾って譜面台へ。
 ワンフレーズ弾きかけたら、また落ちる。
 また拾って・・・。

 なんど譜面を拾っても、そのたびにばらばら床へ飛ぶ。大真面目な顔でワハハは拾っては乗せ、拾っては乗せを繰り返した。

 金時はすっとドラムセットの後ろへ座り、バスクラを吹き始めた。足元にディレイを仕込み。フレーズの残響が響く。
 仙波がタイトにエイト・ビートを叩き続ける。中央にもどった金時が、太いプラスティックのチューブを振り回した。
 ワハハがエレクトリックに持ち替える。ディストーションをかけ、またしても"スプリング・ソナタ"を。

 1stセットは無手勝流のインプロが無造作に続く。空白を恐れない。むしろ仙波が場を引っ張ったかも。
 ひっきりなしに小物を後ろから取り出し、ちょっと演奏しては次に持ちかえた。
 おもちゃのシェイカーを振るさまに、ワハハが反応。バイオリン二棹を持って、同じように振った。
「いいから、弾け」
 すかさず仙波の突っ込み。
 改めて思ったが、今夜の出演者はみんな声が通ってきれいだ。

 金時が前に出て、アルト・サックスを吹いた。軋みをあげながら旋律が疾走するさまがかっこいい。
 演奏がきちんと始まると、がぜんグルーヴがすさまじくなる。イゴールは落ちるひげを付け直しながら、キーボードとピアノを弾き倒した。

「壊れたボサノヴァだ」
 仙波が告げて、高速ビートを提示する。イゴールと金時がすかさずついてきた。前回ライブと同じネタふり。
「今回は出来るじゃないか!前回は出来なかったのに。・・・学んだな」
 しばし一緒に演奏してた、仙波のあきれ声。
 
 混沌と即興が交互に現れる。イゴールと金時が気ままに音を出す。
 ワハハは耳を傾けて、安易に入らない。そのかわりスペースが出来ると、一気にソロへ向かった。
 途中でタールを捧げ、指先で叩きだす。小刻みなビートを仙波が叩く。ふと、"オータのトルコ"を連想した。

 細かなネタが多くてとても覚えられない・・・。だんだん客席もあったまり、笑いの耐えないステージだった。
 金時はクラリネットからトロンボーンまで、次々持ちかえる。肝心のアルトサックスをなかなか持ってくれない。

 クラリネットを無伴奏呼吸で吹き続けた。イゴールがおもちゃの笛で茶々を入れる。
 仙波がシンバル叩いて怪談のBGMみたいになった。
 ワハハが茶々をいれ、金時は目を白黒。

 仙波のテクニックに見惚れた。各種シンバルを片手で叩きまわし、ダブル・ストロークで恐ろしく鋭いビートが絶え間なく続いた。場への参加するカンがすさまじい。
 テンポを瞬時に聴き取り、間を見事につかんで合いの手を入れる。
 無造作な雰囲気に見せかけて、リズム感が冴え渡った。

 ドラムセットに腰掛けた金時が、ふっとイントロを弾いた。イゴールがあわせる。
 バイオリンを構えなおしたワハハが、ソロへ突入した。
 ひとしきり弾いて、歌いだす。"オータのトルコ"だ。久々に聴いた。うれしい。
 ドラムも入って、全員でひとしきり盛り上がった。

 ここまでで約45分。
「演奏続けてもいいんですが。休憩したい人」
「はいっ!」
 すかさずワハハが手を上げた。

 短い休憩を挟み、後半セットへ。冒頭はイゴールのハーモニカがちょっと鳴った。
 まずはアルトを構えた金時を筆頭に、曲っぽい演奏をばっちりと。ファンキーなノリにひきこまれた。
 ドラムセットに金時が座ったあたりから、またしても奔放なインプロ合戦に。フレーズはほとんど無く、楽器で音を出す応酬となる。

 イゴールがピアノでワンフレーズ。すぐに止める。メンバーが様子を伺う。弾いたとたんやめてしまう。
 ワムの"ラスト・クリスマス"などを、マイナーに変奏してイゴールがちょっと歌っては次の曲へ。
 いつのまにかビートルズやジョンの曲を全員がてんでにがなりたてた。

 金時はマイクの前で、なぜかエアキャップをぷちぷち潰しだした。
「小さい音だな〜」
 仙波が呆れる。中央に出てきて、びいどろを片手に、自分の乳首を押さえて一音。
 また押さえて一音。ステージからメンバーまで満遍なく見せて回る。

