LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/12/3   三軒茶屋 世田谷パブリックシアター

  〜「渋舞謡夜曲」〜
出演:渋さ知らズ劇場公演
 (片山広明、小森慶子、鈴木 新、佐藤帆、川口義之、立花秀輝、鬼頭哲、吉田隆一:sax、北陽一郎、辰巳光英:tp、高橋保行:tb、太田恵資:vln、斉藤"会長"良一、大塚寛之:g、ヒゴヒロシ、オノアキ:b、関根真理、松村孝之:per、磯辺潤、つの犬:ds、室舘彩、小山奈緒子:fl,vo、スガダイロー、中島さち子:key,渡部真一:act、さやか、ペロ、Rott、ゆきの:dance、松原東洋、霜村佳広、向井千枝、長谷川宝子(舞踏)、横沢紅太郎:映像、青山健一:イラスト
  不破大輔:ダンドリスト

 芝居劇場で二日公演(公開リハーサルを含めたら3日)の楽日。始まるまではステージから客席に向ってライトが照らされ、舞台の様子は伺いづらい。
 左右に舞踏用と、奥に高台がうっすら。ダンドリストの足元へは灰皿とおぼしき、赤い缶があり。
 開演時間から5分ほど押して、客席後方から金管の音が聴こえた。"火男"だ。暗闇のステージには三度笠姿のスガダイローが。
 2階席には辰巳光英。高らかにトランペットを吹き鳴らした。

 ひとり、またひとり。ホーン隊やパーカッション、背中に羽根をつけた室舘彩らがぞくぞくと客席通路に現れる。演奏委ながら練り歩き、ステージへ。
 立花秀輝の頭は銀の風船を浮かせた派手なもの。演奏中も首をめぐらすたびに上空へぷかぷか浮かび面白かった。
 
 しばし練り歩いたメンバーがステージへ上がり、舞台がカッと照らされた。不破大輔がすっくと立ち、メンバーへ手を振った。
 そのまま"火男"のテーマへ。さやかとペロがステージ前方で腕をピッと伸ばしてステップ踏んだ。白褌な渡部真一が合いの手を入れる。

<セットリスト>
1.火男
2.(新曲)
3.ひこーき
4.(新曲)
5.ライオン〜Fisherman's band〜ライオン
6.犬姫
7.ナーダム
8.(新曲)
9.本多工務店のテーマ
10.仙頭
11.ステキチ

 "火男"はごく短い。まず赤いエレクトリック・バイオリンの太田恵資のソロ。さらにスーツ姿にサングラスをびしりと決めた片山広明がソロをとる。
 スポットが片山へ当たると、太田が前へ出て対抗。野太いテナーの横で、片足をついてバイオリンをかきむしった。

 冒頭はPAが上へ抜けるのか、いまいち音がまるまってる。片山のソロも聞こえづらい。中盤くらいから音が分離良くなったが、ドラムは細かな響きがいまいちか。なお演奏者は30人ほど。HPのメンバー表を参考にしたが、何人かさらに加わっているようだ。
 エンディング間際で不破が譜面をメンバーみせて回る。

 小森慶子にスポットライトがあたる。音量を落とした中で、やわらかくソプラノ・サックスを奏でた。
 メドレーで演奏されたのは新曲かも。"ニュー・ゲート"のようなくきくきと動くメロディ。変拍子かな。テーマをホーンが繰り返す。ステージ奥へ垂れ幕が下ろされた。メロディーの合いの手を渡部が入れた。
 ソロは大塚寛之へ。するすると幕が上がると、白塗りの松原東洋に黒く体を塗った男。左右からボンデージ・ファッションのRottらが現れ、見事なポール・ダンスを魅せた。下手奥ではさりげなくおしゃもじ嬢が派手な和服姿で、しとやかにしゃもじをふっていた。

 ライティングはソリストへスポットを当て、時にめまぐるしく切り替える。上手奥では青山健一が細密画を描き出した。新曲はスピードを落とし、静かな雰囲気に。川口義之がハーモニカでソロをとったのはここだったろうか。イスへ不破が腰掛ける。タバコへ火をつけ、くゆらせる。ガラムの匂いが、うっすら客席まで届いた。
 やがてテーマが賑やかに復活した。

 この日は緩急を効かせた構成。テンポがぐっと落ち、関根真理にスポットが。背を伸ばし、伸びやかに"ひこーき"を歌った。太田のバイオリンがそっとバッキング。ワンコーラス置いて、室舘が低くハモる。やがて高音で軽やかに歌が絡み合った。
 辰巳のソロが強く響く。後ろの高台には青空の映像。横沢紅太郎が即興で鳥の絵を描く。もう一羽が重なり、さらに画面両脇に枠飾りがつく。青い鳥は黒く塗りつぶされ、さらに白く抜かれる。両脇の飾りへぽっちがつき、檻のように鳥の絵へ縦の太い線が描かれた。

 斉藤"会長"良一がロックンロールなイントロを弾く新曲。立花がフリーキーに響かせたのはここだったろうか。鬼頭哲がばりばりアドリブを吹くシーンもどこかであった。今夜はさまざまな印象深いシーンが矢継ぎ早に登場。ところが記憶がごちゃごちゃで、箇所がほとんど自信ない。 

 "ライオン"のテーマから、いったんブレイク。渡部がステージ前へ出た。ステージ後方はヨーロッパ・ツアーで撮影とおぼしき渡部の映像。大学時代の同級生がこのホールで働いており、「"こんなかっこうで"10年ぶりに会っちまった」と吼えた。

