LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/10/21   新宿 Pit-Inn

出演:水谷浩章 presents "柳原陽一郎 Night"
 (柳原陽一郎:vo, g1、水谷浩章:b、外山明:ds、高良久美子:vib, per、
  MIYA、太田朱美、?:fl、橋本歩、平山織絵:vc、松本治、小澤惟史、tb
  宮里陽太:ss,as、石川広行:tp、三住和彦:sound)

 ピットインでの水谷浩章3daysの最終日。昨年リリースされた柳原陽一郎"ふたたび"を水谷がプロデュースした縁で、柳原をフィーチュアしたライブが行われた。当時は関連したライブがなかったらしく、「一年遅れのレコ発」だ、と柳原が笑う。
 彼自身はピットインが伊勢丹裏の頃、幾度も聴きにきていたそう。
「当時、すでに出演してたよ・・・」
 松本治がそれをきき、苦笑する一幕も。

 ステージはコンボ編成に加え、フルート3本、チェロ2本。サックス1本に金管3本と豪華な編成。ビッグバンドとも違う、個性的な組合せが楽しい。音響担当で三住和彦も告知される凝りっぷり。
 曲によって「フルート3本にしたくなった」と、告知メンバーに加え、さらに一人フルート奏者を水谷が追加した。
 アレンジは水谷かな。3days全体で300枚ものパート譜を書いたらしい。

 冒頭から白シャツ姿の柳原が登場し、進行もつとめた。一曲くらいは完全インストで、この編成を聴いてみたかった気がする。
 柳原の生演奏を聴くのは初めて。"ふたたび"に収録した曲と、最近のライブで演奏している新曲、半々くらいの構成。Warehouseとのレパートリーは、あえてはずしたか。

「最初はギター。そのあとバンドが入っていきます」
 アルペジオっぽいギターの弾き語りで、柳原は歌った。
 水谷はウッドベースをアルコ弾き。外山が拍の頭を微妙に揺らす、絶妙のドラミングで加わる。シンバルを突っつき、かかとでベンドしながらフロアタムをはたいた。
 1曲目はごくシンプルな編成で演奏された。"新曲"って紹介したと思う。

 続いては全員で、"さよなら人類"。いきなりこの曲をもってくるとは。
 松本の甘いトロンボーンが、とにかく心地よい。ボリュームをぐっと絞り、ふくよかにオブリをかぶせた。
 ほかの金管はまだ学生らしい。ときおり松本がすっと立ち、素早くトロンボーンの先を振って指揮。寛いだ面持ちのアドリブと、厳しい先生役の2面性が伺えた。

 チェロもフルートもコントロールされ、とても美しいアンサンブルだった。大編成のため、前方で聴いてたらバランスがうまくとりづらい。
 外山もリハと響きが違うのか、3曲目あたりでチェロやフルートのモニターのかえりを細かく注文してた。水谷もかな。柳原の影で、彼の演奏姿がいまいち見えず。

 柔らかい響きのアンサンブルが、"さよなら人類"にスリリングなムードを与えた。中間部では時事ねたを柳原が歌う。
 アレンジの響きは中期ビートルズを連想した。金管の響きは、初期シカゴの香りもほんのかすかに。
 バンドメンバー紹介のMCで「下町のジョージ・マーティンって紹介でいい?」と水谷へ、柳原が茶化すように尋ねてた。もしかしたら、あえて意識したのかも。

 前半は45分ほどの演奏で、7曲くらいを演奏した。
 惜しむらくは全員で演奏する曲は少なかった。女性奏者にコーラスをつけたり、金管メインで吹いたり。もちろんその逆も。大人数の編成をあえて分断し、バラエティに富んだアレンジとなった。
 それはそれで楽しいが、全員揃っての響きが格別だったから。
 ちなみに外山は積極的にコーラスをつける。松本もノーマイクで歌った。ふたりともうまく柳原と声が溶けていた。