「コレガ今デハ、メッタニ演奏サレナイびいどろデス」
 ワハハが解説。後半セットの最初ではほとんど弾かず、じいっとメンバーを観察してた。
 ときおりメガホンやホーメイで場をさらう。

 仙波は金時と交代で、彼のドラムセットの前に座った。バケツやポリバケツを叩くが、思案顔で腕組み。あきらめて立ち上がった。
「たまの石川の気持ちが、よくわかったよ」
 ピアノの中に小さなシンバルを入れたイゴールが、鍵盤を叩く。
 中へ腕を突っ込み、ミュートさせた。さらに足元のドラムを踏みつつ、キーボードを操作した。

 金時がチューブを振り回す。仙波がちょっかい出すと、すかさずおもちゃの拳銃で射殺。ドラム・セットに仙波が伏した。
 中央で踊る金時。ワハハが拳銃を持って、金時を撃ち倒した。

 仙波も細いチューブを持つ。マイクにあたって止まると、あさっての方向向いて「何でだ?」といぶかしむそぶり。振り回しながら吹いて音を出した。
 ワハハはバイオリンのケースを持って、振り回そうとした。

 金時が頬を叩いてパーカッション代わりに。仙波もすかさず自らの頬を叩く。
 叩く位置や口の形で、きちんとバラエティあるリズムが鳴るのに舌を巻く。

 笑ってみてたワハハへ、「お前も叩け!」と指示。爆笑だった。ワハハも加わり、三人で顔パーカッションに。
「頭に挑戦だ!」
 仙波が宣言、自らの頭を叩いて見せた。
 しまいに手のひらを猛烈に叩きあわせ、高速ビートを提示する。感嘆するワハハへ「すごいだろ。自慢なんだ」と胸を張る。実際、すごい。

 イゴールが調子をずらせた"憧れのハワイ航路"を。金時がフラダンスを踊る。演奏せずに、ずっと踊ってた。
 バイオリンを弾きながら、ワハハが別の曲に。仙波がスパッとあわせる。
 昔の歌謡曲かな?聴いたことあるが、曲名は不明。

 自由な音遊びを中心ながら、ときおりセッションも。業を煮やしたか、仙波が積極的にビートを出す。
 すかさずバイオリンで早弾きするワハハを、仙波はじっと見ながら叩いてた。

 最後は超アップテンポなドラムにあわせ、猛烈な勢いでイゴールが鍵盤を叩きのめした。すごい。
 ワハハがバイオリンで滑らかなアドリブを披露。
 金時がアルト・サックスを轟然と。バイオリンはとたんに、バッキングへシフトするバランス感覚を見せる。
 一丸となって突き進む。終わってはドラムのロール、またロール。コーダをもったいぶって決めた。
 
 拍手の中ステージを降りるメンバー。客電がつかず、アンコールの拍手が続いた。すぐに再登場する。
「よくこんな演奏で、アンコールする気になるなあ」
 仙波がぼそっとつっこんだ。

 クラリネットを構えた金時が、滑らかに"ベルファスト"を。
 ところがワハハが入り損ねる。苦笑しながらなぜか、みかんをポケットから出して貪り始めた。
 イゴールがコミカルなフレーズを出し、金時はポリバケツをかぶって虚無僧スタイルにクラリネットを吹いた。

 ワハハの食事も終わり、仕切りなおしで"ベルファスト"へ。
 仙波はこの曲をあまり知らなさそう。変拍子が続くテーマと、微妙にずれた叩き方。
 ところが数度聴いてるうちに、あっというまにパターンをあわせる。リズム感に仰天した。

 金時からイゴール、ワハハから仙波へ。ぐるっとソロが回る。6拍子や7拍子のリフも入れて、仙波が刻んだ。
 イゴールがピアノでテーマのコードを生かしたフレーズで、エンディングへいざなう。
 心地よく"ベルファスト"のテーマが奏でられた。

 動員の寂しさが残念でならない。かなり気ままな即興ぶりだっただけに、満員の観客だとどっかんどっかん受けまくる、ショータイムになったろう。観客が少ないと、寂しさが漂ってしまう。
 いずれ劣らぬ凄腕が揃って楽器の遊びを提示するさまは、とんでもなく贅沢なひとときだった。
 即興一辺倒でなく、ポイントで曲を入れたバランスも楽しい。見届けられたのが、べらぼうにうれしいライブだった。

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