LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/12/15  大泉学園 in-F

出演:翠川+千野+喜多+会田
(翠川敬基:vc、千野秀一:p、喜多直毅:vln、会田桃子:vln)

 in-Fでの翠川敬基+千野秀一+喜多直毅のアンサンブルへ、ゲストで会田桃子が加わったセッション。彼女を聴くのは初めて。
 緊張感と気取りのなさが交錯するライブだった。19時半を軽く回ったころ、千野がふらりと現われる。
「今日、僕が来て(演奏して)いいんですよね?」
 開口一番尋ね、店主や観客に大うけだった。
 そのままピアノに座り、即興で弾きはじめた。"Round about midnight"だっけ?ジャズのスタンダードをフリーキーに崩し、タイムも小節も意識させず奔放に。
 練習って訳でもない。単に音と戯れるように。思わぬ素敵なひと時だった。
 彼の演奏は他のメンバーが現われるまで、ずっと続いた。

 あらたな"楽屋"を準備した翠川らが20時を過ぎ、3人揃って現われる。しばし経って客電が落とされた。
「まず、フリーね」
 翠川が告げたとたん、千野が客席へ座ってしまう。いぶかしむミュージシャンへ、手を振って演奏を促した。
「まず、弦楽三重奏ってことで」
 千野は長い足を、もてあますかのように組んだ。

<セットリスト>
1.即興#1
2.Bisque
3.ミケランジェロ70
(休憩)
4.即興#2(千野+会田)
5.TAO
6.Lonly woman
7.Seul-B
*Thanks to インエフさま

 今日は三人ともPAを使わない。しかし喜多や会田のバイオリンが太く鳴り、音量の不便は無い。
 とはいえバイオリンはフォルテ多用で疾走し、ダイナミクス大きな翠川の音が若干聞こえづらい。pppは殆ど埋もれて残念だった。

 冒頭は喜多と会田の音が鋭く響いた。滑らかなメロディの合間に、強く弓を弦へ押し付ける。弓で弦をたたき、故意にぎちぎちと鈍く音を濁らせた。
 鋭く上へグリサンドし、根本すれすれでガリガリと弾く。
 タンゴでは馴染みの奏法なのか。喜多のみならず会田もごく自然に同様の奏法を取り入れた。

 主導権をとったのは喜多か。いきいきと体を揺らせ、音を滑らす。
 会田は生真面目な表情で中央に立ち、静かに音を展開した。
 即興アンサンブルに馴染んでないのか、探るような面持ち。あえて喜多や翠川がスペースを作るまで、ソロで切り込まず。
 もっとも喜多から会田へアドリブが切り替わる際はごく滑らか。クロスフェイドなさまは心地よかった。

 翠川はバッキング役をいつしかひきうけた。ほぼ目を閉じた演奏。たまに様子を伺うごとく、瞳を開け奏者を覗き込むさまが新鮮だった。
 フラジオや特殊奏法も得意とするが、翠川の志向のコアはロマンティックでメロディアスな志向なのかな、とふと思う。
 バイオリンらがひときわボウイングをきしませ、ノイジーなプレイで応酬のとき。翠川は唐突に弓を下ろし聞く姿勢。しばらくして旋律主体の場面に変わると、すっと弾き始めた。

 弦楽三重奏のフリーは15分ほど。硬質なサウンドで終わりを匂わせたころに、すっと千野が立ち上がってピアノへ向かう。
 無造作に数音を出した。その瞬間、ふっと翠川が目を開けて千野を見た。
 千野は鍵盤の上を指が踊る、独特なタイミングのプレイ。合間を縫って最高音や超低音、グリサンドを次々滑らす。
 ピアノが加わり、サウンドに丸みがうまれた。より自由になり、音世界があっちこっちへ飛ぶ。
 喜多は糸巻きを掴み、ボウイングしながらチューニングをずらす荒業で激しく弾き倒した。

 ふっとサウンドがクラシカルに飛ぶ。
 それまでのフリーな世界から一転、優雅な空間へ。
 全員が即興で格調高い風景を描き、即興は幕を下ろした。
 約30分にもわたる長尺インプロ。