 字余りなフォークっぽい曲を前半にまとめた気がする。ほかに"オリオンビールの唄"、"たかえさん"、"ブルースを捧ぐ"などを演奏した。
 柳原はギターをかき鳴らし、つぎつぎ歌い継ぐ。リフレインを強調して。
 曲によっては水谷がエレキへ持ちかえる。今夜は柳原を立て、ベースの出音は控えめ。しかしさりげない音数で、きっちりと歌を支えた。彼の歌伴はほとんど聴いたことない。
 外山とのコンビのリズムが、ぴたりとはまって楽しかった。

 "たかえさん"では水谷がスルドを叩き、高良がシェイカーを振る。メンバーは手拍子を打ちハーモニーをかぶせた。

 1st最後は"泣いているのはきみだけじゃない"だったはず。
 「ぼくの曲で初めて、ほかの人を励ました歌です」
 柳原の紹介に、観客が受ける。アレンジは格別な全員アンサンブル。整ったボウイングのチェロがきれいだった。

 短い休憩、最初はリズム隊に高良が加わったコンボ編成で"ジャバラの夜"から。アコーディオンを弾きながら歌い始めると、松本がのっそり登場。そっとトロンボーンでオブリを入れた。
 続けて"オゾンのダンス"を、2曲目に。このセットでも有名曲を惜しげもなく前半に投入の選曲だった。勇ましい響きのアンサンブルが心地よい。

 2ndセットでもっとも気に入ったのが、"サボテンちゃん"。たしかフルートとチェロをメイン、金管は松本がフリューゲル・ホーンを吹いただけ。
 柔らかなメロディもさることながら、フレーズの終わりで「へ〜い♪」とオフマイクでささやく。ノーマイクで指をつと振りながら。この響きが、とっても素敵だった。
 エンディングでは松本がマウスピースを逆にくわえ、静かに音を出す。柳原は腕をゆっくり下げ、フルートとチェロをデクレッシェンドさせた。

 ほかは"ゲームの規則"や"恋はかげろう"など。後半はメロウなポップスが多めだった。
 セットの最後は、"満月小唄"。力強いアンサンブルの響きを踏まえ、柳原は堂々たる貫禄で歌った。

 メンバーが多いため、はけるのもアンコールの登場も大変そう。
 まずは水谷、外山、松本、高良のみをバックで一曲。この日、いきなり持ち込んだそう。"はじまりのうた"と紹介したかな。作曲行為そのものにテーマを置いて作ったという。
 出たとこ勝負のバッキングらしいが、そこは凄腕ぞろい。松本は始終オブリを入れる。歌詞のフレーズを外山が、うまく拾いスネアをロールした。
 水谷も譜面を眺めながら、グルーヴィに低音を操る。
 そしてオブリは松本から高良のビブラフォンへ受け継がれた。

 終わったとたん、いきなり柳原がギターをかき鳴らす。イントロを聴きながら、せわしなく譜面を繰るミュージシャンたち。
 "牛小屋"を威勢よく歌った。とにかく高良が大活躍。フレーズごとに複数のパーカッションを鳴らし分けるが、テンポがどんどん速くなる。あわてながらも大車輪で叩きわけ、見事に一曲を弾ききった。

 メンバーが袖に去るが、アンコールは続く。店の外へ出たメンバーを水谷が呼び集め、全員をステージへ乗せた。
 ちょっと相談、"さよなら人類"を再演することに。
「中間部分のねたが無いよ」
 柳原が苦笑する。結局、即興で歌いきった。アレンジは本編と同一で、改めて楽しい。

 ステージ中央に立ち、楽屋へ消えるメンバーたちと握手を繰り返す水谷。最後にゆっくりと、ステージから去った。
 柳原を前面に出しつつ、水谷の個性をきっちり残す寛げるライブだった。彼の独特の和音感覚はやはり大編成で楽しみたい。

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