LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/11/10   入谷 なってるハウス

出演:渋さチビーズ
 (小森慶子:as,ss、立花秀輝:as、不破大輔:b、木村勝利:ds)

 なってるハウスへつくと、小森慶子がステージで入念にリードを選んでいた。音慣らしをBGMでかかってたジャズにあわせて吹いてて楽しかった。
 今夜はひさしぶりに木村勝利がドラマーな、珍しい編成のチビーズ。観客はさほどの数でも無く、意外だった。
 そのためか今夜のチビーズはひときわ自由度高い。奔放でこってりしたフリー・ジャズを、たんまり楽しめた。

 メンバーがステージへ上がる。木村がまず、どう進めるか不破大輔へ視線を投げた。
 にやりと笑った不破は、無造作にベースを鳴らした。
 小森がアルト・サックスを構える。

<セットリスト>
1.即興(incl.バルタザール(?))
(休憩)
2.即興(incl.大沼ブルーズ(?))〜股旅
3.悪漢(?)

 各セット1時間。即興では他にも曲が織り込まれた気もするがタイトル浮かばず。上に挙げた曲名も自信ない。決め事まったくなしで演奏したみたい。
 ベースの爪弾きへドラムがあわせる。4ビートを意識せず、パーカッシブに叩いた。小森のアルトが静かに、やがて高らかにフレーズを奏でた。
 立花秀輝もフリーにつっこむ。やがて小森のアルトがぐいっと前へ出た。

 彼女のサックスでは1stセット、前半でのフラジオがべらぼうにきれい。
 音へひときわツヤがある。音色が自然に軋み、フレーズが滑らかに高域を駆け抜け、かすかに揺れる。
 2ndセットでもフラジオを聴かせたが、それともちょっと違う。何が違うのかわからないが、とにかく1stセット最初の響きは格別だった。

 小森のソロの後ろで、ベースとドラムが猛然と疾走する。不破は激しく足を踏み鳴らしつつ弦をはじき、豪快なファンクを提示した。木村は場面によってマレットへ持ち替えて、がっしりとグルーヴを支える。
 リズム・パターンを奔放に変えて、ロックっぽいドラミングな場面も。

 ずっとアドリブを続ける小森。ステージ脇へ下がった立花をあおるように、鋭く吹く。立花は脇にたったままでオブリを重ねた。
 ひとしきり彼女のアドリブが続き、おもむろに立花がステージへ戻った。
 なぜか彼は、チビーズだとステージぎりぎりに立つ。もっと中央でがんがん吹いてもいいのに。

 今夜の立花はフリーキーな音色を控え、メロディも多分に意識したアドリブを聴かせる。力強い音使いだった。
 舌の上にべろんとリードを乗せて吹き倒す。すごいな。体調悪いらしく、フレーズの切れ目で猛烈に咳き込むひと時まであった。

 いったんテンポが下がりかけた。不破は無造作に強く弦をはじく。
 単音を規則的に。どっしりしたパルスへドラムが応え、再びテンションが高まる。小森がソプラノへ持ち替えた。
 ちらりと不破へ視線を投げる小森。笑顔で合図を返す不破に、向き直ってソロが吼えた。

 場面によっては明確なコード進行を感じる。曲名を思い出せず。テーマへはまったく行かず、サックスの二人は奔放にフレーズを展開させた。
 特に曲でなく、たまたまのコード進行かな。
 1stセット後半ではほんのちょっと"バルタザール"のテーマを、小森が吹いた気がする。

 フロントは長尺のソロを交互に。時にはクロスフェイドで交代する。
 寝不足がたたったか、最後は半分朦朧としながら聴いていた。
 演奏のテンポが次第にさがり、収斂していく。サックスが吹き止め、ドラムも手を止める。
 すうっとベースが弾きやめた。

「・・・終わってしまいました」
 不破がにっこり笑って、1stセットが終了。立ち上がった彼の額も体も、汗みどろだった。

 後半はベースとドラムのデュオから。最初はソロ気味に、猛然と弦が次々振るわせた。スネアの響き線が、共鳴する。
 次いでドラムが応えた。テンポを次々変えながら、進み方を探る。アンプに腰掛けた小森は横にあるピアノのふたを開閉し、こつん、こつんと鳴らした。

 リズム隊のバトルに続き、ソロを取ったのは彼女か。このセットも最初はアルトにて。
 体を揺らせ、ステップ踏みながらアドリブを膨らます。滑らかな音色で快調に飛ばした。
 
 交代した立花のアドリブは、2ndセットで冴え渡った。風邪で喉がつらいらしいが、うつむき加減で吹き倒す。スピーディなのに譜割がゆったり感。
 ほんのり抑えた音色がつむぐ旋律は、フリーキーさと歌心が行き交いして、とても良かった。袖に腰掛けた小森が思い切り体をひねり、下から覗き込むように立花のプレイを眺めてた。
 
 ついに立花のソロがクライマックス。すっと静かになった。
 ブラシに持ち替えた木村が、鋭くスネアを叩く。
 ソプラノに持ちかえた小森がアドリブを取った。不破は弾きやめ、タバコをくゆらす。
 サックスの中近東っぽいフレーズが、"股旅"の世界へシフトした。ドラムがジャスト・ビートで刻む。タバコをもみ消し、不破が下からあおる。
 ソプラノのベルを高々と上げ、テーマのフレーズを一鳴らし。立花がオブリを入れた。
 ドラムへ向かって、小森が高らかにカウント。"股旅"が駆け抜けた。

 立花と小森は役割分担を滑らかに変えて、テーマとオブリを吹きあった。
 サックスのソロも、存分に。ここでも立花が濃密なソロを取る。旋律を解体し、活き活きしたメロディだった。

 最後はドラム・ソロへ。スティックが激しく振り落とされる。テンポはスネアのロールで曖昧になり、新たなリズムになった。
 熱気あるプレイに、ハイハットが前へ泳ぐ。叩きながらすかさず、木村が足で引き寄せた。 
 さりげなく不破が右足でハイハットのスタンドを押さえる。
 それに気づいたか、ドラム・ソロがひときわ強まった。 

 "股旅"もエンディングは盛大なコーダでなく、静かに終わった気がする。
「ちょうど良い時間に終わりましたね」
 手を目の上にかざし、時計を確認する不破。
「わ〜ん、わ〜ん、わ〜ん、わ〜ん」
 ゆったりした不破のカウント。演奏されたのは、なじみの"仙頭"じゃ無かった。

 スローバージョン・・・かな?"悪漢"かな?自信無い。奇妙にぶつかり合う和音をサックスとベースが作り、混沌へと進んだ。アドリブらしき場面も含め、5分近くたっぷりと演奏してたと思う。
 てっきり"仙頭"で終わると思ったから、うれしい誤算だった。

 木村のジャストでパターンに収まらぬドラミングが、アンサンブルを締めた。
 自由な演奏がばっちりハマった、スリリングで濃厚な素晴らしいライブだった。

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