LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/11/18   西荻窪 アケタの店

出演:明田川荘之ソロ
 (明田川荘之:p,オカリーナ)

 "アケタの店"深夜、ピアノ・ソロの月例ライブ。
 今月末にリリースされる新作CDのレコ発な趣きだった。コンボ編成でも11/20にアケタの店でレコ発ライブある。だから今夜は、違うアプローチかと思ってた。
 0時半頃に、おもむろに明田川がピアノへ向かう。それを追うように、客電がぱちぱちと消えて暗闇が覆った。客席後方のスポットライトに、眩しく灯がともる。

<セットリスト>
1. ?
2. ? (オカリーナ)
3.アルプ
4.外はいい天気
5.アケタズ・ブルーズ(?)
6.マイ・フーリッシュ・ハート
7.アイ・クローズ・マイ・アイズ(?)
8.黒いオルフェ
9.ブラックホール・ダンシング
10.ロマンテーゼ
(アンコール)
11.アフター・ユーヴ・ゴーン

 曲名をほとんど紹介せず、かなりの場面でメドレー式に演奏された。
 まずイントロっぽくジャジーな曲を弾く。聴き覚えあるが、タイトル失念。
 ペダルの踏み方がダイナミック。あるときは踏みっぱなし、違う場面ではまったく踏まず。
 テーマが滑らかにフェイクされ、基本構造を踏まえつつアドリブへシフトする。
 早速うなり始めたが、比較的さらっと曲は終わらせた。

 ペダルで最後の和音を残響させつつ、足元から二つのオカリーナを準備する。
 残響が消えると、素朴に明田川は吹き始めた。

 まずは大ぶりのオカリーナを。バロックっぽいフレーズ使いで、トッカータのように音がころころと上がっては下がる。タンギングをしっかりと、旋律を組み立てた。
 ひとしきり吹いたら、小さなオカリーナへ持ち替え。同じ曲の続きで、いっきにテンポを上げる。
 タンギングを抑え、長い息継ぎのタイミングで軽やかに鳴らす。ときにブレス・ノイズが漏れるほど、強いアタックも。

 そしてメドレーでピアノへ戻る。
 抽象的なフレーズでイントロをつくり、テンポの速い"アルプ"へ。風変わりな響きの和音を頻繁に混ぜたアドリブだった。
 アタックは強く、しゃきしゃきと突き進む。速度も自在に揺らし、アップ・テンポから唐突にゆったりと。うなり声が激しくなり、咳き込むほど。

 立て続けに3曲続け、いったん曲を締めた。拍手のなか、
「昔からやってる曲です。"アケタズ・ブルーズ"」
 と、明田川がつぶやいた。聞き覚えあるが、いまひとつ曲名が自信ない。
 構成によってはライブの最後に弾かれ、クラスターまみれになる曲。今回はフレーズこそ激しく鍵盤が叩かれるものの、メロディを生かしたアドリブだった。

「この店ではあまりやってない曲です」
 前置きで演奏した"マイ・フーリッシュ・ハート"。深夜ピアノ・ソロで、ごくたまに披露される曲ってイメージ。ツアーではよく演奏しているのかな。
 イントロは細川たかしの"心残り"。次第にフェイクし、アドリブへ抜ける。このあたりから、曲が長尺になった。
 実はこの日ちょいとぼくは疲れてて、中盤では少々うとうとと聴いていた。

 続いてジャズのスタンダードを1曲、はさんだ気がする。"アイ・クローズ・マイ・アイズ"かな?いまひとつ自信ない。
 ミドル・テンポでじっくりとフレーズが崩され、高まった。

 曲は"黒いオルフェ"へ。一番長尺だったのがこれ。思い切り情熱的に、うなりながら弾きまくった。
 テーマが顔を出しては、アドリブに埋もれる。ぐいぐい押す演奏が心地よい。
 メドレーで"ブラックホール・ダンシング"。途中でふとブレイクをいれ、ピアノの内部奏法。
 ゆったりしたテンポで、きりりり、とピアノ線を爪弾いた。ペダルを踏み分け、残響有無も付加して。

 テーマを強いアタックで、あっさり1回のみ。すぐ即興へ向かった。
 顔をしかめ、鍵盤を豪快に叩く。どこか一音、ホンキートンクな響き。ピアノ線が切れたかな?
 コード進行上たまたまか意図的かは不明ながら、明田川はその音を執拗に使ってアドリブを組み立てた。左手で鈍い響きの音を含めて和音で叩く。
 
 しだいに音へクラスターが増える。ひじ打ち。手で。かかとが落とされる。
 立ち上がって「むう〜!」とうなりながら、全身でピアノを押すしぐさ。これははじめて見るアクション。
 テーマの骨格はわずか残るが、ほぼ全編がクラスターにすり替わった。
 ピアノの鍵盤にかぶせるフェルトをわしづかみ、明田川は上から下まで勢い良くグリサンド。この奏法も初めて見た。
 
 息を切らせながら、かっちりとテーマへ戻って曲をシメた。
 そして、ライブは続く。
「今日は新しいCDの曲が中心です。最後は"ロマンテーゼ"。昔からやってる11拍子の曲だけど・・・最近、やっと弾けるようになりました。
 このCDが出口の通行票になってるので、是非買ってください」
 にやりと明田川が笑った。

 確かに今夜のライブは、CDの6曲中5曲を演奏。さらに(3)〜(4)、(8)〜(10)は曲順構成まで一緒。ここまでCDにリンクさせたセットリストとは。
 ちょっと早いのテンポで明田川のオリジナル曲"ロマンテーゼ"。今までライブで幾度も聴き、同タイトルのCDも聴いてきたが・・・恥ずかしながら11拍子だと、初めて知った。

 8分音符が軽快に美しい旋律を奏でる。数えると、確かに11拍子だった。
 アドリブが優しく展開し、暖かくライブが幕を下ろした。
 微笑んで挨拶し、明田川がステージを降りる。
 観客は誰も帰らずに、しばしのんびりしたムード。そのためか、深夜ライブには珍しくアンコールがあった。

「オカリーナ教室でやる曲です。テディ・ウィルソンなんかが演奏した、スイングの名曲。聴けば、知ってるかな。
 指を鳴らして、リズムとってください。最後に"うぉー"(?)とやってもらいます」
 明田川がテンポを提示し、裏で指を観客が鳴らす。明田川は特大のオカリーナを抱え、そっと吹いた。

 アドリブは結構長め。ずっと指を鳴らしてたが、続けるのはつらいと改めて実感した。指が疲れて鳴らなくなる。ムキになって指を動かした。
 最後にフレーズが終わると、明田川が期待して顔を向ける。が、ノーリアクションな観客に、がくっと苦笑して崩れ落ちた。
 なにか「うぉー!」とか言うのかな?すいません、良く段取り理解してませんでした・・・。

 約80分の演奏。奔放に演奏は展開する一方で、かっちりした構成の目配りも効かす、バランスとれたライブだった。

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