LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2006/12/17 西荻窪 アケタの店
出演:明田川+津村
(AKETA:p,オカリーナ、津村和彦:g)
アケタの店、昼の部。明田川荘之と津村和彦のデュオは、明田川のオカリーナを前面に出すライブだった。
15分ほど押して客電が落ちる。無造作にステージへ向かった明田川は、ピアノの上に大小のオカリーナを並べた。
まずはブラジルの曲。12/23に予定された藤川義明のセッションで演奏を頼まれた曲という。
「オカリーナで吹くのは難しい曲です・・・」
ぼやきながら楽器を口へ当てた。この日はマイクがオカリーナの音をしっかり拾う。いつもドライな音質で聴き慣れてるので、新鮮。
うっすらとリバーブかかった音色が、ふわり店内に響いた。
<セットリスト>
1.マリカ・モサ(?)
2.ロフト・シックス
3.侍日本ブルーズ
(休憩)
4.枯葉
5.オーバー・ザ・レインボウ
6.悲しき天使
7.A列車で行こう
(休憩)
8.カッコーのセレナーデ
9.黒いオルフェ
10."(1)の再演"
11.セント・トーマス
この日はどれもイントロでオカリーナとギターのアンサンブル。まずたっぷりと明田川がソロを取り、ピアノに変わる。そこで津村がアドリブな構成だった。
1曲目では立ったまま、明田川は鍵盤を押さえる。目は譜面へやったまま。ほとんど曲を知らないそぶりだ。
津村はこの日、全てガット・ギターを使用。エレキも準備済みだったので、一曲くらいは弾いて欲しかった。
(1)のイントロはピックを譜面台へ置き、ボサノヴァ風に軽やかなバッキング。アドリブも指で弦をはじくが、フレーズが速くなると苦戦。すかさずピックを手に持ち、旋律が駆け抜けた。
ステージを通して、指弾きを多用する。アドリブ以外はほとんどが指。くわえピックでギターをかき鳴らした。
明田川は津村のアドリブが終わっても、立ったままアドリブを弾く。しだいに音が、彼独特の叙情的な世界に変わったのが面白かった。
(2)はかなり前の明田川オリジナルだそう。たぶんぼくは、聴くの初めて。
「これもCとC♭が交互する、オカリーナでは吹きにくいメロディ。その箇所では耳をふさいでね」
明田川が笑いながら説明した。(1)と似た曲調のブルーズ。アドリブは比較的あっさり終わったか。
続く(3)はえらく速いテンポ。ギターのリフがシンプルなベースラインでなく、ちょっと引っかかるパターンであおる。
日本情緒あふれ、じっくりうねるイメージあったが、この日はすいすいと披露した。エンディングで軽くクラスターあり。
明田川が津村へ軽く視線投げ、コーダへ向かった。
「いまいち演奏する気分じゃないな〜」
明田川がつぶやいて、あっさり休憩。約30分ほど。1stセットが短く終わった。
そのためなのか予定通りなのか、この日は3セット制、と後ほど説明される。
短い休憩後に2ndセットは、スタンダード大会。オリジナルを連発する明田川のライブにしては珍しい。オカリーナがメインなためか。
まず"枯葉"。大小のオカリーナを吹き分ける。切なさは控えめに、さくさくと。エンディングではぐっと盛り上がり、津村と明田川の4バーズ・チェンジも聴けた。
アコギで高速フレーズをまくし立てる津村に、明田川はオカリーナで応える。楽器構造から強いブロウが出来ないため、アンサンブルの耳障りはいたって柔らかい。
この曲に限らず、津村はアドリブ弾きながらユニゾンの裏声でフレーズを口ずさみながら即興を弾いた。
圧巻は続く"オーバー・ザ・レインボウ"。素晴らしい名演だった。この日は録音してなかったのが惜しい。
スムーズにテーマを奏で、まず明田川のアドリブ。各種オカリーナを持ち替えながら、たっぷりとメロディを展開させた。
津村のギターは刻まず、和音を生かして。絡むようにフレーズが流れる。
