LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/11/26   西荻窪 音や金時

   〜ややっの夜〜
出演:太田恵資+佐藤研二
 (太田恵資:vc,vo、佐藤研二:b,vc)

 
 マルコシアス・バンプの手袋したスタイリッシュなベーシスト、ってイメージな佐藤研二が今夜のゲスト。太田恵資とはエレクトリック・ノマドつながりだが、デュオは初めてだそう。
 佐藤はエレベを3本、さらにチェロを持ち込む。後ろにはマーシャル。太田もエレクトリック・バイオリンを2本、アコースティックと豊富な機材を準備。足元のエフェクターやマイクのセッティングに手間取ったか、開演はちょっと押した。

 ちなみに今夜の佐藤は手袋無し。彼の演奏は初めて聴くため違和感無かったが、MCによるとどうやらすごく珍しいらしい。
 考えあって、素手で演奏してたようだ。

 客電が落ちて口上、ちょうど終わったところで来店した客が数名。
「ちょうど、一番いいところが終わったんですよ〜」
 とギャグの後、即興であらたに口上をもうひとつ。バイオリンで弾き歌う。ちょっと言いよどむ、不本意な出来で苦笑した。
 
 佐藤を早速呼び込み、トークをしばし。前回の"ややっの夜"で彼を誘うもスケジュール合わず。今回が雪辱戦だそう。
 太田に対して佐藤が強い印象を持ったのは、数年前にバッハ生誕記念のイベントでゲストに呼んだときという。
 バッハを弾きながら、「飲んだら飲むな、飲んだら乗るな〜♪」と歌う太田に「後頭部を鈍器で殴られたような衝撃が走った」と語る佐藤。 
 早速太田が「覚えてますよ」と一節。いろんな演奏をやってるんだなあ。

<セットリスト>
1.即興#1
 (休憩)
2.即興#2
3.即興#3
4.即興#4

 おもむろに演奏に入った。前半はインプロ50分をぶっ通し。
「この二人が始めたら、止まらないですよ」
 にやりと笑った、太田の予告どおりとなった。
 
 椅子に腰掛けた佐藤がエレベを構え、弦をはじいてはボリュームつまみをいじり、ロング・トーンを出す。静かな展開。ゆったりと幻想的な空間をしばし作った。
 太田は赤いエレクトリック・バイオリンを構える。

 さらに佐藤は小刻みに弦をはじくストレートなプレイに移行。太田はディストーションを軽く効かせた音色を使い、激しいボウイングのメロディで対抗した。
 ソロを幾度もやってるためか、単独で佐藤は音世界を作れる。
 最初は太田も様子を伺うように耳を傾けた。楽しそうに笑みを浮かべて。

 小節線をまたぐフレーズはあえて排除し、佐藤はタイトな8分や16分音符を連発した。ときおり裏拍でつっこむが、根本はパルスのように鋭いパターンで切り込む。
 太田はいったん弓を置き、シャープなストロークの刻みであおった。
 しゃにむに弦をはじく佐藤は、幾度も椅子を座りなおす。勢いあまって転げ落ちた。
 かまわず弾き続ける。太田は笑いながらあわせてかがみ、バイオリンをアルコで奏でた。

 とにかく佐藤の指が止まらない。高速フレーズを重ねた。
 最初は佐藤を立てた太田だが、次第に独自の色を繰り出した。
 大田はバイオリンを横へ置き、軽く弦をはじいて音響系風のループを作る。
 さらに埋め尽くすベースに耳を傾け、一瞬の隙をついてボイスを入れた。
 アラビックな歌声が、ジャストなベースのパルスに不思議と合う。カッワーリーに通じる熱狂が生まれた。
 
 太田のさまざまなアプローチに対し、ストイックなまでに佐藤はベースと格闘。しかしパターンは場面ごとに変わる。
 ある場面では3フィンガーで弦を弾き、ときにはタッピングとグリサンドを組み合わせたフレーズも。

