LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2006/11/12 吉祥寺 Grid 605
〜(vol.17) "koedarake"〜
出演:巻上公一ソロ
(巻上公一:voice,口琴,etc.)
Grid605での巻上公一による声+口琴のパフォーマンス。当日券がでるくらいの入りで、若干空席も。もったいない話。わずか一時間ながら、アイディア豊富で濃密な巻上の演奏を堪能できた。
ステージにはマイク一本。横のかばんから、次々と口琴を出す。テルミンは無し。ライブで見る芸は、ボイスも口琴も素晴らしくスリリングだった。
以前のin-Fの"巻上+太田"で見た、拳銃型の口琴を持つ。
「最初は口琴からやりましょう。口琴って、今まで聴いたことない人?」
のんびりした口調で、観客へ尋ねた。何人かが手を上げる。にっこり笑う巻上。
「・・・普通の口琴からやりましょう」
<セットリスト>
1.口琴#1
2.ボイス#1
3.口琴#2
4.ホーメイ#1
5.口琴#3
6.口琴#4+ボイス#2
7.ボイス#3:演劇、冒頭で逆回転
8.笛
9.木製トランペット
10.ボイス#4
11.口琴#5
(アンコール)
12.羽状口琴(クラフトワークの曲)
オーソドックスな口琴を構え、静かに響かせた。マイクで拾って、細かな音まで聴こえるのが嬉しい。
1.構えをまったく変えず、口腔で操作かな。一定のビートで震わせ、微妙なピッチの違いを出した。次第に音色は複雑に、たっぷりの倍音を含ます。
巻上は表情をさまざまに変え、ランダムに音程を上下させた。
くっきりしたメロディ展開こそ無いが、たゆたう雰囲気で欠片も停滞せぬ変化あり。初手から刺激的なサウンドをばら撒いた。
2.純粋なボイス・パフォーマンス。すっと背筋を伸ばして立ち、奇妙な呟きから多彩に声色が変わった。ビートやテンポはぼやかせ、果てしない即興の渦へ突入。
コミカルに表情も変える。しかめっ面から瞬時に目を見開き、頬や口がのべつまくなしに動く。
演劇的な世界観が広がった。後半のパフォーマンスに比べ、よりパーカッシブな声に軸足を置いた。
CD"KOEDARAKE"ではビートをある程度意識したが、ここではとことんフリーに動く。かなり長尺。喉を、頬を、声帯を楽器として操った。巧みに、トリッキーに、自由に。
3.拳銃形の口琴を使用。メロディアスな音程を作りつつ、口腔の操りで響きは複雑に。
スライドを動かし音色を変えた。これはけっこうビートを意識したかな。
前の即興がインパクト強く、正直なところ記憶があいまい。
4.ホーメイ。唇を震わせ、単音からメロディへ。ドローンをホーメイで作りつつ、じわり音程を上下へ振動させた。ビートや展開はまったく違うが、トランス・テクノやジャジューカに通じる、瞑想性や中毒性を持った酩酊を誘う。
淡々とストイックに突き進んだ。
5.ドイツ(?)製の口琴。三つの口琴をひとつながりにして、それぞれで音程を出す。
「ドイツではピッチを変える口琴は好まれないらしい。アジアと違うね」
MCで巻上が解説した。くっきりとテンポを明示し、フレーズごとにせわしなく口琴を吹き分ける。
演奏では口腔で微妙にピッチを変えた。故意は不明だが、吹き継ぐとき微妙に唇から離して口琴をはじく。
エコーの少ない響きから、口で膨らます倍音たっぷりな鳴りとの差異が興味深かった。
6.アメリカ製、と言ったと思う。長い棒を口に当てるタイプの口琴。前述の巻上+太田でも披露。先日の新大久保ジェントルメンでは、仙波清彦が巧みに高速ビートを提示した楽器だ。
唇の前でせわしなく叩く巻上は、やがて声も混ぜた。鋭い打音がコミカルなボイスとあいまり、複雑なボイス・パーカッションに昇華した。
7.声のみの即興。腰掛けて声を絞る。すぐに立ち上がり。やがて老人や女性を演ずるかのように、即興ボイスでまくし立てた。手を振り上げ、振り下ろす。
前半の喉を切る響きが面白かった。逆回転テープのように、急峻に息を止める。
ひたすらロングトーンで猛然と唸ったのもここか。
ドラマティックな展開は、外国語の演劇を見ているようだ。矢継ぎ早に繰り出す声は、どれもまったく違う響き。百面相とあいまって噴出するアイディアの奔流がすごかった。
8.杖状の黒い笛。初めて見た。胴に指孔はなく、握り部分の吹き口で音程を変える。筒の先を指で鋭く押さえ、響きに変化をつけた。実際、どうやって音程を変えてるのか想像付かない。
次第にソウルフルな盛り上がりを見せた。ぐいぐいとリズムで押した。なおかつスパスパ歯切れいい鳴り。心地よい。
すっごくポップで、いかしたパフォーマンスだった。
9.ウクライナ製、と言ったかな。木製の縦笛だが、響きはトランペットのごとく。
「これ用の曲を知らないんだよね。独特の吹き方かも」
韜晦して演奏を始めた。硬質に空気を震わす。低音を多用し呼気を含ませ、ざわめく音質で。
後半はフルートっぽく構えた。楽器は口へ添えるだけ。全て声で、ハイピッチの高速フレーズをまくし立てた。抜群のリズム感で突っ走った。
10.もういちど、ボイスのみのパフォーマンスがあったはず。今度は息を吸う音がメイン。唇を尖らせて顔をしかめ、吸気とともに喉をひねって音を重ねる。
やがてまくし立てに。ここではかなりメロディアスなアプローチだったと思う。フレーズは全て独特のシンセ声だが、音程のレンジを広げて旋律により近づいた。
ダイナミックで聴き応えあるプレイだった。
11.最後がベトナム(?)の口琴かな。
執拗に口琴をはじき、唇で微妙に音程を変える。展開は抑え目に、じっくりと口琴と対峙した。リズミカルに響く。マイクへ口を寄せて、ぶわっと鳴らした。
最後は唇から口琴をはずし、単体の響きのみでしばしはじいた。
楽器を置き、両手を拝むように合わせて終わりを示す。一時間強、ぶっ続け。
口琴は頭蓋骨に響いて、奏者は気持ち良いらしい。穏やかな笑みで巻上は挨拶する。
客電ついたが、巻上は新たな口琴を取り出して説明。5つの鉄製の羽をあわせて、メロディを出せる楽器だそう。演奏予定だったが、一音壊れて響かなくなったとか。
楽器を試しに鳴らしてみる。4つの音でつむぐメロディはどこか聞覚えあるとおもったら、
「この曲知ってる?クラフトワークだよ」
そのままなし崩しにアンコールに。声をかぶせながら羽をはじく。クラフトワークの曲を演奏しながら、軽く即興を混ぜた。
声と口琴だけでまったく飽きないステージだった。
多彩な声色は手癖(口癖かな)要素がまったく無い。ライブだと巻上の表情がさまざまに変わるのも見所のひとつ。コミカルなほどに顔を変えながら、バラエティ豊かな声を絞る。必然性ある表情かもしれないが、声とあいまって不思議な空間を作った。
Grid605特有の寛いだ静かな雰囲気で、滑らかな異世界へ誘われた。