 "Fisherman's band"が豪快に突き進む。渡部のアニメも挿入された。ステージではさりげなく小森が座ったまま踊ってる。
 下手側の社長が立った台が、中央へ押された。ポールの足場がぐっと前へ出される。ボンデージ姿の踊り手が、さらに大胆なポール・ダンスを披露した。
 白塗り舞踏がせり出しで踊る。大きな魚のオブジェを体にまとって。おしゃもじ嬢はステージ奥の高台へ一人立ち、にこやかに振った。
 片山のソロはクリスマス・ソングを織り交ぜる。渡部は片山の前であおり倒した。ダイローのトイピアノによるアドリブはここだったろうか。鍵盤を弾き鳴らし、ボディをバシバシひっぱたく。

 せり出しに渡部が出てMC。「なんか音楽を」と、ひとこと。不破のキューがさりげなく飛び、BGMがきちんとつく。「すまん、ストップ!」と渡部が叫んだ瞬間、アドリブなはずなのに、ぴたっと止まるのが見事。
 今夜の衣装について。深夜にいきなり「わかめと昆布」になる、と告げられたそうな。バンド演奏が盛り上がる。
 「水で戻したわかめと、そのままの昆布!」と衣装をネタにブルージーに唸る。アップ・テンポなバッキングでコミカルに燃えた。
 "ライオン"へ演奏が戻る。ステージ奥のスクリーンにはライオンの絵がフリーハンドで描かれた。
 
 "犬姫"のイントロは川口のハーモニカと、小森のソプラノによるデュオだったかな?不破のキューで室舘彩、小山奈緒子、関根真理らがミニマルなコーラスを入れる。太田もメガホンを取り出し、なにやらしゃべるが、よく聞こえず残念。
 テーマは明確に提示されないが、コード進行とアドリブの感触で"犬姫"とわかる。室舘がやわらかく日本語の歌詞を載せた。歌が進み、あのメロディを朗々と歌った。

 ホーン隊が強く響かせる。そして、ステージがまばゆく照らされた。幾人かが立ち上がる。"ナーダム"のテーマが轟いた。
 後ろの幕が上がる。銀色の巨大オブジェが蠢いた。見る見る大きくなる胴体を背景に、アップ・テンポで"ナーダム"。不破が促し、吹きながらメンバーが客席を練り歩く。そのあいだに銀色の動物風船が膨らんだ。
 さやぺろが紐をひき、ステージからオブジェを引っ張り出す。客席上空へ十数メートルはありそうな抽象動物の風船が漂った。
 せり出しには室舘が飛び出す。オブジェを宙へ舞わせるかのように、大きく手を振った。
 不破がせり出しに現れ、大きくメロディを歌うしぐさ。ひとしきり中空に漂う風船は、やがてステージ奥へさやペロが戻す。すさまじい迫力だった。

 さらに新曲らしき曲。日本風味漂うどっしりしたメロディで、どこか聞き覚えあり。さやペロがステージ前でクライマックスを示すように大きく手を振った。鬼頭哲、吉田隆一のツイン・バリトン・デュオはこのあたりだった気がする。
 ステージ奥高台の幕が上がると、背中のみを見せた白塗りが身じろぎもせず立つ。背中へ赤い丸をそのばで描かれ、そろって体を揺らした。

 渡部が中央に立ち「渋さを初めての人は?」と尋ねる。パーカッションの軽快なイントロ。ギターが大きく、コードを鳴らした。
 スタンディングになり、初めてな観客も渡部のアクションに合わせて手を回す。"本多工務店"だ。
 ステージ後方にあきるので見たような、垂直のオブジェが4本、屹立した。銀色の動物オブジェも後ろで堂々と体を揺らす。上手の細密画も高々と上がった。
 ボンデージからサンバ・ダンサーへ着替えた2人が、高台でぐいぐい体を振った。おしゃもじ嬢も高台の上でにこやかに体を揺らす。
 メンバーが練り歩きを始めた。3階席の両翼からは、差し渡し10メートルはありそうな、巨大な手のオブジェが振り下ろされる。空気でふくらんだオブジェは、うっそりと動き宙を掴んだ。
 渡部が観客へ歌をあおり、幾度も奏でられるテーマ。客電がこうこうとつき、ステージから目潰し状にライトが刺される。

 ついに"仙頭"へ。高速テンポで駆け抜け、渡部が客をあおって皆で飛び跳ねた。着替えた服装が、さきほどのわかめ姿。頭に昆布を巻き、白ブリーフにランニングシャツ。背中に「渡部」と太字で書かれてた爆笑なかっこうだった。
 "ステキチ"で練り歩くホーン隊。ロビーで演奏続ける音が聴こえてる。せり出しに立った不破が、客席のあちこちへ向い、幾度も礼を言う。
 吹きながらメンバーが戻ってきた。ステージへあがり、拍手に乗ってどんどんテンポがあがった。

 「本当にありがとう。ばらしがあるので・・・すみやかにお帰りください〜」
 不破の愉快なコメントで、完全に舞台が終わり。メンバーが袖へ去り、渡部やダンサーらがステージ前へ一列に並ぶ。幾度も頭を下げ、手を大きく上げて拍手に応える。絵になる姿だが、肝心の中央に立った渡部が・・・わかめ姿でなんとも面白かった。

 演奏は渋さ知らズでありながら、よりステージングに凝った演出だった。洗練や構築をより先鋭化した。渋さの持ち味のひとつの、複雑な混沌さもしっかり残してる。舞踏とオブジェと照明でくっきり輪郭をつけた演出なステージ。
 今までとは一味違う新たな魅力を感じた、素晴らしく充実した舞台だった。

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