 続いて翠川の"Bisque"。曲名を聞き、先日の翠川+太田+早川での芳醇さを期待。けれども音が出た瞬間、別モノだと確信した。
 太田+早川のセッションでは、暖かさや安定感、懐の深さで優しく包んだ。
 いっぽうで喜多と会田は鋭さや厳しい緊張、スリルが常に見え隠れする。
 似たような弦楽三重奏でも、まったく違うアプローチ。一つの曲がこんなにも印象変わるとは。
 千野がすぐに鍵盤へ指を落とす。いくぶんサウンドがふっくらとした。

 この曲では聞いててとっかかりがなかなかつかめない。翠川もアドリブで主導権はとらず、むしろ喜多や会田の自主性にまかせるかのよう。
 ぐうっと盛り上がったのは中盤以降。
 いきなりテンポが上がり、ぐいぐいとテンション高まる全員の応酬が痛快だった。

 すでに45分。1stセット終わりかと思ったら、翠川が「これやろう」、と譜面を配る。緑化や黒田トリオではさくっと休憩に導く翠川だが、今夜は物足りなげに次々と演奏を促した。
 選んだ曲はピアソラの曲。千野ははじめて譜面を見たそぶり。
 テンポを相談、いきなりテーマから始まった。
 爽快に演奏が進む。喜多は余裕綽々で鋭く弓を動かす。譜面をちらりと見る程度なそぶり。
 
 アドリブは多分殆ど無し。ソロ回しがちょっとあったかな?
 エンディングはちょっとバラケ気味に着地。
 ずれたリットが気に入らなかったか、千野がコーダのあともかまわず、もう一度エンディングを一人で繰り返すさまが面白かった。
 
 後半セットは千野の提案で会田とデュオ。演奏前に「音楽しりとりみたいなのやろうよ」と提案してるのが、フッと聞こえた。
 中央に会田がたち、千野の主導権で短めの即興。というより、千野が提示するクラシックなどのモチーフに、会田が短くこたえる格好。
 12/20に予定されたクラシックの曲もやったらしく、客席スペースで聴いてた翠川から「それは20日だろ〜!」と野次が飛ぶ。
 千野は即興を膨らませず、つぎつぎにモチーフを出す。全休符まで、会田がまねたのが可笑しい。しだいにフリーな要素が膨らみ、すんなりと着地した。

 次に翠川の"TAO"を。テーマを会田に任せようとしたら、強く喜多へ押し返すさまに吹き出した。
 ビート強い展開なイメージだった、千野が奔放な演奏でグルーヴを、ぐっと懐深く展開。チェロが柔らかな雰囲気でさりげなくアドリブを入れる。
 チェロの独奏となり、ぐっとタイム感が広がるひと時を提示したのはこの曲だったか。
 千野は譜面も見ず、キーだけ聞いてそのままフリーに弾ききった。

 チェロとピアノのデュオで始まったのが、"Lonly woman"。その場で曲名はわからず、後でインエフさんから教えて頂いた。サビを無しで演奏してたそう。
 譜面を探すほかのメンバーへ、「いいよ、自由で」と、翠川が告げた。

 千野と翠川のデュオでは、休符も音符とひとつながり。拍も小節も解体され、すべてが自由な一つのメロディのように流れる。素敵なひととき。
 おもむろに喜多と会田が入り、アンサンブルがぴしっと締まる。
 今度はスピーディに即興が進む。喜多がアドリブをとるとき、ひたむきに長いフレーズで会田が弾き続けたのがここだったか。

 まだライブは終わらない。譜面を繰った翠川が"Seul-B"を提示する。ピアノは気兼ねなく指を躍らせ、独特なブルージーさを出した。
 ソロ回しは無い。それぞれの奏者がスペースをつなげて繋がりあるひと時をつくる。
 千野と翠川はバイオリン2人を自由に動かすかのように、あまり全面へ出ない。バイオリンのアドリブが一段落した時点で、するりとソロをとった。

 後半セットも一時間弱。翠川が時計を確認して、終演を告げた。
 会田の参加で弦の絡みが複雑になった。もっと前面に出て、アンサンブルを食う勢いでもかまわない。
 3人がフリーで弾くときの縦横無尽な響きの交錯が聴き応え満載。

 なお、今夜は翠川がバンマス状態。
 喜多のオリジナルを投入、千野や翠川の料理ぐあいも聴いてみたい。彼のメロディをあの二人は、どう料理するだろう。

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