テンポ感はオカリーナのフレーズが作る。ロマンティックなひととき。さらにオカリーナのアドリブそのものも、とても心地よかった。
津村のソロは無伴奏にて。明田川はピアノの前に軽く立ち、ギターの音へ耳を傾けた。
おもむろにオカリーナを吹く。二人の音楽が美しく膨らんだ。
明田川はピアノへまったく手を触れず、この曲を弾ききった。
"悲しき天使"はメリー・ホプキンスの曲。オールディーズの選曲も珍しい。今度も明田川はオカリーナのみ。
ちょっとウェットなメロディを、思い切りアップテンポでやった。
アドリブの交換から、テーマへ。ぐいぐい二人はテンポを上げる。
最後は倍くらい。フリーにシフトせず、正攻法で弾き倒した。
2セット目の最後は"A列車"。イントロに明田川がフリーな世界を作る。いったんは音をかぶせかけた津村だが、途中から笑いながら楽しんで眺めてた。
鍵盤を叩き、オカリーナを汽笛に見立てる。
しばし混沌を提示、おもむろにテーマへ移った。
アドリブも軽快で楽しい。さらにエンディングでは冒頭の混乱をまた作る。
さらにコーダへ行っても、奔放に明田川は弾きまくった。
津村はじいっと見つめ、なんとか合わせてエンディングへ。
終わった後にも数音、明田川が弾く。得意のの未完了っぽさを残し、微笑みながら2ndセットの幕を下ろした。
聴き応え満載だったのが、3rdセット。まずはローランド・カークの"カッコーのセレナーデ"から。
耳に馴染んだメロディが、オカリーナで紡がれる。くすんだ旋律の寂しげな世界観が、アコギとオカリーナで構築された。
アドリブ自体は、はつらつと進む。オカリーナでのソロが印象深かった。
続いて"黒いオルフェ"。オカリーナのみで演奏するのは初めてだそう。
譜面を見ながらも、ごく滑らかにテーマを吹く。たちまちアドリブにつながった。
アコギがスパニッシュに切なく弾かれたのはここだったろうか。指板の中央ぎりぎりまで指を向かわせ、せわしなく弦をかき鳴らした。
更なるクライマックスが(1)の再演。練習だってそぶりを冒頭では見せたが、今度は堂々たるもの。
あっというまに曲を自分のものにし、猛烈なテンションでピアノが弾かれた。
うなりながら弾き続けられる。時折咳き込みつつも、うなり声は止まらない。
津村のギターも素晴らしい。即興フレーズを口ずさみながら、指板の上を左手が駆け抜ける。
チョーキングしながらストロークする箇所もかっこよかった。
最後が"セント・トーマス"。ただし曲が始まるまで、明田川のおふざけがたんまりと。
クラスターを織り込み、ひじ打ちから尻餅、かかと落しを軽く示す。
さまざまな曲の断片を混ぜながら、唐突に横にあったスティックを津村へ放り投げる。
一度でなく、合計4度。スティック2本とブラシ1本、スイング・ジャーナル1冊が宙を舞った。
冒頭ではボディを叩いて明田川に合わせてた津村だが、スティック2本目が飛ぶあたりから、すでに逃げ腰。
まったく弾かずに笑いながらも明田川の挙動に目を配る。次に物が飛ぶときには、すかさず逃げ出した。
ついにテーマが現れ、アップテンポでデュオ。アドリブ合戦から、明田川のクラスターに流れた。
オカリーナをピアノの中へ投げ、譜面もついでに。びりびりとピアノ線がオカリーナに振動を邪魔され、鈍い音を立てる。
両腕で鍵盤を打ち鳴らし、ピアノを押し出すがごとく、うなりながら体を押し付けた。
最後はきちんとテーマに。すばやくオカリーナや譜面を取り出し、きちんとしたピアノの音色でしめた。
コーダのタイミングを津村が探って、あわせる。明田川はまったくかまわず、しぶとく演奏を繰り返して自由に終わった。
オカリーナを前面に出したためか、スタンダードが並ぶ新鮮なセット・リストになった。シンプルなデュオ形式で、互いのアドリブを堪能できたのもうれしい。
各セット30〜40分とコンパクトなステージングで、すっきりと聴かせる。録音無しが惜しい。気軽な姿勢で演奏しつつも、熱い名演ありの良いライブだった。