 いったんは終わりかけた。しかし佐藤は演奏をやめない。40分ほど弾き続けて、楽器を置いた。太田はコーダのつもりか、バイオリンの旋律が高まる。
 ところが佐藤は新たなベースへ手を伸ばす。最初は4弦をもったがすぐに起き、5弦のフレットレスをひっつかんだ。ノイズもかまわずシールドをぶち込む力技に太田がにやりとした。
 さらに即興が展開した。

 プログレな広がりある長いリフを佐藤が提示。太田が猛然とバイオリンを弓でかきむしる。数本の毛が切れて垂れ下がった。
 佐藤はリフ一辺倒でなく、時折カウンターのフレーズも。
 ついに大団円。50分にもわたるパワフルなインプロだった。さすがに時計も確認せず、太田が休憩を告げた。

 後半はMCをたっぷり。"CMコーナー"と題し、まずは佐藤の告知から。太田の告知へうつった途端、
「ねえねえ、来月の音金スケジュール知ってる?」「うんうん。すごいよね!」
 と、太田が独り芝居を始めて爆笑を呼んだ。
 佐藤が大ファンというジャック・ブルースの話も。クリームの再結成ライブでのおおらかさなどを熱弁した。
 最初はチェロを片手でくるくる回しながら。話に熱がこもると横に置く。とたん、
「お、ついにチェロを置きましたね!」
 太田がにっこりつっこんだ。

 かなり長くしゃべった後、まずチェロとアコースティック・バイオリンのインプロ。
 滑らかなフレーズが次第に展開し、格調高いフレーズが飛び交う。2人とも弓弾き。早いパッセージの交換で音像がふくらんだ。
「いんちきバロックでした」
 佐藤が演奏後に笑った。バロック〜ハイドンあたりのイメージか。見事な構築で魅せ、終わったときに太田と佐藤ががっつり握手。
 MCが押したためか、10分程度の短めな即興だった。これ、もっと長尺でじっくり聴きたい。in-Fあたりでセッションないかな。

 続いて太田が「自由にやってください」とリクエスト。椅子に腰掛けた佐藤がエレベで即興をはじめた。ニコニコしながら太田が聴きに入る。
 高速フレーズを撒き散らし、ずぶずぶのブルーズに変った。エレクトリック・バイオリンを構えた太田が切り込む。ブルーズを基調に、佐藤が足場をしっかり固めた。リズム楽器の無い編成ながら、ベースだけでグルーヴをつくる。

 佐藤はジャストなビートを多用するが、タイム感は固めない。興の赴くまま、時折リズムを揺らす。
 太田が楽しげにバイオリンを弾き倒す、熱い盛り上がり。
「中学時代にバンド活動を始めたころのセッションみたい」
 終わったときに、2人が微笑む。

「これで最後ですかね」
 つぶやいて、佐藤は五弦フレットレスを持った。韓国製ベースで、この日がステージ初使用だそう。
 高速パルス状に低音を刻む。たまに拍の表裏をひっくり返しつつ、轟然と突っ込んだ。
 太田は赤いエレクトリック・バイオリンでメロディアスなフレーズをたんまり。音が駆け抜けた。
 タイトなベースへバイオリンが旋律を奔出させる。ぐいぐい高まる。コーダは二人息を合わせ、派手に着地した。
 
 後半は短めの即興を3つ。前半の骨太一本槍と趣を変え、バラエティをもたせた。
 純粋に演奏して楽しそう。「もう一度(ややっの夜に)出演もありですね」と太田が詠嘆した。

 佐藤が袖へさがり、静かにエンド・テーマを。
 深く頭を下げる太田。ステージが溶暗する。
 バンドの初期衝動を炸裂させたごとく、シンプルに楽しい即興が連発。果てしなくフレーズを展開させる佐藤のプレイも堪能できた。

目次に戻る

表紙に戻る