LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/11/25   千歳烏山 TUBO

出演:川下直広トリオ
 (川下直広:ts、不破大輔:b、岡村太:ds)

 頻繁にライブを重ねる川下直広トリオだが、ぼくが聴くのはワンマンだと今年の3月ぶり。
 会場のTUBOは初めて。駅から徒歩5分ながら、土地勘無くちょっと迷う。椅子席のキャパは30人くらい。店内奥にフラットなステージをつくった。
 右手が岡村太の1タム2シンバルのシンプルなセット。左手に不破大輔のウッドベースが置かれる。
 このバンドはなってるハウスで聴くことが多い。そのときとはドラムとベースの位置が逆で、なんだか新鮮だった。

 20時を回った頃、おもむろにメンバーが楽器を構える。
 不破がチューニングをする傍ら、いきなり川下が無伴奏でソロを始めた。
 冒頭から音を軋ませ、バップなフレーズを重ねる。ベースとドラムも加わり、ハードにひとしきり盛り上がった。
 いったんブレイク、再び無伴奏テナー・サックスで"梅六個"のテーマ。アドリブへ・・・一気に弾けた。

<セットリスト>
1.梅六個
2.Vienna
3.You've Got To Have Freedom
(休憩)
4.股旅
5.Funny Life
6.至上の愛(第二楽章)
7.New Generation
 Thanks to 3100男さま、よしのぎんじさま

 岡村は曲によってドラミングのパターンをくっきり変える。"梅六個"ではジャングル・ビートのように、激しく連打した。ハイハットをせわしなくジャストで踏みっぱなし。いまいち聴こえなかったが、おそらくバスドラも同様。
 手はまったくハイハットを叩かず、刻みはライドを使う。足のハイハットと二重に刻むかっこう。
 ダブル・ストローク気味に左手がスネア、タム、フロアタムをひっきりなしにまわり、猛然と勢いを作った。

 不破が額の中央へネックを捧げる、独特のスタイルで激しく弦をはじく。
 1stセットではウッド・ベースの音が小さめで、良く聴き取れず。しかし指の動きはすさまじかった。
 細かなフレーズまでぼくの耳では聞き分けられずとも、響きは無論耳へ入る。
 川下が吹き続けるアドリブの後ろで、不破がコードを変える。そのたびに空気ごと雰囲気が変化する。
 全体像自体をごっそり移動させる、ベースの存在感がかっこよかった。

 循環呼吸を使いつつ、川下は鋭いまなざしで鳴らし続ける。フラジオがアドリブへ自然に混ざって雄たけぶ。
 川下の額に汗がにじむ。不破も汗まみれ。ふっと川下がサックスを下ろし、袖へ向かった。
 岡村のドラム・ソロが轟く。バッキングのときより、わずかにテンポを落として。ソロ中は緩急を効かせた。
 
 ドラム・ソロが終盤に差し掛かり、のっそりと川下がテナーを持ちステージ中央へ。
 "梅六個"は30分ほどぶっ続けだった。

 MCは何も無い。続けて美しい旋律の曲"Vienna"に。クリフォード・ジョーダンの作品だそう。
 この曲では、テナーのマイクへリバーブがたんまり強調された。テーマはすぐさま変貌し、サックスのアドリブへ溶けてゆく。
 ドラムはハイハットの踏みをキープし、手はスネアを中心に穏やかに叩いた。
 中盤でベース・ソロが入る。テンションがぐいぐいあがり、とびきりの速弾きも飛び出した。
 かすかにうなりながら不破の指がウッドベースの指板を駆け抜ける。

 1stセット最後が"You've Got To Have Freedom"。イントロでテナーが甲高いフラジオを、断続的に鳴らす。どの曲もスピード感溢れる熱演だった。
 川下はどっしりと体を立てて、休み無く吹き倒す。
 テーマの断片が顔をのぞかせたと思うと、すぐに自在なインプロへ。即興の奔流。

 ベースの指使いがダイナミックで、ずっと見てた。
 最初はネックの上のほうで指を押さえる。ところが後半に中央へ指が下りて、4弦から1弦まで素早く指が押さえ歩く。
 フレーズは残念ながら聴こえづらかったが、メロディアスなベース・ラインが興味深かった。

 この曲では岡村のドラム・ソロも聴きもの。手数は多いフレーズのパターンが、テーマを歌うかのごとく。時にカウンターへ回りつつ、アクセントが旋律の譜割とばっちり一致してた。
 不破が汗をぬぐい、ガラムへ火をつける。
 がんがん押したあと、ドラムのソロがテーマのパターンを提示。1コーラス無伴奏で叩き、すぱっと入るテナー。
 アドリブからテーマへ。
 不破はくわえタバコのまま、激しく指を動かした。

 2ndセットは"股旅"から。川下の5拍子カウントで、無造作にテナーがテーマを吹いた。
 ごつっと力強いアレンジ。渋さでの開放感とは違う推進力だ。
 テーマを幾度も繰り返さず、川下はすぐアドリブへ行く。
 後半セットではベースの音量がわずか上がったように聞こえ、よりアンサンブルへのめりこんだ。

 "股旅"ではドラムとベースのソロだったかな。初めて、岡村はフロアタムの奥に置いたカウベルを数度叩く。
 ベース・ソロでは音量を抑え、すっとブラシへ持ちかえる。
 テーマをテナーが提示。いつのまにかドラムはスティックへ変わってた。これも20分くらい。たっぷりと展開した。

 チューニングを不破が再度行う。ちらり眺める川下へ手を振り、演奏を促した。
 抽象的なフリーを無伴奏でテナーが鳴らす。
 しばらくして不破と岡村が同時に、音を重ねた。
 ベースはポリリズム気味にアクセントをずらす。やがて、クールで複雑なメロディへ向かった。

 川下のオリジナル、"Funny Life"へ。
 ドラムはカウベルを積極的に取り入れるパターンへ。
 にこやかに平然と高速テンポを鳴らし続けた。熱気とは違う、寛いだアップ・テンポのフリー・ジャズ。

 つづけざまにサックスがイントロを吹いた。テーマへ雪崩れる。コルトレーンの"至上の愛(第二楽章)"。
 "股旅"よりもさらに濃度を増した、リズム隊のごっつり感が楽しい。ドラムとベースのコンビネーションは、グルーヴィに踊る。それぞれのソロで顕著だった。
 黒っぽく粘るビートを足がかりに、アドリブを振りまいた。
 ドラムはライドを連打の、高速4ビート攻撃。

 最後はドラムの無伴奏ソロになった。
 ガシガシつっこんだあとに小節の頭だけ、シンバルを強打する。一打ち、ふた打ち、そしてもう一度。
 岡村が視線を投げ、川下がテナーを持つ。
 最後の一打ち。即座にアンサンブルが炸裂した。
 
 終わりかと思ったら、テナーがゆったりテーマを吹く。"New Generation"を半分のテンポで。
 岡村が笑顔の横目で、川下の様子を伺った。
 体を揺らさず、いきなりインテンポのテナー。不破と岡村は平然とあわせた。高速8ビートのロックンロール。
 "New Generation"ではドラムとサックスの4バーズ・チェンジで盛り上がる。馴染んだ光景が、今夜も爆発した。岡村は顔をぎゅっとしかめ、笑いながらスネアを連打。
 不破はここぞと矢継ぎ早に弦をはじきつづけた。

 前後半とも約1時間弱。前よりもタイトさが増し、一体で突き進むパワフルさが痛快だった。ぐいぐいと体が押され、のめりこむ。聴いてて元気が出るライブだった。

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