LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/11/14   大泉学園 in-F

出演:谷川+太田+佐藤
 (谷川賢作:p、太田恵資:vln、佐藤芳明:acc、guest:佐藤浩秋:b)

 挨拶から間をおかず、谷川賢作はピアノの中へ手をつっこんだ。ピアノ線を一音、また一音。指ではじいて響かせる。
 そのまま鍵盤を押さえ、やがて普通にピアノを弾きだした。
 佐藤芳明が左手でアコーディオンのボタンを押したまま、ゆっくりと蛇腹を開いてロングトーン。太田恵資がピチカートからふくよかなアドリブへ進む。
 
 この3人によるセッションは3回目だという。第一回目の、今年の6月ぶりに聴いた。
 前半は4〜5曲を演奏。すべてが谷川のオリジナルか。メロディがふくよかに、ロマンティックで躍動した。
 太田や佐藤のサウンドも寛いで広がる。それでいて根本には、即興的にフレーズが広がる緊張感あり。
 メンバーの前は、きっちり楽譜が並ぶ。テーマからアドリブに雪崩れる一方、曲の途中で頻繁に明確なキメが現れる。かなり構成された音楽のようだ。

 2曲目あたりで演奏された音像へ、とっても惹かれた。
 美しいテーマから、太田の滴るようなメロディの即興へ。気分はフランスの街角。タンゴの要素もあるのかな?
 とにかくヨーロッパっぽいイメージの音世界にしびれた。
 ぞんぶんにバイオリンはアドリブを取り、アコーディオンへソロをまわした。

 前半はMC控えめ。後半にそなえて、と谷川は言葉を控える。さりげなく佐藤がぐさっとつぶやくやり取りが面白かった。
 一曲づつ曲名も紹介したが、いまひとつ聴き取れず残念。

 前半最後はカバー集の第二弾、らしい。
「曲名は・・・"男はつらいよ"です」
 と、谷川が明かしてしまう。
「言わないほうが面白いのに〜」とすかさず、太田が漏らした。たしかにこれ、曲名知らず聴いたら、めちゃくちゃ意外で楽しみ増えたかも。
 
 ごくごく日本歌謡っぽいメロディのはずながら、谷川のピアノ・ソロでのイントロはとびきりジャジー。
 テーマを溜めてフェイクさせるくだりはオリジナルとの違和感に噴出したが、アドリブにつながるとすっかり馴染む。ジャズの世界観に、"男はつらいよ"が溶け込むとは。

 ちなみにバイオリンからアコーディオンへソロが回る。意識してないかもしれないが、次第に日本風味の要素が増して面白かった。
 特にアコーディオン。きっちりアドリブしているが、音色そのものがなんとも素朴に聴こえちゃって・・・飲み屋の流しをつい連想しちゃった。
 
 前半のロマンティシズムと対照的に、後半はコミカルさとクール・ジャズにこだわった構成か。
 まずは谷川親子が膨大に書いているらしい、校歌を3曲続けて演奏。小中高から1曲づつ選ばれた。地方はまちまち。20年くらい前からやっているそう。
 なお中学(だったかな)は佐藤の母校とごく近所だそう。
「もし佐藤くんがここに通ってたら、もっとぼくを尊敬してただろうな」
「通ってなくてよかった〜」
 いたずらっぽく谷川がつっこむと、すかさず佐藤が切り返した。

 ピアノの伴奏でリバーブを効かせた谷川が、朗々と次々歌った。曲によっては佐藤や太田がアドリブをつける。インプロ部分はほとんどなし。さらっと弾いた。
 佐藤はアコーディオンへ当てたマイクを握り、コーラスを入れる。
「アコーディオンの音質を犠牲にしてコーラスを入れる!素晴らしい!」
 と、太田がからかった。

 ハモりそこない、キーが違ってとっちらかりと、アンサンブルは若干ばらつきあり。ひとひねりした企画と聴くべきか。笑いが頻繁に飛ぶ、楽しい一幕。
 流麗な谷川の音楽性が校歌にはまるんだな、と思いつつ聴いていた。
 谷川曰く、校歌に「校名連呼無し」が流行な時もあったそう。実際、今回の校歌はどれも、土地の名前をさりげなく織り込む程度だった。

 続いてクール・ジャズのコーナー。このユニットでは定番らしい。
 ソロが終わるたびに拍手が飛び、いきなり世界がジャズ・クラブへかわった。

 サポートのウッド・ベースでマスターが加わる。ずびずび押すウッドベースの低音が、がっしりとアンサンブルを支えた。
 マスターは食いつきそうな顔で譜面を見ながら弦を激しくはじく。アドリブでは熱気あるフレーズを連発。

 リー・コニッツ"サブコンシャス・リー"を筆頭に、2曲続けて。
 太田がほぼ初見状態らしい。曲によってはアドリブになったとたん、ちょこんとひざへ手を乗せて聴きに入るポーズが面白かった。アドリブになったとたん、活き活きと音が弾む。
 まっとうに弾きこなすのは谷川のみ。ほかは落ちたりろれったり。アンサンブルは正直ばらつきあった。
 2曲目か3曲目ではテーマのカウンターで、ばしーんっと強くベースが弦を叩きつける瞬間がかっこよかった。

 アドリブでは誰もが快調に飛ばすが、谷川の安定した弾きっぷりがやはり目をひいた。さりげなく高速のキメをとりまぜる、いかしたピアノ。
 めまぐるしく切り込み、サウンドを引き締めた。

 3曲目が高瀬アキ"ミスター・ビート"。かなり前の曲らしい。ダイナミックなフレーズだった。
 谷川を除いては譜面首っ引きながら、アドリブでは長尺で聴き応えあった。
 ベースが加わったクール・ジャズのコーナーは4曲。テンポが速いのと、アドリブが長くともテーマがあっさりなので、進行はさくさくだった。

 最後の曲は3人で。谷川のオリジナルかな。クール・ジャズにディキシーを混ぜた感触のテーマ。ユニゾンでいっきに突き進むだけでなく、互いに楽器が絡んだ。
 緩んだ雰囲気をきゅっと締める演奏。ソロもたっぷりあり。
 
 アンコールの拍手が止まらない。相談の結果、バラード版"鉄腕アトム"をやることに。
 幻想的に動くオリジナル曲のイントロのフレーズを、さりげなく谷川がピアノで奏でた。
 "男はつらいよ"同様なピアノの崩しっぷりは、ジャズとしてごく滑らかに耳へなじむ。
 メロディを活かしつつ、最初は1コーラス。どっぷりアドリブを混ぜ、もう1コーラス。
 そしてソロはバイオリンへ回る。最初の1小節くらいのみメロディを踏まえ、あとは奔放に太田はフレーズを崩した。原曲を良く知ってるだけに、アドリブ具合が良くわかって興味深い。
 佐藤はたしか、完全に原曲を解体したアプローチ。独自の音使いだった。

 前半と後半でかなり印象が変わるユニットだ。難曲を初見に近い状態で、果敢に挑戦するのがコンセプトになりそう。結果的に。
 ロマンティックで構築度高い前半のアンサンブルが、めちゃくちゃ聴きもの。
 それでいて後半のゆるい雰囲気と、クール・ジャズでガシガシ押す構成も楽しい。
 あえて硬軟取り混ぜバラエティさを意識した、幅広いステージ進行が楽しいユニットだ。
 多忙の3人でなかなかスケジュールは組めなさそうだが、ぜひ継続して欲しい。次回は2月の14日かな?

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